第74話 熱烈
棍棒のような物が先っぽについたツルが俺を叩き潰そうと幾重にも襲ってくる。
俺はそれらを全て躱しながら、開けた場所にやってきたのだが……。
思いの外、他の探索者たちがいたのだ。
「皆さん、危険です! 避難してください!」
と日本語で言っても、言語の壁で伝わらない。
それどころか、俺がボスモンスターを引き連れてやってきたと思われてしまった。
なんかめっちゃ怒られているぞ!
英語が話せる西園寺さんが、通訳をしてくれるのだが、収拾がつかない。
「これは困りましたね」
そうしている間にもクリスタルプラントの猛攻は激しく、周りの探索者にまで影響が及んでしまっていた。
新たな攻撃を仕掛けてきたからだった。
中心部の青く透明な花から、紫色の甘い香りを放ち出した。
吸い込んだ俺は手のしびれを感じた。
あまり体に取り込むと、身動きが取れなくなりそうだ。
なんて思っていると、周りの探索者たちがバッタバッタと倒れ込む。
「マジかよ……この神経毒みたいのそんなに強いのか?」
「私は全然?」
仁子さんには全く影響がないようだった。
彼女の耐久力は折り紙付きなので、なんとなくわかっていた。
西園寺さんの方はどうなのだろう?
「大丈夫ですか?」
「私もそこそこ耐久がありますから。それよりも彼らを安全な場所へ避難させないと」
「お願いできますか。このまま他の場所にクリスタルプラントを引き連れて行っても被害を拡大させるだけですから」
「わかりました。早めに決着を付けてください」
「仁子さんも避難をお願いできる」
「戦いたいところだけど、このままじゃ大変なことになりそうだしね。わかったわ。中級ポーションをいくつかもらっていくわよ」
俺はアイテムボックスから中級ポーションを取り出して、仁子さんたちに投げ渡す。
今も尚、クリスタルプラントから攻撃が続いている。倒れ込んだ探索者たちに攻撃が当たらないように躱さないといけないので、難度が結構上がっていると思う。
炎魔法メルトで一発で決めたいところだけど、そんなことしたら大量殺戮になってしまう。
仁子さんと西園寺さんは、蘇生のペンダントを持っているから生き返るけど、他の探索者は持ってはいないだろうし。
「ここはメルトで爆死芸から卒業するいいタイミングかもしれない! 頑張ります!」
視聴者たちも向けて意気込みを伝える。
最近はメルトでボスモンスターもろともばかりだった。
俺の成長を見せる良い機会だ!
強化したフランベルジュを鞘から抜いて、クリスタルプラントと対峙する。
今だに毒を吐き続けているため、一刻を争う。
魔法を使えば威力が高すぎて、倒れ込んだ探索者を巻き込んでしまうかもしれない。
ここは隠れて鍛錬してきた俺式剣術で決めてやる。
セイッ、ヤー!
お得意の二連斬り。
まずはフランベルジュから発する炎で拡張した剣撃で、邪魔なツルを一掃。
そしてそのまま詰め寄り、ツルが再生する前にクリスタルプラントの胴体である花を真っ二つにした。
「よしっ、やった!」
と喜んでいたら、半分にしたクリスタルプラントの胴体から、大量の毒霧が噴出してきた。
まともに食らった俺は、体が痺れて動けなくなってしまい。情けなく地面に転がってしまった。
せっかくかっこよく倒したのに、大失敗である。
死んだカエルのようにひっくり返っていると、仁子さんが覗き込んできた。
「何をやっているの?」
「油断した。痺れて動けない」
「まったく……ファフニールを倒した者とは思えない詰めの甘さね。まあ……あの時は自爆だったから、前進したともいるかもしれないけど」
「中級ポーションをください。痺れて取り出せないから」
「どうしようかな」
仁子さんは手に持った中級ポーションを俺の顔の前まで持ってきて、見せつけてくる。
どうやら彼女はSっ気があるのかもしれない。
「お願いします」
「なら、この後の買い物に付き合ってもらえる?」
「承知いたしました」
「よろしい」
満面の笑みの仁子さんは俺に中級ポーションを飲ませてくれる。すっと痺れは消えて、体が思うように動くことになった。
「助かった。まさか倒したときに毒を吐きながら爆散するとは思わなかったよ」
「そういうことも含めて警戒するのが探索者よ。以後気をつけてね」
「ホワイトさんは?」
毒に侵された人を中級ポーションで治療中よ。
スティーブンさんとルドルフさんも合流して対処しているところね。
被害は死者なしだった。
俺の二段斬りが功を制したようだ。
しばらくして西園寺さんが戻ってきた。
