第69話 三人パーティー

 初の海外配信である!

 それもアメリカでメジャーなワシントンダンジョン。

 探索者たちの出入りも、日本の新宿ダンジョンと比べ物にならない。

 視聴者たちに、第一階層の様子を映して実況する。


「見てください。このクリスタルダンジョンの広さを! アメリカサイズと言わんばかりの大きさです。アメリカは日本に比べて、巨大ダンジョンが多いと言われていますが、ここは格別です」


 おっと忘れるところだった。

 仁子さんと西園寺さんとパーティーを組まないと、視聴者たちの書き込みが見えないのだった。


 俺はすぐにアプリを操作して二人をパーティに入れた。

 西園寺さんには事前に説明していたので、急に視界にチャットが表示されても、驚く様子はなかった。

 ちなみに、西園寺さんの名前は、LIVE配信で伏せることになっているので、ホワイトさんと呼ぶことになっている。

 なぜそのような名前かというと、西園寺さんの装備は白を基調としたものになっているからだ。

 見た目と名前を合わせた方が、視聴者に覚えやすいだろうという西園寺さんの気遣いである。


「今日は前回の知床ダンジョンに引き続き、片桐仁子さんに来ていただいています!」

「よろしく! 今日は死なないように頑張ります!」


 そして、視聴者たちも書き込みで気にしていた西園寺さんの紹介をする。


「更に今回は特別ゲストのホワイトさんに来ていただきました。慣れない海外ダンジョンでサポートをしていただきます」

「恐れ多いですが、ダンジョン神のサポートをさせてもらいます。現地の探索者たちとの通訳などもできればと思います」

「ホワイトさんはめちゃくちゃ強いらしいので、俺たちの出る幕はないかもしれません」

「いえいえ、足を引っ張らないようにさせていただきますよ」


 視聴者たちは謎の探索者――ホワイトさんが誰なのかを詮索し始めた。だけど、西園寺さんは公安の人なので、表立った活動はしてきていない。

 おそらく誰もホワイトさんの正体がわからないだろう。


「この三人で、ワシントンダンジョンを攻略したいと思います!」


 俺たちの後ろで、スティーブンさんとルドルフさんが見切れているけど気にしない。

 陰ながらサポートしてくれると言っていたが……案外目立ちたがり屋なのかもしれない


「今回のアイテムクラフトは、結界の指輪です。この指輪は物理攻撃、魔法攻撃を防いでくれます。使用者の力に依存した限界値はあるみたいです。この指輪があれば、炎魔法メルトを使っても、自爆することはなくなるかもしれません」


 朗報である。

 今回、アプリから通知が届いていたときに、このアイテムの効果に喜んで飛び上がったほどだった。

 メルトで敵もろとも焼き上げるのは、結構大変なのだ。


 死んでしまうわけなので、相当な覚悟を持って挑んでいた。

 それがこの結界の指輪があれば、悩みのタネが解消されるかもしれない。

 問題と言えば、素材が最下層にあることくらいだ。


◆結界の指輪の素材

 ・クリスタルプラントの宝玉 ✕ 1

 ・ミスリル ✕ 50


「最下層にいるクリスタルプラントのドロップ品とミスリルを少々使ってクラフトします」


 それではモンスターと戦うまでに、一本いっときますか!

