第80話 会合

 俺たちはギルド長に案内されて会合をしているという場所へ案内される。


「今は休憩中だよ。始まるまで、まだ時間があるからメンバーに紹介してもいいかな?」

「はい」

「みんなには知らせているの?」

「いや、サプライズで教えていない」

「やばいじゃん! もうみんなびっくりするわよ!」


 なんだって! 

 スペシャルゲストとして来たつもりなのに、まさかそんなことになっているとは、俺もびっくりである。


「何人いらっしゃるんですか?」

「儂らをあわせて56人だな。幹部だけを集めた小規模なものだよ」


 56人で小規模か……俺からしたら、多い気がする。


「八雲くんのチャンネル登録数ほどじゃないさ。すごい勢いで伸びているようだね。ファフニール戦を見させてもらったよ。自爆攻撃はなかなかできることではないな」

「あれは望んでそうなっているわけではないです。今後は自爆しないように対策をしますよ」

「この前にクラフトした結界の指輪かな」


 どうやら、ギルド長は俺の動画配信をよく見てくれているようだった。


「パパは八雲くんがクラフトする新しいアイテムを楽しみにしているのよ」

「それもあるが、楽しそうに実況しているからね。昔をついつい思い出してしまうんだよ」


 ギルド長ともなれば、いろいろと自由にダンジョン探索できないようだ。そう言えば、知床ダンジョンでも第一階層のキャンプ地から出られなかったしな。

 仲間が遭難しても、立場上の理由で救援を他のメンバーに止められていたし、もどかしい部分もあるのだろう。


 ギルド長が歩きながら、しんみりしているところに、仁子さんが別の話題を言ってきた。


「そういえば、八雲くんのチャンネル登録数なら、コラボ依頼がくるんじゃない? 初めの頃は可愛らしい女性二人とコラボみたいなことをしていたでしょ」

「ああ……それはね」


 アリスとリオンとは今も連絡を取っている。

 しかし、コラボはしない感じだ。理由は簡単で、俺が戦うモンスターが強すぎるからだ。

 特にファフニール戦はドン引きレベルの戦いだったようで、ついていけないと言われてしまった。

 また動画配信せずにまったりと探索したいねという話となっているけど、お互いに忙しいのでなかなか日程が合わない現状だった。


「急にコラボ依頼がたくさん来るようになって大変だよ」

「ダンジョン神にあやかろうとする人がやっぱり多いのね」

「結構有名な配信者からも申し込みがくるけどさ。今はまだ早いかなと思って、お断りしているんだ」

「えっ、全部お断り文を書いているの?」

「そうだよ。これが大変なんだよ」

「八雲くんって、律儀なのね」


 コラボ依頼の多くは、俺のクラフトアイテムを狙っているのが見え見えなので、お断りだ。

 とりあえず、そのような人たちにはファフニールを倒せたら、ぜひコラボしましょうと返しておいた。


「これからもどんどんお誘いがあるから気をつけないとね」

「炎上だけは絶対にしたくないな。登録者数が増えると下手なことを言えないし……結構大変だね」

「嫉妬も多そうだから、何かあったら相談してね」


 仁子さんが言うように嫉妬が多くなったような気がする。

 これが有名税というやつか。

 まったく見返りがない税金だ。


 俺のチャンネルに止めどなく寄せられるコメントを仁子さんに見せていると、会議室の前までやってきていた。


「さあ、ここだ。中へ入ってくれ」


 ドキドキしながら、中へ入ると意外にも幹部たちの年齢幅は広かった。

 俺の予想では皆が強面の屈強な男たちなんて思っていた。


 比較的、年齢が若い人が多い感じだ。

 それを読み取ったようにギルド長が俺に言う。


「探索者は怪我や死亡が多いから、長年できる仕事ではないんだよ。でも、中級ポーションや蘇生のペンダントによって変わっていくだろうな」

「お役に立ててよかったです」


 ギルド長が部屋に入ってきたことで、幹部たちの視線はこちらに集中した。

 そして、隣りにいる俺を見て驚いているようだった。


「彼のことは皆が知っていると思うが、ダンジョン配信者のくもくも君だ。知床ダンジョンでは大いにお世話になった」


 何人かが立ち上がって、俺の元へやってくる。

 そして、次々と俺の手を取ってお礼を言ってきた。

 知床ダンジョンで救出した際にもお礼は言われたが、改めて言いたかったようだった。


 命の恩人ということでめちゃくちゃ歓迎されてしまった。


 どうもどうも! 俺は丁寧に案内されて席についた。

 なんとギルド長の隣という特等席だった。

 突然の俺の登場にまだ幹部たちは浮足立っているようだったが、ギルド長が話し始めるとすぐに静かになった。


「スペシャルゲストのくもくも君も来てくれたことだし、本題に入ろうか」


 彼がそういうと、書類を持った男性に指示をした。


「これを見て欲しい。儂らが管理している衛星の写真だ」


 俺にも配られて、見せてもらうと何やら海の上に島があった。

 俺と同じ印象を持った幹部がギルド長へ聞いてくる。


「この孤島がどうしたのですか? もしかして新しいダンジョンの入り口がここに?」

「ああ、そのとおりだ。だが、このダンジョンは他のダンジョンとは大きく違い問題がある」

「どのような?」


 すると、ギルド長は二枚目の写真を見るように言った。

 マジかよ……これは普通の島じゃない。

 その写真は海から空に向かって撮られていた。


「浮島ですか……本当に?」

「嘘を言うわけがないだろう」

「この島には上陸できるのですか?」

「無理だ。この島は何らかのバリアのようなもので守られている」


 まだ世間では知られていない情報だった。

 この浮島は昨日、突如として現れたらしい。


「今は日本海の近海を漂っている」

「天空ダンジョンってやつですね! すごい!」


 俺は興奮のあまり声を上げてしまった。

 その声に一同が俺を見つめてきた。やばっ、はずい。

 ギルド長は咳払いをして、話を続ける。


「この浮島もそうだが、ワシントンダンジョンではボスモンスターが上の階層へ移動してきたという。今までになかったことが起き始めているように思える。知床ダンジョンもボスモンスターは極めて強力だった。今後のダンジョン探索はより慎重に進めなければいけない」

「大丈夫よ、パパ。私がいるでしょ」


 仁子さんがそういうとギルド長が大きくため息をつく。


「お前だって、ファフニールとの戦いで死んだじゃないか。あれには肝が冷えたぞ」

「あれは……でも次は負けないから!」

「そうだといいが、実際にはそう甘くはない。くもくも君がいたから、乗り越えられたようなものだ」

「うっ……」


 仁子さんは珍しく歯切れが悪く、言葉をつまらせてしまった。


「くもくも君さえ良ければ、新たに発生したダンジョン関係の問題について、タルタロスギルドとしては協力して解決していきたいと思っている。どうだろうか?」


 ギルド長から真っ直ぐな熱い視線が送られてくる。

 俺としてはダンジョンについて、新しい情報源を得られるなら嬉しい限りだ。

 天空ダンジョン……なんて良い響きだろう。


「こちらこそです。すでに仁子さんにはお世話になってしますし、できる限りの協力をさせていただきます」

「それを聞いて安心したよ。君の協力が得られるというのなら、他のギルドもこぞって参加してくれるだろう」


 なるほど、俺を使って日本にあるギルドをまとめ上げようとしているようだった。

 それほど、写真にある浮島は異質な存在なのだろう。今までダンジョンがゲートをくぐった先のことで、この世界には影響はなかった。

 しかし、それが俺たちの世界にも影響を及ぼし始めているとしたら、たしかに大変な兆しだと思う。

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