第18話 氷魔法

 クラフトされた氷魔法のリングを指にはめる。

 少しひんやりとして、冷気を帯びていることがわかる。試しにその手で地面を触ってみた。


「凍らないか……魔力を込めればいいのかな」


 ステータスに魔力という項目があった。普段、魔力を使うなんて日常はない。

 頭の中で魔力を氷魔法のリングに流し込むイメージをしてみる。


「おおっ、やった!」


 地面から霜柱が出来上がった。

 そして、周囲の温度が一気に真冬になったようだった。


「見てください。ちゃんと氷魔法が発動できるようです」


 喜んでいると、頭の中に言葉が浮かんできた。

 俺は手のひらを大岩に向けて、その言葉【アイシクル】を発してみる。


「アイシクル!」


 大きな氷柱が手のひらから発射されて、大岩が砕け散った。

 なるほど魔法系のアイテムは装備すると、使い方を教えてくれるみたいだ。

 有名ダンジョン配信者たちが、アイテムを得てすぐに魔法が使えるようになった理由がよくわかった。

 アプリで装備欄を確認する。

 氷魔法のリングがしっかりと記載されていた。

 試しにタップしてみると、


「おおっ! 熟練度があるのか!?」


 どうやら、魔法の使用回数によって熟練度が上がっていき、ある一定に達すると新しい魔法を覚えるようだ。

 先程アイシクルを一発撃ったので、熟練度1となっていた。

 熟練度が1000に達すると、次の魔法が覚えられるみたいだ。


 ステータスの魔力を確認する。

 魔力30から28に減っていた。


 つまり、アイシクルを使うには魔力2が必要だ。

 総量から15発は撃てる。


 そう思いつつ、俺が観ていた配信動画を思い出す。

 たしか、魔力が0になるまで魔法を使ってしまうと、気を失ったはずだ。

 ダンジョンで失神するなんて、死に等しい行為だ。


 魔法を使う時には気をつけるべきだろう。

 あっ、初級ポーションを飲んだら魔力を回復しないかな?

 すぐにアイテムボックスから取り出して、飲んでみた。


「駄目だ……魔力は回復しない」


 そう上手くはいかないようだった。

 ダンジョン探索を始めた頃から、頼りっぱなしだった初級ポーション。

 魔力の回復には新たなアイテムのクラフトレシピが求められた。


 魔力は寝て起きたら、回復するようだから当面は地道に熟練度を上げていこう。

 とりあえず、撮影の締めをしよう!


「氷魔法のリングは無事にクラフトできました。これで今日の動画は終わりです。よかったらグットボタン、お気に入り登録をお願いします! では、アイシクル!!」


 氷魔法を放って、動画の録画を止めた。

 後で家に帰ってから、編集しよう。


 まずはボス部屋から出ないと!

 ずっとここにいたら、順番待ちをしている探索者に迷惑になってしまう。

 ボスモンスターを倒したというのに、氷魔法のリングに夢中になってしまって長居してしまった。

 急いで出るとやっぱり探索者たちが待っていた。


「すいません」

「問題なかと」


 ボスモンスターを倒して喜んでしまい、出るまでに時間がかかるのはよくあることだという。

 5人パーティーの大人たちは、ギルド入団試験を受けていた人たちよりも、強そうなオーラを放っていた。ベテラン探索者といったところだろうか。

 パーティーの1人がカメラを持っていたので、ダンジョン配信をしていそうだ。


 知らない顔だから探索をメインにしており、最近になって配信を始めたのかもしれない。

 それほど、ダンジョン配信は今人気なのだ。


「頑張ってください!」

「おうよ」


 5人パーティーがボス部屋に入っていくのを見送った。

 さて、俺は何をしようかな。配信用の動画も撮り終えたしな。

 今は正午12時くらい。両親は夕方まで帰ってこない。

 このまま博多ダンジョンを探索しよう!


 氷魔法を試したいし、熟練度も上げたい。

 こんなことに備えて、アイテムボックスの中に非常食を入れてきた。

 飲み物と菓子パンを取り出す。

 モグモグ……モグモグ。


 ボス部屋の前で昼食タイムだ。

 先程の5人パーティーはまだボスモンスターと戦っているらしく、扉の向こう側で激しい戦闘音が聞こえてきた。

 戦いは長引きそうな感じだ。


 予想しながら菓子パンをかじっていると、新たなパーティーがやってきた。

 おおっ、3人パーティーだ。このパーティーも一人がカメラを持っている。


 戦うのは実質2人となる。今戦っているパーティーよりも凄腕なのだろう。


「ちょっと君、もしかして順番待ちかい?」

「いいえ、並んでいません。ランチタイムです」

「へっ? ランチタイム!?」

「はい」


 俺がここでのんびり昼食中なのが、予想外だったらしくびっくりされてしまった。

 彼らは俺の横に座って、ボス部屋が空くのを待っていた。


「ところで君は遠征かい?」

「はい。そちらもですか?」

「ああ。東京からさ」

「それは遠くから……」


 するとパーティーのリーダーと思われる男がバッグから、初級ポーションを取り出した。

 あっ!? と声を出しそうになったが、ぐっとこらえた。

 そうしないと、口の中の菓子パンを吐き出すところだった。


「それって!」

「君も知っているようだね。初級ポーションだよ。今は新宿ダンジョンでこれを手に入れるのが、探索する前の準備として一般化している」

「そうなんですかっ!?」


 マジかよ。いつの間に一般化していたんだ。

 リーダーは得意げに初級ポーションを30本用意していることを教えてくれた。

 そして、またまた得意げに胸を指して言うのだ。


「極めつけは、これだ。蘇生のペンダント!」

「おおおっ」


 またしても食べていた物が吹き出しそうになった。


「驚くのはわかるよ。最近になって大阪ダンジョンで手に入れることができるようになった神アイテムさ。これを手に入れるのは競争率が高くて苦労したよ」

「そうなんですか?」

「これを装備していれば、一度だけ死んでも全回復で生き返れる! 皆が大阪ダンジョンに殺到しているよ。あそこは今探索者で溢れかえっている」


 リーダーの男は、俺にいろいろと教えてくれた。

 今の探索者がやるべきことは、まず新宿ダンジョンで初級ポーションをできるだけ多く購入する。そして、大阪ダンジョンへ行き、蘇生のペンダントを手に入れる。

 これが済んだ後、他のダンジョンへ挑むという流れが出来上がっているという。


「初級ポーションと蘇生のペンダント! これがあれば、今まで手が出なかったモンスターにもチャレンジできるようになった。これはダンジョン探索の革命だよ」

「すごいですね……」


 俺はどうやら革命を起こしてしまったようだ。

 それと同時に、ちゃんと供給させないとまずいとも思えてきた。


「それらを提供してくれる者を、僕たちはダンジョン神と呼んでいるんだ」

「神!?」


 今回ばかりは、びっくりして菓子パンを吹き出してしまった。

 なんだよ……ダンジョン神って……俺が勝手に神格化されている!


「驚くのは無理はないさ。君も時間があったら、新宿ダンジョンや大阪ダンジョンへ行ってみるといいよ。神アイテムを手に入れるチャンスだ。だが気をつけることがある」

「なんですか?」

「ダンジョン神は転売を絶対に許さない。転売したら最後、二度と神アイテムは買えないからね。神の目はどのような転売も見逃さないから気を付けてね」


 転売対策はバッチリ機能しているようだ。

 それにしても、ダンジョン神とは……とんでもないことになっている。

 俺はリーダーが話す内容に、開いた口が塞がらなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る