第81話 親睦会

 会合での固苦しいお話が終わったところで、懇親会となった。ギルド長としては、俺が参加することを知って、かなり力を入れてくれたようだった。


 テレビのグルメ番組でしか見たことのない食材の数々が大テーブルの上に並んでいた。

 いわゆる高級料理というやつだ。


 母さんがいたら、喜んで小躍りしそうなほど、美味しそうだった。

 圧巻の料理を眺める俺に、ギルド長は言う。


「さあ、食べてくれ。せっかくの料理が冷めないうちにね」

「くもくも! 早く食べないと無くなっちゃうわよ」

「仁子もそういっていることだし、遠慮することはないよ」


 そこまで言われたら、しっかり食べないと失礼だ。

 目の前にあった大きなフカヒレの姿煮にロックオンした。

 フカヒレ自体食べたことはない。しかも、なんて大きさなんだ。

 中華料理は大好きなので、これは以前から食べてみたかったものだった。


「では、いただきます!」


 うまままままっ!

 やばいってこれは……食感は軽やかで、濃厚な味付けが絶妙だった。

 なんてことだ。気がついたら、全部食べてしまっていた。


 そんな俺にギルド長は微笑みながら言う。


「くもくも君は中華料理が好きなのかな?」

「大好きです。普段はこのような高級料理は食べたことはないですが、酢豚をよく食べます」

「それなら、向こうに酢豚があるよ。良い黒豚を使っているから美味しいと思うよ」

「ありがとうございます! ではちょっと失礼します」


 俺は酢豚に向かって一直線。

 おおおっ、これはなんて素晴らしい酢豚なんだ。

 素揚げされた野菜たちは見るからに、シャッキシャキ。

 黒豚のロースは衣をカリッと揚げてある。

 それらが甘酢で絡められており、これ以上ない輝きを放っていた。

 間違いない。これはうまいに決まっている!


 酢豚を頬張ると、俺の予想は完璧に当たっていた。

 これを作った人は天才だと思う。

 パクパク食べていると、白ごはんが欲しくなってしまうほどだった。


 酢豚に感動して貪る俺に朗報が届いた。


「くもくも、これも必要でしょ」

「仁子さん!」


 なんと仁子さんが山盛り白ごはんを持ってきてくれたのだ。


「ありがとう! 酢豚にはご飯だよね」

「他にも料理があるのに、そんなに酢豚が好きなの?」

「そうだよ。他の中華料理も好きだよ。さっき、フカヒレも食べたし」

「いろいろと用意してあるから、よかったら他の料理も食べてね」

「仁子さんは、もう食べたの?」


 俺の世話を焼いてくれた後、ずっと側にいるので気になった。


「私はいつものことだからね」

「食べ慣れているんだ」

「なら、おすすめを教えてもらってもいい?」

「かしこまりました! では付いてきて」


 やはりこういうときは、経験者に教えてもらうのが一番だ。

 三大珍味はもちろんのこと、聞いたこともない食べ物まで仁子さんの説明とともに頂いた。

 大手ギルドの親睦会とはすごいものだ。

 いろいろと食べまくったけど、結局は大好きな酢豚に落ち着いた。


「やっぱりこれだな」

「そんな気がしていたわ」

「食べ慣れているものが落ち着く感じかな。でも、普段食べれないものに出会えて楽しかったよ」

「そう言ってもらえると用意しがいがあるってものね。今後は協力関係だから、気兼ねなく親睦会に参加してね」

「いいの?」

「ウエルカムね。君のアイテムにはいつも助けられているから、みんな歓迎よ」


 確かに親睦会で出会う人は、すべて俺に友好的だった。

 中には中級ポーションで探索者として復帰できたことを喜びとともに、俺に熱烈な感謝を述べてくる人がいた。

 それ以外にも、蘇生のペンダントで九死に一生を得た人からもお礼を言われたりした。


 今回の会合の参加者は、俺のアイテムでお世話になった人ばかりだった。それほど、俺のアイテムはほとんどの探索者に行き届いているのかもしれない。


 販売ゴーレムの売れ行き好調からもわかってしまう。


 仁子さんと一緒に酢豚を食べていると、ギルド長がビールジョッキを片手にやってきた。

 手に持っていたビールを一気に飲んで、俺に聞いてくる。


「ところで、アラスカダンジョンへ行くそうだね。仁子から聞いているよ」

「はい、明日から探索しようと思っています」

「あそこは何もないところだが……君が行くということは何かがあるんだろうね」

「確証は無いのです。行ってみないことにはわかりません」

「何か必要な物や人材があったら、遠慮なく言ってくれ……と言いたいところだが、君には不要かもな」

「いいえ、仁子さんにはいつもお世話になっています。S級探索者はギルド内で希少な存在なのに」

「仁子が好きでやっていることだ。気にすることはない。そうだよな?」

「うん。学生生活も楽しいし、君と一緒なら探索者も楽しめる。一石二鳥ね」

「ということらしい。これからも仁子のことを頼んだよ」

「はい。頑張ります!」


 頑張りますと言う返事は、なんだかおかしい気がしたけど、ちょっと緊張してしまったのだ。

 任せてくださいというべきだったな。

 そんなことを思っているとギルド長に笑われてしまった。


「そうだ。アラスカダンジョンはとても寒いから、防寒具は必須だ。くもくも君は持ってるのかい?」

「いいえ、家にあるダウンジャケットを着ていこうと思っていました」

「それだと防具として貧弱だろう。良ければ、君に合う物を用意させて貰えないかい?」

「良いんですか!?」


 それはありがたい話だ。

 ギルド長は、知床ダンジョンでミスリルソードをたくさんもらったことのお返しだという。


「あと仁子が魔剣グラムをもらったからな。ちゃんとお返しをしないといけないと思っていたんだよ」

「あの大剣と同等なものを用意できるの、パパ?」


 仁子さんに言われてギルド長はタジタジになっていた。


「できる限りのことはさせて欲しい。さすがにグラムと同等とはいかないがな」

「当たり前よ。すごい大剣なんだから!」


 胸を張ってドヤする仁子さんは、俺に目線を送った。

 ああ、グラムをアイテムボックスから出してという合図だ。

 俺はすぐに取り出して、仁子さんに渡した。

 魔剣グラムは、今俺が管理している。理由はあまりにもでかいことと、盗難の危険があったからだ。

 それを解決するために、俺のアイテムボックスに仁子さんが預けたいと言ったのだ。


 ついでに仁子さんの他の装備も俺が管理していた。


「どうよ、パパ。この武器すごいでしょ」

「おおおおっ、見ただけでわかるな。持ってみてもいいかい?」


 なぜか、ギルド長は俺に聞いてきた。


「どうぞ。これは仁子さんのものですから」

「はい、パパ」

「これは……なんてことだ。持っただけで力が湧いてくる。計り知れない魔剣だ」

「でしょ! ファフニールもこれがあれば私一人でいけるかも」


 俺は魔剣グラムを持って盛り上がる片桐親子を見守っていた。他の幹部たちもその輪に加わり始めた。

 めっちゃグラムが人気だ。


 探索者の親睦会は普通のものとは一味違う。

 幹部たちも、俺の動画配信で魔剣グラムのことは知っており、ずっと気になっていたようだ。


 どうやら、今回の親睦会の主役は魔剣グラムだった。

 俺は楽しむ彼らを見ながら、残った酢豚を頬張った。

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