第77話 登校中
登校時に仁子さんと合流。
彼女は相変わらず朝から元気だった。
俺が入道雲を見上げながら歩いていると、
「今日のニュースを見た?」
「いや、まだ見ていない。何かあったの?」
朝は両親の若返り事件でそれどころではなかったのだ。
テレビは付いていたけど、誰も見てはいなかった。
それにしても、どんなニュースなのだろうか?
仁子さんが興味を示すと言ったらダンジョン絡みかな?
あれこれと予想していると、仁子さんはニヤリ顔になった。
「知床ダンジョンよ」
「ああ! 人気みたいだね。販売ゴーレムの売上からわかるよ」
「あまりにも多すぎて、制限がかかっているみたいよ」
「そんなに!」
「途轍もない大人気ね。やっぱり中級ポーションを買いたい人が多いのよ。とんで効果だから当たり前といえば当たり前ね」
「そういえば、タルタロスギルドで怪我を理由に引退した人に、中級ポーションを飲ませたの?」
そう聞くと、仁子さんが嬉しそうに返事をした。
「もちろんよ。多くのギルドメンバーが復帰したわよ。これも八雲くんのおかげね」
「よかったね!」
「うん。それで彼らが八雲くんにお礼をしたいって言ってね。君のログハウス工事を手伝ってくれたのよ」
「そうだったの!? だったら、言ってくれたら良かったのに」
「彼らにとって、八雲くんは神みたいな存在だからね。そうやすやすとは、話しかけられないのよ」
「ええっ、そんな大した者じゃないのに……」
仁子さんはわかってないなという風に、ブンブンと首を横に振った。
「失った手足なんかが元に戻るだけで、普通なら奇跡だよ。それがこんな小瓶に入ったジュースを飲むだけで、完全復活だからね。これはもう神の御業だよ」
「そんなにも持ち上げられても何も出ないよ」
「八雲くんって謙虚ね。別にドヤしても誰も文句を言わないと思うけど」
俺はドヤをするためにアイテムクラフトをしているわけではない。それが楽しくて面白いからだ。
結果的に、誰かの救いになっているのなら、とても嬉しいことだ。
「それよりも、中級ポーションですごい効果がわかったんだ」
「なになに? パワーアップとかしちゃう?」
「結構近いかも」
「もったいぶらないで、早く教えてよ!」
焦らしすぎたかもしれない。
仁子さんが、頭にある二本の角で威嚇を始めた。
あれに突かれると、地味に痛いのだ。
「わかったよ。わかったから落ち着いて! 実は中級ポーションを元気なままで飲み続けると、若返るようなんだ」
「本当!!」
「うん。親で試したらから間違いないよ。飲み続けて一週間ほどで効果が出てきて、二週間で見違えるほど若返るよ」
「どのくらい若返ったの?」
「えっとね。40代から20代後半くらいかな」
「若返りすぎっ!?」
大声で仁子さんが言うものだから、通行人たちがこちらを見てびっくりしていた。
俺は彼女をなだめながら言う。
「これほどの効果があるとは思ってもみなかったよ。初めはちょっと若くなったかなって感じだったから。とりあえず、このまま飲み続けて20歳くらい若返るかを試しているところだよ」
「恐れしすぎるわ……なんてこと」
「俺たちには必要ないかもしれないけど、すごいことだよね」
「これは革命よ! 探索者ならずっと現役で戦えるわけだし。女性なら今までの美容グッズはゴミなってしまうわ」
「このことを次の配信で公開しようと思っているんだ」
「それは駄目よ! まだ早いわ!」
仁子さんが言うには、すでに回復効果で中級ポーションは大人気商品となっている。この状態でも知床ダンジョンに入るために制限をかけているくらいだ。
それが若返れますとなったら、その獲得競争は熾烈を極めるだろう。
「老いないってことは、不老不死じゃん。やばすぎ! 全世界の生命科学者が追い求めていたものが手に入ったということね。流石はダンジョン神ね」
「褒めても何も出ないよ。まあ、寿命まで伸びているかは、まだわからないけどね」
寿命についての効果を調べるためには、とても長い期間が必要となりそうだ。