 仁子さんと西園寺さんに、ドロップ増加剤を渡して、三人で飲み干した。

 これでドロップ品の数が2倍になる。


 西園寺さんからは、今回のダンジョン探索でのドロップ品はいらないと言われていた。

 それでは不公平になってしまうと言ったら、蘇生のペンダントを3つと交換でお願いされた。

 この3つは、西園寺さんとスティーブンさん、ルドルフさん用となっている。

 俺としても、今回のダンジョン探索で、何かあったら気まずいので、西園寺さんの案に大賛成だった。


 仁子さんが西園寺さんの武器を見ながら言う。


「年季が入った武器ですね。それって双剣ですよね?」

「ええ、実践からは遠ざかって久しいですが、手入れだけはしていました。当時では最先端の武器だったんですよ。片桐さんは新調されたようですね」

「そうなのよ。この魔剣グラムはめちゃくちゃ丈夫なのよ」


 仁子さんが俺の横でブンブンと振り回してみせた。

 俺はそれを躱しながら、注意する。


「嬉しいのはわかったけど、むやみに振り回さないで!」

「ごめん、ごめん。知床ダンジョンでもパパに同じこと言われたわ」


 どんだけ嬉しんだろうか。

 今まで彼女に合う武器が無かったみたいだから、喜びもひとしおなのかも。

 西園寺さんが指さしながら言う。


「でしたら、目の前にいるクリスタルリザードに思いの丈をぶつけてみては?」

「いいわよ。それっ」


 仁子さんがグラムを振り回しながら、クリスタルリザードたちに突撃していった。

 斬るというよりも、叩き潰すというほうが合っている気がした。それほど、グラムの威力があり過ぎるのだ。


 パーティーを組んでいる効果として、俺のアイテムボックスに仁子さんが倒したモンスターのドロップ品が、すごい勢いで溜まっていく。


 ドロップ増加剤も相まって、すごいことになっている。

 うん、このドロップ品の使い道がいずれ来ると祈ろう。


 西園寺さんと俺は仁子さんの勇姿を、離れた位置から眺めていた。


「片桐さんは今日も元気ですね」

「いつものことです」


 俺はアプリで視聴者たちに声が聞こえないように設定をした。


「それよりも、例の件はうまくいきそうですか?」

「はい。ですが、やはり彼らにもメリットが必要かと」

「なら、できる範囲で……」


 俺は風の試練をクリアした。そのことによって、新たな試練が解放されたのだが、地理的な問題があった。

 その試練があるダンジョンは、アラスカに位置していた。


 勝手に入るわけにも行かず、西園寺さんに相談していたのだ。


「東雲さんが言われているダンジョンなのですが、かなり小さなものみたいですよ。気軽に行ける場所ではなく、更に得られるものは殆どない過疎ダンジョンなので、今回のダンジョンよりも手続きはすぐに済みそうです。そのためには……」

「わかっています。ワシントンダンジョンに販売ゴーレムを置いて、初級ポーションを売り出します」

「ありがとうございます。交渉はつつがなく終えることができると思います」


 よしよしと思いながら、音声を有効にして視聴者たちに聞こえるようにする。

 初級ポーションを交渉に使って、アメリカにあるダンジョンへのアクセス許可を取ろうと画策中だ。


 西園寺さんからは、いずれ蘇生のペンダントや中級ポーションなども要求されるだろうが、今は出し惜しみをして、こちらの優位に事を運んだほうがいいとアドバイスされている。


 まずは初手を初級ポーションで、アメリカの探索者の心を鷲掴みにするのだ。


 それにしても、仁子さんの暴れん坊っぷりにはびっくりだよ。周りの探索者もドン引きしているほどだ。


 一人でこの階層のモンスターを根絶やしにするのではないかと思えてしまう。そう言えば、知床ダンジョンにある販売ゴーレムの売上が、尋常ならざるものだったのは、仁子さんが狩りまくったからだろうか。


 ちなみに知床ダンジョンは、めでたく一般開放されて、大変多くの探索者たちで賑わっているそうだ。


 中級ポーションやスピードポーションを求めてやってきた探索者たちによって、知床の町に途轍もない経済効果を発揮しているという。

 今日の朝のニュース番組にも特集されていた。


 そのおかげで、ダンジョン神の知名度も鰻登りだ。

 チャンネル登録者数が1000万も夢じゃなくなってきた感じだ。


 ホクホク顔で自分のチャンネル登録者数を見ていると、仁子さんがグラムを振り回しながら戻ってきた。


「すべて片付いたわ。早く下へ行きましょ!」

「えっ! もう倒しちゃったの!」

「では、くもくもと私の活躍は第二階層までお預けですね」


 ファフニール戦を乗り越えた仁子さんとって、クリスタルリザード程度のモブモンスターでは相手にならないようだ。準備運動がいいところだろう。


 西園寺さんの案内で俺たちは、第二階層へ行くことにした。

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