第42話 ダンジョン神
魔剣フランベルジュをブンブン振り回していると、アプリから通知が届いた。
おおおっ!
販売ゴーレムの働きを監視していたので、大事なことを忘れるところだった。
新しいレシピがお知らせが届いたのだ。
ダンジョンにやってきてすぐに通知が来なかったから、ここではもう新しいレシピが貰えないのかと思っていた。
どれどれ、今回のレシピはなんだろう。
おいおい……マジかよ!
なんて素晴らしいアイテムだ!!
またダンジョン探索に革命を起こしてしまうかもしれないぞ!!
◆ドロップ増加剤の素材
・ブルースライムキングのコア ✕ 1
鑑定でドロップ増加剤について調べてみる。
思った通り、使用するとドロップ品が二倍になる効果があるようだ。
ドロップ品を集める効率が二倍!
なんて素晴らしい響きだろう。
効果時間があって、一度飲むと24時間も持続する。
十分過ぎる時間だ。俺の場合、ダンジョン探索しても数時間ほどなので、沢山のお釣りがきてしまう。
そして、素材に必要なドロップ品は、新宿ダンジョンの有名ボスモンスターから得られる物だった。
今の新宿ダンジョンでは初級ポーションを求めて、ブルースライム狩りがメインになっている。そのため、ボスモンスターは閑古鳥が鳴いているだろう。
ブルースライムキングことスラキンを倒して、ドロップ増加剤をゲットするぞ! そして、それを飲んでスラキンをまた倒せば、量産体制が整うぜ!
ウホウホしていると、アリスとリオンがやってきた。
「久しぶり! くもくも」
「最近すごい人気だね。ダンジョン神を拝んでおこう」
二人とも出会ってすぐに俺を本当に拝み始めた。
「なんの御利益もないですよ。アリスの剣……いや刀を新調したんですね」
「はい、良い業物が手に入りました」
アリスが腰に下げている刀はめっちゃカッコよかった。まだ鞘から抜いていないのにだ。
やっぱり刀にはロマンがある。
名前は村雨。鞘から抜かれた刀身は淡く紫色の光を帯びている。ミスリル合金を使って鍛えられたという。
「高かったんじゃないですか?」
「そこそこね。それよりも、くもくもの装備が一新されているね。配信で知っていただけど」
「魔剣フランベルジュをクラフトするLIVE配信は凄かったね! フェニックス戦で、僕はくもくもが死んじゃうかもって思っちゃったよ」
「本当に死にましたけどね」
「あれにはびっくりだよ。見ていた人全員がそうだったと思うよ。蘇生のペンダント様々だね」
リオンが首に下げた蘇生のペンダントを見せながら言う。このペンダントは俺があげたものだ。
彼女が言うように、このアイテムがなかったら、俺は沖縄ダンジョンの最下層でミディアムステーキのままだっただろう。
まさに放送事故である。
「くもくも、チャンネル登録数10万人超え! おめでとう!」
「おめでとう! やるね、くもくも!」
二人に褒められて、少しだけ照れくさかった。
「そういう二人も5万人超え、おめでとうございます!」
「ありがとう! くもくもはもっと伸びるよ」
「あっという間に追い越されちゃったね。こちらからコラボ配信をお願いしたいくらいだよ」
「アリスとリオンのファンに目をつけられると、ちょっと大変なので……」
「あはは、そういうと思った」
彼女たちのファンは熱狂的過ぎて、男の配信者がコラボするには二の足を踏んでしまうほどなのだ。それもあって今日は配信なしで、ダンジョン探索を楽しむことになったわけだ。
俺はダンジョン神として世間に広まりつつある状態にまだ慣れてない。それに加えて、面倒事を抱え込むのはできる限り避けておきたかった。
ファンについて聞いてみると、応援してくれるのは嬉しいが扱いにちょっと大変そうだった。二人とも苦笑いした。
やっぱり有名になるって大変なんだな。俺もしみじみと思ってしまう。
「ここは混み合っているので下の階層へ行きますか?」
「そうしよう!」
「うん」
今回の探索では、リオンも戦いに参加する。いつも持っているカメラは置いてきたという。
探索者としての活動はアリスが一手に引き受けてきた。そのため、リオンは今回のダンジョン探索を楽しみにしていたみたいだった。
手にしていた武器は槍だった。一歩引いたところから攻撃できるため、初心者の探索者にはおすすめとされている武器だった。
歩きながら、槍を見せてもらった。
「結構軽いんですね」
「私は探索者としてまだまだだから、軽めの物を作ってもらったんだよ」
「これもオーダーメイドですか!?」
「そうだよ」
うあ……すごい。どこで作ってもらったのかを聞いてみたら、タルタロスギルドの鍛冶屋だった。
「大手ギルドとコネクションがあるんですか?」
「まあね。最近、ダンジョン探索をするためのスポンサーになってもらったんだ」
「将来的にタルタロスギルドに所属されるんですか?」
「それはわからないかな。アリス次第だけどね」
先を歩くアリスを見ながら、リオンは言う。
このまま独立系のダンジョン配信者として邁進していくのもいいけど、ギルドに所属すると手厚いサポートが受けられるので悩ましいところなのだという。
「くもくもはタルタロスギルドに興味があるの?」
「いや、そういうわけではなくって。今、学校生活をタルタロスギルドの探索者に護ってもらっているんで」
「ええっ、すごいじゃん。VIPだね! さすがはダンジョン神っ!!」
やっぱりタルタロスギルドから護ってもらうのはすごいことみたいだ。しかも、ランクS級の探索者なんて言ったら、リオンはもっとびっくりすることだろう。
わいわいと会話しながら、第二階層への大階段に向けて進んでいると、8人のパーティーに呼び止められた。
「おい、お前……ダンジョン神だろ」
「間違いないぞ、動画配信しているやつと同じ顔だ。ちょっといいか?」
「なんですか?」
このパーティー……新宿ダンジョンには似つかわしくない装備をしている。見た目でわかる高価な装備だ。
それにとても威圧的で偉そうだった。
「ちょっと聞くけどさ。なんで俺たちが初級ポーションを買えないわけ?」
「なんかお前に悪いことした?」
「おい、聞いてやっているんだぞ。黙っていないでなんか、答えろよ」
「女を二人引き連れて、いい気になっているんじゃねよ!」
最後の言葉は初級ポーションが買えないことに全く関係ないだろ。
このパーティーはもしかして俺を脅して、初級ポーションを買おうとしているのか?
