第41話 初志貫徹

 ふぅ~、今週は大変だった。大手ギルド、公安、家庭訪問……そして俺がダンジョン神であることが世の中に広まりつつあった。


 チャンネル登録数だって、もう9万人を超えている。驚くべきスピードで増加していた。今日中に10万人を余裕で超えそうである。


 というか……今見たら超えていた。


 アプリに通知が届いて、ステータスアップのお知らせだ。


『チャンネル登録者数が100000人になりました』

『ユーザーの全ステータスがアップします』


 1万人を超えた時は、家庭訪問があって確認する暇もなかった。


 果たしてどのくらいになっているかを見てみよう!


◆東雲八雲 種族:人間

力  :78900 → 787500

魔力 :85000 → 898600

体力 :82500 → 828000

素早さ:67300 → 685700

器用さ:77500 → 766400

魅力 :10000 → 100000



 うああああ!? なんだ! このステータスの桁数は!?

 魅力10万だって……俺は慌ててスマホのカメラを使って自分を確認した。大丈夫か……劇的な変化はない。


 これ以上、両親とお前は誰だ的なやり取りはしたくない。

 ほっと胸を撫で下ろす。アプリのセーブモードによって日常生活には支障はなさそうだ。


 ダンジョン探索していないうちに、ステータスが二段階も上がってしまったので、セーブモードを解除するのに躊躇してしまいそうだ。


 まったくステータスをコントロールできる気がしない。

 そんな俺に朗報が届いた。


『アプリのセーブモードに段階を選べるようになりました』

『音声認識によって指定できます』


 やった! これこれ!

 段階を確認してみると、日常という項目以外にギア1からギア5まであった。

 ギアを上げるごとに、反映されるステータスも上がっていくようだ。


 今は日常モードのままだ。納屋で装備を整えている最中だった。

 家庭訪問で父さんから、学年で一位を取り続けることでなんとか探索者も続けられることで話は落ち着いた。


 定期テストまで一ヶ月ほどあるので、それまでは勉強に専念するなり、探索者として活動するなり、好きにしていいことになった。

 俺は探索者として活動しながら、勉強も頑張る道を選んだ。

 家庭訪問の結果、良い感じに着地できたのは、周りの人たちのおかげだと思う。それと父さんと母さんに予め初級ポーションの効果を実感してもらっていたのも大きかった。


 当面ダンジョン探索が続けられるようにしてもらえたので、俺からの感謝の気持ちとして、毎日両親に初級ポーションを献上している。


 そして、本日は日曜日。アリスとリオンと新宿ダンジョンで一緒にボス狩りをする日だ。


 仁子さんを誘ってみたけど、断られてしまった。新宿ダンジョンは初心者向きなので付いて行っても、楽しく戦えないそうだ。

 もっと上級者向きのダンジョンに行くときに、誘ってほしいと言われてしまった。

 そして彼女は今北海道の知床で新しく発見されたダンジョンを探索している。かなりの高難度ダンジョンらしく、仁子さんはウキウキで旅立っていた。

 知床ダンジョン! 俺も興味があります! 新しいダンジョンなので動画映え間違いなしだ。


 でも今回は新宿ダンジョンで初心に帰る。

 そういえば、仁子さんからこのダンジョンでは、氷魔法のアイシクルやニブルヘイムを使わないように指導された。大勢の探索者……それも初心者がいるダンジョンで魔法を使えば大惨事になるからだ。

 もちろん、炎魔法ボルケーノも駄目だ。メルトは以ての外だと絶対禁止された。


 いくら俺でもメルトを新宿ダンジョンで使うつもりは微塵もない。

 自分すらも焼き尽くすメルトを使えば、新宿ダンジョンで大量殺人犯になってしまう。

 そんなことになれば母さんは失神するだろう。ダンジョン神からダンジョン邪神にジョブチェンジだ。


 魔法が禁止されても、俺には魔剣フランベルジュがある。

 この燃え盛る魔剣を使えば、簡単にモンスターを薙ぎ払えるはず。


 ということで、待ち合わせ時間も迫ってきた。

 ダンジョンポータルを新宿ダンジョンへセット!

 ポータルの光が黄金色に変わったことを確認!


「準備完了! レッツゴー!」


 俺はポータルへ飛び込んだ。出た先は、ゲートから離れた袋小路。

 ここはモンスターが発生しない場所なので、人がほとんどいない。

 予想していた通り、探索者はいなかった。

 ゲート付近をちょっと見てみると探索者でごった返している。

 そして、販売ゴーレムの前に長蛇の列ができていた。


「あれから増やしたのに、まだ数が足りないのか!?」


 運用している側としては、消費者の要望に答えないといけない。

 販売ゴーレムを20体追加した。


 どうだろうか……列が分散して、良い感じになるかな?

 おっとまだ混み合っているぞ。


 こうなったら、更に20体だ。


「どうだ、これで!」


 良い感じに初級ポーションが購入できるようになったぞ。

 根詰まりしていた販売を改善したことで、集まる素材が爆発的に増え始めた。それに合わせて自動クラフトも大忙しといったところだ。


 実際に現場を視察すると、想像していたよりも大繁盛だった。

 これを見るに、手動でクラフトして供給するには不可能だろう。

 自動クラフト機能があって本当に良かったと思う。


 それにしても、探索者が多い。以前はブルースライムが沢山発生していたのに、出現したらすぐに狩られてしまうため、全く見当たらない。

 ブルースライムは日本ではこのダンジョンでしか現れないモンスターだ。それも合わせて、熾烈な争奪戦になっているようだった。


 たまにガラの悪い探索者が、ブルースライムの横取りをしていた。

 これは良くないぞ。俺はその探索者たちをすぐにブラックリストに追加した。

 このような狩りは良くないなと思っていると、アプリから通知が届いた。


『アプリのブラックリスト機能に素材の不正入手禁止が追加されました』

『機能を有効にしますか?』


 どうやら素行の悪い探索者をブラックリストに入れる機能のようだ。

 他人のモンスターを横取りしたり、ドロップ品を盗んだりする探索者が対象となる。


 俺は迷うことなく有効にした。

 販売ゴーレムで初級ポーションを買おうとしていた探索者の数名がいきなり声を上げた。

 買えなくなったことを怒っているみたいだ。

 そして販売ゴーレムに苛立ちをぶつけるように暴力を振るう。しかし、販売ゴーレムは強かった。

 正拳突きを一発! いとも簡単に探索者をのしてしまった。


 俺も知らなかったが、販売ゴーレムには自己防衛機能が備わっているようだ。

 この調子なら、任せておいても安心だ。ダンジョン神もにっこりである。


 さてと、そろそろアリスとリオンと待ち合わせ時間だ。

 俺は鞘から魔剣フランベルジュを抜いて、素振りをしながら彼女たちを待った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る