第73話 伐採
「伐採、伐採♪」
「えんやこらせーのどっこいせ」
俺たちは鼻歌交じりに、アイアントレントを伐採していく。
気分はもう木こりだ。
アイアントレントからドロップする木材は、高級品でセレブたちが家を建築する素材に使っているらしい。
豪邸が何件も建てられるほどの木材を確保したので、東雲家の建て直しをする際は、この木材を使っても良いかもしれない。
いや、待てよ。それよりも、ダンジョンポータルがある納屋を建て直すのはどうだろうか。
ステータスの力もあるし、重機なしで一人でDIYできそうな気がする。
このダンジョン探索が終わったら、ログハウスを立ててみようかな。
電気配線は近所の電気屋さんにでも依頼したらなんとかなりそうだ。
ボロボロの納屋をくもくもの秘密基地にアップグレードしよう。
ホクホク顔をしていると、仁子さんに聞いてきた。
「何をニヤけた顔をしているの?」
「それは実家の納屋をこのドロップ品の木材を使って、ログハウスにしようかなと思ってさ」
「えっ、面白そう。私も参加するわ。そうね……私用の部屋が一つ欲しいかも」
「仁子さんにはどでかい豪邸があるじゃん!」
「だって、ダンジョン攻略するときに前のりしているほうが楽じゃん」
そういわれるとそうかもしれない。
でも俺だけの秘密基地なのにな……なんて思っていると
「タルタロスギルドの総力を上げて協力するから、お願い!」
手を合わせてめっちゃ上目遣いでお願いされてしまった。
これで断ったら炎上案件だろう。
視聴者たちも了承してと書き込んでいる。
「仁子さん、こちらこそお願いします」
「任されました!」
うむ……秘密基地がシェアハウスみたいになってしまった。
でもいいや。ホコリにまみれた納屋が綺麗になると思えば、いいこと尽くめだ。俺も自分の待機部屋を作るんだ。
くもくも工房で決まりだな。
仁子さんと一緒になって、納屋をどう立て直すかを話し合っていると、下への大階段が見えてきた。
「順調に進んでおり、何よりです」
西園寺さんが先導しながら、大階段を下りていく。
仁子さんは下の階層を楽しみにしていたようだ。
わくわくしているのが伝わってくる。
「下の階層にはジュエルスライムがいるのよ!」
「このダンジョンでしかドロップできない宝石なんだよね」
「そうなのよ。強い魔力を秘めているから、魔法系のアイテムに使われたりするわ」
「加工がすごく難しいって聞いたけど」
「まあね。ギルドでそれができる人がいるの。その人に是非取ってきてくれって頼まれて」
「もしかして俺と同じようにクラフトするの!?」
「まさか! くもくもみたいにはできないわよ」
話を聞く限り、幾重にも手順を踏んで作るみたいだ。
まあ、それが本来の作り方だよね。
俺のアプリでポチポチがおかしいのだ。お手軽で便利だけどね。
モンスターを倒してクラフトまで一人でしているので、このくらいでないと大変だ。
だからこそ、これほど短期間で海外のダンジョン探索ができているとも言える。
「それで、どのくらいのドロップ品が必要なの?」
「たくさんね。どうせ、みんなでアイアントレントみたいに駆逐するから問題なし」
「お二人とも、そろそろ第4階層ですよ」
おおおっ! ダンジョンの壁がエメラルドでできているぞ!
まさに宝石の中にいる感じだ。
「動画で見て知っていましたけど、改めて見ると圧巻ですね」
「はい。この階層が発見されたおかげで、エメラルドの価値は大きく暴落しました。ここにあるエメラルドは純度がとても高くて、採取してもなくなることはありませんから」
「なら、記念に持って帰ろう」
母さんが喜ぶかもしれない。
セイッ、ヤー!
拳でダンジョンの壁を砕いて、大きなエメラルドの塊をアイテムボックスに入れた。
これくらいあれば十分だろ。
「くもくも、私の分も持って」
「でかっ!」
普通車よりも大きなエメラルドを担いで、仁子さんが渡してきた。俺はアイテムボックスにしまいながら言う。
「こんなものをどこに置くの?」
「家の庭が寂しいから、置いてみようと思って」
「豪華な庭になりそうだね」
設置を手伝うことになると思うから、庭がどうなるのか今から楽しみである。
「ホワイトさんも、お土産に持って帰らないんですか?」
「私はこの小さなもので大丈夫ですよ」
俺が砕いたかけらを拾い上げて懐に入れた。
彼女はいろいろなダンジョンへ行き慣れている感じだった。このくらいでははしゃぐほどではないのだろう。
「それで、目的のジュエルスライムはどこかな?」
「いないですね。それなりの数がいるはずなのですが……」
他の探索者もいるが、俺たちと同じようにジュエルスライムを探しているようだった。
西園寺さんが、その一人の探索者を呼び止めて、事情を聞いていた。
「どうやら、突然姿を消してしまったようです」
「えっ、そんなことがあるんですか?」
モンスターが姿を消すなんて聞いたことがない。
新米探索者である俺が知らないだけかと思ったら、西園寺さんも初めての経験だという。
どういうことだろうと思っていると、ダンジョンの奥から人の悲鳴が沢山聞こえてきた。
すぐに仁子さんが、グラムを構えながら言う。
「やばいのが奥からやってくるわよ」
魔力探知で感じてみると、仁子さんの言う通りだった。
「ジュエルスライムどころじゃないね」
「そういうこと」
「ボスモンスター狩りどころではなさそうですね」
西園寺さんの言っていることは少し間違っていた。
俺たちの目の前に現れたのはボスモンスターのクリスタルプラントだったからだ。
しかも、俺が知っている形とは違って、禍々しく変異していた。
「最下層で待ちきれずに出てきたのかしら」
「そんなお出迎えいらないよ」
「でも、明確にくもくもを狙っているよ」
「マジで!?」
ホントだ。クリスタルプラントが俺にめがけて突進してきた。他の二人には目もくれずにだ。
「なんか俺、悪い子とした!?」
「あっ、さっきダンジョンの壁を壊していたでしょ! それよ!」
「それは仁子さんもしていたでしょ!」
なんでだ。どうして親の仇みたいに俺だけを執拗に追いかけ回すんだ。
周りの探索者も、ボスモンスターと戦うつもりでこの階層にいなかったので、大混乱になった。
大階段に押し寄せる探索者たちによって、思うように戦えない。
「このままじゃ被害が大きくなる。場所を変えよう! 俺に付いてきて!」
クリスタルプラントは俺狙いだ。
大階段とは反対方向へ、攻撃を躱しながら逃げ込む。
相手はかなりの大物。
十分な広さがあるところで戦いたい。
「ホワイトさん、広い場所はありますか?」
「はい、こちらへ」
クリスタルプラントが進んだ辺りには、多くの探索者たちが倒れていた。
鞭のようにしなるツルの先には、硬そうなクリスタル製のトゲトゲが付いている。貫通力が高いようで、探索者が持っていた盾などを容易く突き破っていた。
そのツルがざっと数えただけでも、30本以上あるのだ。
しかも今も枝分かれして数を増やしている。
「クリスタルプラントってあんなに強かったですか?」
「いいえ、そんなはずはありません。それにボス部屋から出てくるなんて聞いたこともありません」
「くもくもは最近人気がすごいから、お出迎えしてくれたんでしょ」
「頼んでないよ。そんなこと!!」
ステータスの魅力が発揮したのかは定かではないけど、クリスタルプラントの熱烈ストーキングは止まらなかった。
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