「わざわざ、こんな場所まで出向いてやったのに、買わせろよ。ちゃんと素材はあるんだ。なあ、おかしくないか?」
「普通の探索者なら買えるはずですよ。なにか心当たりはないですか?」
「俺たちが質問しているんだ。勝手に質問してんじゃねぇ!」
この言葉でアリスとリオンの怒りは頂点に達したようだ。
俺の後ろでメラメラと好戦的にオーラが巻き上がっていた。
それを手を横にして制しながら、俺は彼らに言う。
「残念ながら、買えるかどうかは販売ゴーレムが判断します。買えないと言うなら諦めてください」
「なんだと! ダンジョン神とか呼ばれて調子に乗っているんじゃねぇ。俺たちがその気になったら、どうなるかわかっているのか?」
「ここはダンジョンです。力を向けるべきはモンスターのはずですが?」
「減らず口を言いやがって、ふざけるなっ」
苛立った8人の探索者が一斉に俺に襲いかかってきた。こいつら、本当に現代人なのか、怪しくなってしまうほど身勝手なやつらだ。
探索者として強くなれてしまうから、何かを勘違いしてしまうのだろうか。
「アリスとリオンは手を出さないで」
「大丈夫なの!?」
「相手は8人。僕たちも加勢するよ!」
「いや、問題ない。俺、自分で言うのもなんだけど……強いから」
相手の動きから、大した探索者ではない。
俺はどのくらいのステータスで迎え撃つべきかを考えていた。
ギア5のフルステータスでは、オーバーキル間違なし。
アリスとリオンにトラウマを植え付けてしまうほどの戦いになるだろう。
う~ん、ギア2くらいで良いかな。
「ステータス、ギア2!」
襲ってくるパーティーは流石に武器を手にしていなかった。それは殺人未遂行為だからな。
俺も素手で語るとしよう。
セイッ、ヤー!
一人目の拳を躱して、腹パン。そして迫ってくる二人目に回し蹴り。
攻撃した二人はノックダウンだ。
「まだやりますか? これ以上は不毛だと思いますが?」
「この野郎……」
「探索者ならわかるはずです。力の差があれば、何人いようが覆すことはできないことを。あなたたちの力では、たとえ1億人いようが、俺には勝てませんよ」
「このぉ偉そうに……」
「もしかして、俺があなたたちの名前を知らないとでも思っていますか?」
俺はスマホのアプリからブラックリストを出して、今いる探索者たちを検索する。八人の探索者の実名が表示された。
「田中裕二、三島武志、川中賢也、山口蓮、和気基博、木村昴、山田治郎、本田大雅」
「ど、どうして名前がわかるんだ……」
実名を呼ばれて襲ってきた探索者たちは、動揺していた。
「それは秘密です。今、あなたたちの所業の証拠映像と名前を添えて、知り合いの国家機関に送りました。ダンジョン内であっても、やってはいけないことはあります。然るべき、処罰を受けることになるでしょう」
スマホを操作して、西園寺さんへ送った。彼女から何かあったら連絡してほしいと言われていた。
これでどうなるか……公安のお手並み拝見である。
「くっ、本当に……マジかよ……」
「ええ、マジです。これ以上罪を重ねないように、お引取りください」
襲ってきたパーティーは立ち尽くして、動くことができずにいた。
これ以上、ここにとどまる理由もない。
「二人とも行きましょう!」
スラキンが俺たちを待っているのだ。こんなところで時間を使っている場合ではない。
そんな俺にアリスとリオンが言ってくる。
「すごく強くなっている。まだ本気じゃないんでしょ?」
「まあね。本気になったら、フェニックス戦の再来ですよ」
「メルトなんて使ったら絶対に駄目だよ! 冗談じゃすまないから!」
「もちろん。今回は魔法は使わない縛り探索なんです」
「なら良かった」
どうやら、二人は俺が炎魔法メルトを使うんじゃないかと恐れていたようだ。そんなことしたら、地獄絵図だ。
メルトを使う時は、自分だけ焼け死ぬときだけと決めているのだ。
「ねぇ、国家機関に送ったって言っていたけど、どこ?」
「……公安」
「マジで!」
「うん」
「流石はダンジョン神! コネクションが私たちとは違うね!」
どうやら今回の騒ぎで見ていた探索者たちに、俺の強さが広まったようだ。その後、俺に絡んでくる探索者は誰一人としていなかった。
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