第75話 ログハウス
昨日は休日の殆どをワシントンダンジョンへ費やしてしまった。そのおかげで、見事にボスモンスターを倒して、クラフト素材をゲット。
目的だった結界の指輪を手に入れることができた。
ワシントンダンジョンには、今回の探索を許可してくれたアメリカに顔を立てる意味を込めて、販売ゴーレムを設置した。
売り出したのは、初級ポーションだ。対価として、ジュエルスライムのコアを10個にした。
この素材は、魔法系アイテムに使われる物でかつ、更にワシントンダンジョンにだけでドロップできる希少の物であった。
交換する素材として、俺にもメリットがありそうなので、良い取引だと思う。
学校で取引状況を確認していたが、飛ぶように売れていた。どうやら、アメリカの探索者のお気に召したようだ。
ニヤニヤしながらスマホを見ていたら、隣の席の友人に笑われてしまった。
彼は昨日の配信を見ていてくれたようだった。
「くもくもって片桐さんと仲いいよな」
「まあ……そうかな」
「ちょっと聞いていいか?」
「なんだよ」
「くもくもと片桐さんて付き合っているのか?」
俺は飲んでいたお茶を思いっきり、友人の顔に向けて吹き付けてしまった。
「うあああ! 何するんだよ!」
「そっちこそ、いきなり何言うんだよ!」
「ビショビショだ!」
「それは悪かったよ」
俺はカバンからハンカチを取り出して友人に渡した。
友人は顔を拭きながら言う。
「その調子なら付き合ってはいなさそうだな」
「当たり前だろっ!」
すると友人がなにやらニヤニヤ顔になった。
なんだろうか……彼は俺の後ろに視線を向けている。
「何を話しているのかな?」
「に、仁子さん!」
噂をしていればなんとやらだ。
当人がいつの間にか俺の後ろにやってきていた。
魔力探知で彼女の魔力を感じられるはず。なのに全く気配を感じなかった。
それは、仁子さんが魔力を消していたからだ。
ちょっと前まで魔力探知すらできなかったのに、すごい進歩だ。
なんて思っている場合じゃない!
仁子はニコニコしながら、俺の様子をうかがっている。
「楽しそうに話していたから来てみたんだけど、お邪魔だった?」
「いや、そんなことはないよ。そうだよな!」
「うん。くもくもと仁子さんが付き……」
俺は光のごとくスピードで友人の口を抑え込んだ。
もごもごとまだ言おうとしているので、更に抑える。
「八雲くん、抑え過ぎ! 彼が青くなっているわ」
「おっと」
いけない。思わず力が入ってしまった。
回復、回復!
俺はアイテムボックスから、中級ポーションを取り出して友人に飲ませた。
「くもくも! むちゃくちゃ力があるんだから気をつけてくれよ。俺はひ弱なんだよ」
「ごめん、ごめん。思わず力が入っちゃった」
「探索者なんだから、気をつけなさいよ」
ステータスはセーブモードで制限をかけているのに、それでも普通の人よりも力を発揮してしまうようだ。
体育で野球をしたときも、ピッチャーは誰も取れない剛球を投げてしまうことから、教師に禁止されたし……バッターでも彼方へホームランしてしまうので、バントを強要されてしまう始末だった。
仁子さんは、友人と俺が話していた内容が気になるようだった。しかし、俺が友人を締め上げたことで有耶無耶になってしまった。
ふぅーと胸を撫で下ろしていると、今度は仁子さんが言わなくて良いことを言ってしまう。
「八雲くんの新しい納屋は今日から作るのよね」
「そうだよ」
「なら、私の部屋のために頑張るわ」
それを聞いた友人はハッとした顔をした。
「すまない。くもくも……もうそういうことだったんだな」
「どういうことだよ」
「一緒に住むレベルだったとは……俺は大きな勘違いをしていた」
「未だに勘違いをしているぞ」
誤解は解けぬまま、学校は終わり下校となった。
仁子さんと一緒に帰りながら、俺は懐から設計図を取り出した。
それを手に取った仁子さんが意外そうな顔をして言う。
「しっかりと書いてあるわね。本気度が伝わってくるようね」
「仁子さんの部屋は黄色い枠で囲っているところにしようと思うんだけどいいかな?」
「いいの!? 南向きの場所じゃん」
「俺も南向きだから」
「隣の部屋が八雲くんなんだ」
「そうだよ。納屋の中心にダンジョンポータルを持ってきているよ」
「なるほど、なるほど……あっ、水道もほしいわね。探索後にシャワーも浴びたいし」
「マジで!」
「大丈夫! ギルドパワーですべてを解決するわ」
すでに水道とガスの工事を手配済みだという。
家に帰ると、すでに工事が始まっていたからびっくりである。この工事はすでに両親に相談して了解を得ていたが、改めて見ると規模の大きなものになりそうだ。
ギルドが手配してくれた現場監督は仕事が早く、俺と話しながら基礎工事を進めてくれた。
基礎はダンジョンから得られた特別製の素材らしく、パズルを組み立てるようにあっという間に出来上がってしまった。
「基礎はしっかりしたものを用意したら、強度は折り紙付き。ちょっとした要塞並に頑丈さよ」
俺は基礎を軽く叩きながら、確かめる。
これはすごい! コンクリートの何十倍も硬いかもしれない。
「これならアイアントレントの木材を載せても耐えきれそうだね」
「この木材は重いからね。全面をアイアントレントの木材で作ろうなんて、さすがは八雲くんだわ」
「さあ、ログハウスを作ろう!」
「腕がなるわ!」
まさにパワーが物を言う建築だった。
道具はフランベルジュとグラムを使って、木材を加工する。
並の大工道具では、アイアントレントの木材に刃が立たないからだ。
タルタロスギルドでログハウス建築に詳しい人をサポーターとして用意してくれていたので、困ったときに相談に乗ってもらった。
彼の的確なサポートもあって、ログハウスは積み木のように組み上がっていく。
普通なら重機などで木材を持ち上げたりして、はめ込んでいくのだが、俺と仁子さんがいれば不要だ。
二人とも空を飛べるため、次から次へと木材を持ち上げては組み立てていった。
日が暮れ始めた頃にはログハウスの外観が出来上がってしまったくらいだ。
「思ったよりも良い感じじゃん」
「うん。すごく立派だ!」
「内装の電気やガス、水道周りはギルドの方でやっておくね」
「ありがとう! まだ木材が余っているから家具とか作ろうかな」
「それはいいかも!」
俺たちは自分の部屋に置く家具を作るのに、夢中になってしまった。
机や椅子や棚など、手作り感があって実に良い感じだ。
ログハウスのDIYに勤しんでいたら、母さんが帰ってきた。
「八雲、これはどういうこと!?」
「昨日話した新しい納屋だよ」
「納屋!? もうこれは家よっ!」
母さんがびっくりするほどの出来栄えのようだ。
アイアントレントの木材で作ったログハウスは、とても頑丈でちょっとやそっとでは侵入できないだろう。
窓ももちろんダンジョンの素材を使った特別製だ。そこらへんの防弾ガラスとは格が違う。
まさに要塞と呼んでも過言ではない秘密基地が誕生した。
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