第142話 企画検討
東雲家の改築が終わるのは、夏休みの後半くらいを予定しているみたいだ。
ということは一ヶ月ほどは、仁子さん邸にお世話になるってことか。
さらに両親と一緒なので仁子さんに負担をかけてしまうかも、なんて思っていた。
両親も俺と同じ気持ちだった。
しかし、仁子さんとしては、何の問題もないようだ。
「別に構わないわよ。居たいだけ居てね」
「いいの? 一ヶ月くらいだよ」
「元々は私が護衛で八雲くんの家に滞在する予定だったし。長引けば一ヶ月以上も覚悟していたわ。それが自分の家になるんだから、ラッキーな感じ?」
「そう言ってもらえて、ありがたいよ」
俺と仁子さんは、囲炉裏があるリビングでくつろいでいた。
冬はここで、川魚や餅などを焼いて食べたら、楽しそうだ。
今は真夏なので使われていないけど、あるだけでリビングの古き良き時代を感じさせて、雰囲気がとても良い。
それにしても静かだな。いつもは使用人の人たちが、お茶やお菓子を持ってきてくれるのに。
「今日は仁子さんだけ?」
「うん。ほら、ここの守りを固めないといけないでしょ。急遽、防衛体制を整えるために、外でいろいろとしているのよ」
「こんな暑い中、ご苦労様です」
「帰ってきたら言ってあげて、絶対に喜ぶわ。だって、八雲くんのファンだから」
「そうなの!?」
これは初耳だった。
いつもスマートに接してくれていたから、まったく気がつかなかった。
「だから、八雲くんを守り切るって張り切っているのよ」
「へぇ〜。うれしいなっ」
「彼らは大きな怪我をして探索者から引退した人たちなのよ。つまりは八雲くんの例のポーションのおかげで復帰できるようになったの」
「あっ、そういうことか」
中級ポーションで、探索者に復帰できたから、俺のファンになったのか。
そっか……こういったパターンで俺のファンになってくれる人は多い。
いつか俺のダンジョン配信テクニックでファンを増やしていきたいものだ。
「さっき、八雲くんのご両親から話を聞いたんだけど! 東雲家がすごいパワーアップするみたいじゃないっ!」
「ああ、それね」
父さんと母さんは公安の人たちが襲われて、あわや命を失いかけたことを聞いて、大きな決断をしたのだ。
東雲家を対探索者用に大改造するという。
鋼牙さんが全面的に協力して、行うらしい。さらに公安の人もアドバイザーとして加わっているのだから、その本気度がわかる。
「秘密の脱出通路も作るんでしょ」
「うん。シェルターもあるよ」
「えええ、すごい。ここにはシェルターないよ」
ん? ということは、脱出通路はあるのか。さすがは仁子さん邸だ。
秘密だから見せてもらうわけにもいかないが、気になるな。一体どこに通じているんだろう。
「家の外装はアイアントレントの木材を使うんだって」
「そうだよ。ワシントンダンジョンに設置した販売ゴーレムのアイテム引換対象にしたんだ。すごい勢いで増えているよ」
「さすがはダンジョン神ね。超高級木材も簡単に手に入れちゃうね」
「俺もできるだけ協力したいんだ」
アイアントレントの木材はとても丈夫だ。ほぼ燃えることはないため、火災にも強い。
良いこと尽くめの夢の建築資材なのである。
「今どれくらいアイアントレントの木材が集まっているの?」
仁子さんに聞かれて、俺はスマホでアイテムボックスに入っている数を確認する。
「えっと、6790本」
「増えすぎ! 交換対象にしてそんなに時間は経っていないでしょ」
「実はドロップ増加剤を引換対象にしたんだ。そうしてたら、すごいことになった」
「なるほどね。増えるわけね。一週間もしたら、とんでもない数になるわよ」
「その時は鋼牙さんに譲るよ。新しいギルド拠点を作るみたいだし」
「パパが泣いて喜ぶわね。このまま、アイアントレントの木材を独占して、商売でも始めたらどう?」
彼女は冗談混じりに言っていた。しかし、本気で検討している人を俺は知っている。
「氷室さんからその商売に乗り出そうって、さっき連絡がきたよ」
「ええっ、もう動き出しているの!」
「うん。氷室さんはドロップアイテムの商売についてはプロだから。その関係でたくさん出張にいっているし」
「株式会社くもくもは、順調なんだ」
「おかげさまで、仁子さんにもたくさんの報酬を支払えるよ」
「私はいいわよ。タルタロスで十分稼いでいるから」
せっかく仁子さんへ渡そうと思っていたのに、残念だ。
仕方ないので、どこかに寄付しよう。
そうだ、今回の水害で大変な目にあった人たちのために使おう!
早速、氷室さんへ相談だ。文章を入力して送信!
「お言葉に甘えて、そのお金は別に使うよ」
「どうするの?」
「今回の水害で被害に遭った人のために使うことにしたよ」
「いいんじゃない!」
仁子さんも大賛成してくれた。
これは頑張るしかないな。天空ダンジョンまで暇だし、当面は水害の復興だ!
株式会社くもくもの力を見せてやるぜ!
「そういえば、ダンジョン探索の配信が当面の間、お休みでしょ」
「仕方ないけど、どうしようもないね」
「その間は何を配信するつもり?」
「う〜ん、そうだね。株取引は当面するつもりはないし。ダンジョン飯はキッチンを使うことを許可をもらえたらできそう」
「いいわよ。キッチンくらい好きに使って!」
「マジで! やった!!」
ダンジョン探索をメインでやってきた配信チャンネルだ。
できれば、それに則した内容の方がウケが良い。
まずダンジョン飯は決定だ。アイテムボックスに今まで探索して集めたドロップ品がたくさん入っている。これらを使って料理すれば、なんとか動画になるだろう。
う〜ん、他にも企画が必要だ。
ダンジョン飯だけでは、お休みしているダンジョン探索を補えきれない。
腕を組んで悩める俺に、仁子さんは救いの手を差し伸べてくれた。
「いいことを思いついたわ。八雲くんもSランクの探索者になったことだし。専用のトレーニング施設を利用してみたら」
「そんなものがあるんだ」
「まあね。Sランクの探索者って、普通の場所だと設備を壊してしまったりして大変でしょ。だから、国が専用の場所を用意してくれているの。使うには事前に申請はいるけどね」
「うああ、楽しみっ。でもそこって撮影してもいいの?」
「確認をとってみるわ。たぶん施設内のトレーニング部屋だけなら、大丈夫だと思うわ」
Sランク専用のトレーニング施設か。
これは配信映えしそうだ!
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