第78話 飛行

 翌日、俺は学校が終わるとすぐに家に帰った。カバンだけ置いて、外へ出た。

 ステータスをギア6に設定。

 天使の翼が背にあるのを確認。


「仁子さんの家へ、レッツゴー!」


 今日はタルタロスギルドの会合にスペシャルゲストとして参加することになっていた。

 両親には、事情を説明して帰りが少し遅くなると伝えた。

 反対されるかと思ったら、仁子さんも同伴ということで、あっさりと許可された。

 両親の仁子さんへの信頼は、すごい!


 父さんから、自分の知らない世界を見てくることは、今後の俺のために良いことだと、背中を押してくれた。


 俺は空を飛びながら、高く高く上昇する。

 こうして空から見ると、俺が住んでいる町はとても小さかった。

 地上からとは、当たり前だけど全く違った景色だ。

 果たして、タルタロスギルドの会合に参加して、このようなことが起こるのだろうか。


 それは参加してみてのお楽しみだろう。


 おっとのんびりはしていられなかった。すぐに仁子さんの家に向かう。

 仁子さんは豪邸にある庭に佇んでいた。


 そして俺の存在に気がついて、手を振って下りてくるようにサインをした。


「おまたせ!」

「これを見て、良い感じよね」

「ああ、この前のやつだね」


 庭には大きなエメラルドの塊が鎮座していた。

 それを取り囲むように日本庭園が作られている。池もあり、色鮮やかな錦鯉が元気よく泳いでいた。

 水面で口をパクパクさせて、俺に餌を求めていた。この行動から、錦鯉は大切に扱われているようだ。


「いつもで鯉を見ているつもり?」

「エメラルドの塊をこの前に置いたばかりなのに、ここまでの庭園になっているのにびっくりしただけ」

「八雲くんのログハウスもぱぱっと作ったでしょ。探索者の力を持ってすればすぐよ」


 タルタロスという大手ギルドだからなせる荒業のような気がする。

 ログハウスの内装工事はバッチリ完了しており、家の自室よりも快適なので、俺はそっちの方で勉強をしているくらいだ。


「じゃあ、そろそろ行こうか?」

「道案内をお願いします!」

「はい、任されました。しっかりと付いてきてね」


 仁子さんは竜の翼を出して、飛び立った。

 俺も彼女に置いていかれないように後を追う。


「飛ばしていくわよ。予定より早く始まるみたい」

「マジで!?」

「八雲くんが来るって言ったら、そうなったのよ」

「もしかして、歓迎されていない?」

「さあね。八雲くんが来るまでに、内々の話を終わらせておきたいのかもね」


 俺はタルタロスギルドのメンバーではない。スペシャルゲストといえども、聞かせたくないことはあるだろう。


 そういうことなら、俺が気にしてもしかたない。


「スピードを上げるわよ!」

「オッケー!」


 仁子さんの飛ぶスピードはぐんぐん上がっていく。

 渡り鳥もびっくりのスピードだ。

 俺は渡り鳥の輪に加わって飛びたかったけど、そうはいかない。

 スピードを上げると目に風やゴミが入ってきて、開けてはいられなくなってくる。

 そうだ! こんな時は、結界の指輪だ。

 マイティバリア!


 おおっと! これはいいぞ。

 風やゴミから守ってくれる。お目々ぱっちりだ。


「仁子さん、仁子さん! 朗報だよ」

「どうしたの?」

「これを使ってみて」


 俺は先を飛ぶ仁子さんに追いついた。

 予め、クラフトしていた結界の指輪を渡した。

 元々、これは彼女に渡そうと思っていたものだった。


 一緒にダンジョン探索をするからには、仁子さんにも俺が扱う魔法から身を守ってもらう必要があった。

 この結界の指輪があれば、俺も気兼ねなく炎魔法メルトを繰り出せる。

 仁子さんは突然渡された指輪に少し戸惑っていた。


「えっ、どういう意味?」

「これがあれば、結界魔法マイティバリアが使えるから、風やゴミから目を守れるよ。熟練度を上げれば、メルトからも見を守れると思うよ」

「いいの? こんな希少なものを?」

「だって一緒にダンジョン探索した報酬だよ。これからも一緒に探索したいから、もらってもらえると嬉しいかな」

「……ありがとう! 大事にするわ」


 喜んでもらえてよかった。

 自分がクラフトしたアイテムを有効利用してもらえるのは造り手として嬉しいものだ。


 早速、仁子さんもマイティバリアを展開していた。


「めちゃくちゃいいじゃん! これは使える魔法ね」

「でしょ! 身を守るなら最高の魔法だと思う。熟練度が上がれば、上位魔法が使えるようになるからね」

「楽しみ!」


 仁子さんはノリノリで飛んでいく。更にスピードが上がったような気がする。


「どんどん行くわよ。八雲くん、ちゃんと付いてきてよ」

「ちょっと待ってよ」

「残念、待ちません!」


 うおお! マジかよ。置いてiいくつもりかってくらい飛んでいく仁子さん。

 まあ、そのくらいのスピードじゃないと、東京まで時間がかかってしまうだろう。

 元々、ダンジョンポータル経由で新宿ダンジョンから行こうと提案した。だけど、仁子さんが空を飛んでいきたいと言ったのだ。


 実際に空を飛んでみると気持ちがいいものだった。

 これほど長距離を飛んだことはなかった。


 ほとんど家の周りを飛行していたくらいだ。

 そんなことをしていたら、ご近所さんから東雲の息子が天使になって空を飛んでいると大騒ぎになったものだ。


 今日は思いっきり飛んでやるぞ。なんて思っていると、


「八雲くん、ギルド立ち上げの件はどうなったの?」

「ああ、それは……」


 西園寺さんに相談したら、反応は芳しくなかった。

 現在、東雲八雲の個人として、保護をしているそうだ。

 それがギルドになると、他のギルドから特別視されていると言われかねなかった。


「俺が只今公安のお世話になっているのがまずいみたい。西園寺さんのサポートをこれからも受けるためには、ギルドは無理かな」

「そうなんだ。でも一人じゃ大変じゃない? その話だとうちから人を派遣するのも難しそうだけど」

「それで、西園寺さんから提案があったんだ」

「どういったものなの?」


 仁子さんは興味津々だ。

 何かと世話を焼いてくれるので、彼女は優しい人だと思う。


「西園寺さんの方で人を派遣してもらえることになったんだ。もちろん、報酬は支払うよ」

「公安絡みの人なの?」

「多分そうだと思う。近々面談をする予定なんだ」

「えっ! なら、私も参加するわ」

「仁子さんも!?」

「念のためよ」

「まあ……いいけど。西園寺さんにも確認を取ってみるね」


 仁子さんは西園寺さんを警戒しているフシがある。

 それでも、彼女が面談に加勢してくれるのは力強い。


「いい人が来るといいね」

「そうだね。時間がかかると聞いているから、アラスカダンジョンの後くらいになりそうかな」

「わかったわ。じっくりと面談させてもらうわ」


 おや? 仁子さんが面接官のような感じになっているぞ。

 まっいいか。彼女に厳しい目で審査してもらったほうがいいかも。

 仁子さんと一緒にダンジョン探索をするので、彼女との相性も大事だと思ったからだ。


「ほら、目的地が見えてきたわ!」

「東京ってやっぱり大都市だよね」


 上空から見た東京は、俺が住んでいる町など比にならないほど広大だった。

 俺たちは高層ビルを掻い潜りながら、先に進んだ。

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