第70話 仁子人気
第二階層は、上の階層よりも探索者で溢れかえっていた。
話には聞いていたが、ここにいるモンスターを倒すと、宝石がゲットできるらしい。
しかもその宝石はかなり大きく純度も高いので、高額で取引されている。
「この階層には、有名なジュエルビーストがいます。倒すと、様々な宝石がドロップできます。やはりいちばん価値がありそうなのは、ダイアモンドでしょうか」
仁子さんがジュエルビーストを探しているけど、すでに他の探索者が戦っている。
横槍はマナー違反だ。
戦えるジュエルビーストを見つけるまでは、指を加えて見ているしかない。
西園寺さんは特に興味がなさそうにしていた。それよりも俺たちの警備で目を光らせるのに忙しそうだった。
「ホワイトさんは、宝石とかに興味がないんですか?」
「加工されたアクセサリーなら、興味がありますよ」
思っていたとおりだった。
なにか興味があるものがあれば良いのだが……。
あっそうだ!
「今、両親を使って中級ポーションの効能を調べているんですけど、なんと若返り効果があるみたいなんです!」
「本当ですかっ!!」
めっちゃ食いついていた。鬼気迫るとはこの事を言うのだろう。
「俺の両親は二人とも40代後半なんですけど、中級ポーションを一週間ほど飲んで、30代前半くらいまで若返っているんです。これってすごいと思いません?」
「それはもう秘薬ですね。素晴らしい!」
視聴者たちもその話を聞いて、興奮しているようだった。
どこまで若返えれるかは、飲み続けてみないとわからない。果たしてどうなることやらである。
「ホワイトさんも試しに飲んでみますか? 実験体みたいな感じになりますけど」
「えっ、いいですか?」
「いつもお世話になっておりますから」
「なら、お言葉に甘えて」
中級ポーションを西園寺さんに渡した。
彼女は仮面の隙間から控えめに飲み干した。
「うっ……ぎゃあああ」
西園寺は地面をのたうち回った。周りにいた探索者たちが、何かのパフォーマンスかと勘違いして、面白そうに見守っていた。
本人はそれどころではないようで、ボキバキと骨が動く音が豪快に聞こえてくるほどだった。
S級探索者といえども、西園寺さんも他の探索者と同じように長年体を酷使してきたのだろう。
息も絶え絶えの彼女がやっとのことで立ち上がった。
「はぁはぁ……これが噂の回復痛ですか」
「体が悪ければ悪いほど、痛みを伴います。でも、一度乗り越えれば、二回目からは大丈夫ですよ。通過儀礼みたいなものです」
俺はアイテムボックスから中級ポーションを数本取り出す。
「とりあえず、一週間分を処方しておきますから、効果を教えて下さいね」
「若返れるなら、これくらい大したことないですよ」
仮面の下から、脂汗が滴っているけど大丈夫なのだろうか。少々心配である。
俺としてはいろいろとお世話をしてくれる西園寺さんとは長い付き合いになりそうなので、健康であって欲しいところだ。
西園寺さんの疲れやその他諸々が解消されたところで、仁子さんを探した。
彼女はジュエルビーストを求めて、ダンジョンの奥へ行ってしまったみたいだった。
「仁子さんは、ジュエルビースト戦を楽しみにしていましたからね。ドロップ品でアクセサリーを作るって息巻いていましたし」
「ここで取れる宝石は日本の探索者の間でも特に人気ですからね」
ジュエルビーストは日本のダンジョンにいないアメリカだけのモンスターだった。
仁子さんは金塊などの貴金属には興味なさそうだったが、宝石は別なようだ。
俺のアイテムボックスには、どんどん宝石が溜まってきている。それだけ、仁子さんがジュエルビーストを狩りまくっているということだ。
「せっかくなので、俺たちも狩りますか?」
「ダンジョンがこれだけ広ければ、仁子さんの狩り残しもいるでしょうね」
俺が鞘からフランベルジュを抜いて、魔力探知をする。
「この奥へ進んだところに、ジュエルビーストが群れをなしています」
「そのようですね」
「ホワイトさんも、魔力探知できるんですか?」
「それはもちろんです。これは必須能力ですね」
言われてみれば納得だ。
探索者関連で動いている公安なら、魔力探知くらいできないと対象者を追跡や保護などが難しそうだ。
「他にもいろいろとできるんですか?」
「それは秘密です」
うむ……今回の探索で披露してもらえることを祈ろう。
俺と西園寺さんは、ジュエルビーストの群れがいる地点まで駆けっていく。
俺のステータスはギア5まで上げているけど、彼女は遅れを取ることなく余裕でついてくる。
これなら、おそらくギア6以上の力を持っていそうな感じだ。仁子さんが西園寺さんを日本で最初のS級探索者だと言っていた。その実力はまだまだ計り知れない。
「先手必勝と行きますか」
「そうしましょう」
俺は氷魔法アイシクルを連発して、目に見えるジュエルビーストたちをぶち抜く。
その俺の横を西園寺さんが駆け抜けて、残ったジュエルビーストたちを双剣で流れるように切り崩していった。
「すごい! 何かの流派とかの剣術ですか?」
「自己流です」
これが天賦の才というやつか。
俺のセイッ、ヤーという二段斬りとは大違いだ。
「くもくもさんは、剣術に興味があるんですか?」
「はい。動画を見ながら、真似をしているんですけど、うまくいかなくて……」
「なら、今度知り合いに剣術を修めている者がいますので紹介しましょう。中級ポーションのお礼です」
「やった!」
ふふふっ……これで俺も剣豪の仲間入りだ!
それは言い過ぎかもしれないけど、今よりも動画映えること間違いなしだ。
とうとうセイッ、ヤーから卒業することになりそうだな。
仁子さんからも、その素人丸出しの戦い方はやめたほうが良いと助言をもらっていることだし。
「そう言えば、片桐さんはかなり奥に行かれているみたいですね」
「単独先行し過ぎかも」
初めての海外ダンジョンで楽しくなりすぎるのもわかるんだけど、気をつけないと面倒事に巻き込まれた後では遅い。
というか……俺と西園寺さんは頭を抱えた。
「この魔力の感じ……まさか」
「そのまさかですね」
仁子さんが、他の探索者たちと一戦交えているぞ。
あれ? スティーブンさんとルドルフさんはどうしているんだ。こんな事にならないために、陰ながら見守ってくれているはずなのに!
俺たちは急いで現場に急行した。
「何だこれは!?」
「予想とは違いますね」
探索者たちが仁子さんを取り囲んで、声援を上げていた。
しかもその輪に、スティーブンさんとルドルフさんもいるじゃないか!?
何やっているんだ……この二人は!
「仁子さん、何をしているの?」
「ああ、くもくも! いいところに来たわね。今、現地の探索者たちに頼まれて腕試しをしているの。料金は宝石1個よ」
ゴツい男たちに仁子さんは大人気のようで、我先にと挑戦を志願してくる状態だった。
それを見て西園寺さんが頷きながら言った。
「片桐仁子さんは、日本でも大人気ですがアメリカでも大人気なんですよ。彼女は可愛いくて強いですか」
「それにしてもすごいですね」
恐るべし仁子さん人気だ。
彼女の前では俺程度なんかモブに過ぎないことを実感した。
仁子さんに殴り飛ばされる探索者たちは実に幸せそうだった。
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