もし、寿命も延命できたのなら、俺たちは人間というよりエルフみたいな存在になってしまうのかもしれない。
「人生無限時代が到来の予感よ」
「そうなったら年金制度は崩壊だね」
「私は無限に探索者をしていると思うわ」
「そう言うと思ったよ」
俺も同じだと思う。
もし無限に生きれたら、探索者をやってアイテムクラフトをして、お金が稼ぐ。そのお金を投資に回して、株や債券を買いまくる。この無限ループだ。
今も資産が訳の分からないくらいになっているけど、それがおそらく無限大に飛んでいくだろうな。
そう考えると、そろそろ会社かギルドを立ち上げる時期なのかもしれない。俺一人では、お金の面で管理が難しくなってきているのだ。
父さんには相談に乗ってもらっているのだが、金額が金額なので手に負えないと言われ始めていた。
母さんには相談できていない。それはあまりにも桁数が多いため、気を失いかねないのだ。父さんからも母さんの精神衛生上良くないと言われていた。
俺は意を決して仁子さんに相談する。
「最近、会社かギルドを立ち上げた方がいいのかなって思っているんだ」
「マジで! そうだよね。八雲くんのレベルになれば、必然かもね。それならギルドの方がいいかもね。探索者として一番恩恵が得られるのがギルドだから。それなら西園寺さんに相談してみるのが一番かも。中立の立場で助言はもらえると思うわ」
仁子さんはタルタロスギルドのメンバーなので、どうしても自分のギルドになってしまうかもしれないという。
「ギルドを立ち上げて、人手が欲しいならタルタロスギルドから派遣も可能よ。でも、ギルド提携となってしまうかもね。一応、営業ということで聞き流しておいてね」
「ありがとう。西園寺さんに今度聞いてみるよ」
「もしギルドを立ち上げるとして、名前を考えているの?」
「まだかな」
そこまで具体的には考えていない。
アラスカダンジョンを攻略したら、検討を始めようって感じだ。あと期末試験が終わってからだ。
なぜなら、期末試験をクリアしないと探索者を続けられないからだ。ギルドを作りましたけど、探索できませんでは目も当てられない。
そうだ! 仁子さんに期末試験の探りを入れてみよう。
「ところで仁子さん」
「なによ。改って……」
「期末試験の方に向けての調子はどうですか?」
「ああ……なんだ。そのことか、問題なしよ」
一切の迷いのない瞳で返された。
すごい自信を感じる。この前に、全教科で満点を取るなんて、冗談交じりに言っていたが……これは本気かもしれない。
仁子さんはギルドでいつも忙しそうなのに、どこに勉強をする時間があるのだろうか。
やはり頭の出来が違うというやつなのだろうか。
「手加減はありかな?」
「それはないわ。やるなら全力よ!」
これはマジで睡眠時間はなさそうだ。
中級ポーションで回復しながら、頑張ろう!
「俺も仁子さんに負けないように努力するよ」
「その意気ね。そういえば、ワシントンダンジョンにはいつ行くつもり?」
「そうそう、その相談をしておきたかったんだ。明日か明後日には探索を始めようと思っていて、仁子さんの都合はどう?」
「明日は駄目ね。ギルドの会合があるのよ。明後日なら空いているわ」
「了解! なら、明後日からワシントンダンジョンだね」
タルタロスギルドの幹部クラスが三ヶ月に一度、東京に集まって近状を報告し合うらしい。
大手ギルドとなれば、そういうこともあるのか……なんて思っていると、意外なお誘いがあった。
「八雲くんも来る? スペシャルゲストとしてどうかな?」
「えっ!? いいの? 極秘情報とかあるんじゃない?」
「大丈夫、大丈夫。ほとんど、八雲くんについての話し合いだから」
「俺!?」
「君がアイテムを次から次へとクラフトするからよ。当人が来てくれるなら、みんな歓迎すると思うわ」
「どうしようかな……」
悩んだ挙げ句、参加することにした。
だって、大手ギルドの会合なんて、どのような感じなのか気になるじゃないか。
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