「くもくもさん、ありがとうございました。おかげさまで被害は最小限に抑えられました」
「ボスモンスターがなぜ上の階にやってきたんですか?」
「わかりません。今までそのような報告は聞いたことがないですね。アメリカの探索者があとを引き継いで調査されるようです」
謎はわからないままだった。
ボスモンスターを倒したことで、この階層にいるジュエルスライムも出現するようになり、仁子さんは大喜びだった。
タルタロスギルドから課せられたノルマが達成できて安心しているようでもあった。
西園寺さんは、スティーブンさんとルドルフさんとまた話し合いを始めてしまった。込み入った話のようなのでLIVE配信で映すこともできず、俺は当初の目的を進めることにした。
「それでは、クリスタルプラントの宝玉を手に入れたので、結界の指輪をクラフトしようと思います! これがあれば炎魔法メルトを使っても、モンスターと一緒に仲良く焼かれることはなくなるはずです!」
俺は素材を床に置いて、アプリのクラフトを実行した。
光の粒子となった素材は合わさり、形をなしていく。
「出来上がりました。結界の指輪です!」
クリスタルプラントと同じ透明な青色に宝玉がはめられた銀色の指輪が現れた。
早速、指にはめてみる。
頭の中に浮かんできた言葉を発してみる。
「マイティバリア!」
俺の全方位を取り込むように半球状の結界が現れた。
わずかに紫色の透明な壁であった。
内側から叩いてみると、かなり硬い感触だ。
その様子に仁子さんが面白いものを見るような目をしていた。
「くもくも、ちょっと思いっきり殴って耐久テストしてみる?」
「思いっきり!? ちょっと心配だな」
大丈夫だろうか。仁子さんの本気パンチはあの世行きだ。
もしマイティバリアを破壊されてパンチを受けたら、生き返れるとはいえ、俺は死体となり視聴者たちにトラウマを植え付けてしまうかも。
でも実戦で使う前に試しておきたい。
まずは物理攻撃を防げるかだ。
「お願いします!」
「わかったわ。いくわよ、それっ」
ダンジョンが揺れるほどの振動が響き渡った。
他の探索者たちもびっくりのパンチだった。
しかし、マイティバリアはちゃんと防ぎきったのだ。
「すごいじゃん。私のパンチを完璧に防いでいるわ!」
「うん。良い感じだね」
「じゃあ、次はこれね」
仁子さんは大剣グラムを手に持っていた。
それはやばいかも!?
「まだ熟練度が少ないから耐えきれるか自信がないかな」
俺自身がクラフトしたから、グラムの性能はよくわかっている。おそらく、今のマイティバリアの熟練度では、両断されるだろう。
俺は丁重にお断りをした。
「魔法も試していきたいけど、ここでは迷惑になるから、別の場所で秘密特訓するよ」
とりあえず、炎魔法メルトを防げるまで熟練度を上げていこう。
メルト打ち放題の日は近そうだ。
さて、そろそろLIVE配信の締めを行おう!
「いろいろとアクシデントがありましたが、これでワシントンダンジョンの探索は終わりです。結界の指輪を手に入れたので、今後はメルトで死なないようにしたいと思います。よかったらグットボタン、お気に入り登録をお願いします!」」
仁子さんと一緒に笑顔で手を振って、LIVE配信を停止した。西園寺さんもいてほしかったけど、状況が状況なのでしかたない。
俺たちは西園寺さんが戻ってくるまで、ジュエルスライムを狩って時間を潰した。
そんなことをしているうちに、彼女が申し訳無さそうに合流してきた。
「すみません。遅くなりました」
「別に気にしていませんよ。これからスティーブンさんとルドルフさんも調査に加わるそうです」
「そうですか」
お世話になった二人ともお別れである。
互いに握手を交わして見送った。何事もなければ良いのだけど。
西園寺さんは笑顔になって俺たちに聞いてくる。
「この後はどうされるのですか?」
「買い物よ! いくわよ、八雲くん」
「なら、私も付き添いましょうか? 通訳したほうがいいでしょうから」
「頼もしい! では行きましょ!」
仁子さんのもう一つの楽しみのために、元気よく歩き出した。
邪魔をしてくるモンスターは、瞬殺である。
そして、ダンジョンから出ると、仁子さんの豪快な買い物が始まったのだ。
俺の役目はもちろん荷物持ちである。アイテムボックスには仁子さんの買い物が次々と入っていく。
俺は仁子さんに立て替えてもらって、両親にささやかなお土産を買った。
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