第104話 探索再開
「さあ、今日もアラスカダンジョンを探索していきます! 第3階層は沼地でした。足場が悪いし、沼に隠れたモンスターに苦労しました。この大階段を降りると、いよいよ第4階層です。一体、どのような環境なのでしょうか」
「気になります!」
俺たちは学校から帰って、すぐにアラスカダンジョンへ直行した。
そして、LIVE配信を始めたところだった。
仁子さんはいつものように、コメント欄が溢れかえるように大人気。
俺の配信なのに、主役扱いである。まあ、仁子さんの勇士を見れるのは、ここだけなので視聴者たちが押し掛けてくるのはよくわかる。
俺が視聴者だとしても、仁子さんを見るために同じようにしていただろう。
「みんな、今日もどんどん探索するから、応援をよろしくね!」
仁子さんがそう言うと、コメント欄がより一層盛り上がる。
俺ものその輪に加わって、「おーう!」と画面の端に映り込んでいると、彼女にツッコまれた。
「くもくもは、視聴者じゃないでしょ! しっかりと主役をしてもらうわよ」
彼女はポケットから折り畳まれたタスキを取り出して、俺にかけた。
「何これ!?」
「くもくものチャンネルだから、しっかりと新規の視聴者たちにわかってもらえるように作ったの。いいでしょ!」
タスキには【今日の主役】と書かれていた。
いやいや、これだと普段が主役ではないみたいじゃないか。
しかし、コメント欄が盛り上がっていたので良しとする。
「よしっ! 今日の主役なので、それに相応しい活躍ができるようにがんばります!」
「第4階層にいきましょう!」
「仁子さん、今日の主役を差し置いて、先に行かないでっ」
いきなりモブ化するところだった。油断も隙もない。
これが天性の主役なのかもしれない。
俺は仁子さんを追い越して、大階段を駆け抜けた。
「うあああ、どうなってんだ。このダンジョンは……」
「喉が渇きそうな光景ね」
俺たちの前に広がっていたのは、一面の砂漠だった。
どこを見ても赤っぽい砂だけ。強い風によって、吹き溜まりには大量の砂が集まって、大きな山を作り出していた。
「見てください。あの砂の山を100mはゆうに超えているかもしれないです」
「くもくも、見てよ。天井が……」
「空だ」
ここはダンジョンのはず。明らかに降りてきた大階段よりも、高すぎる天井だった。
「空間が歪んできるのかな」
「大概のダンジョンは横方向に広がっているじゃない。この階層では縦方向にもって感じだよね」
「空が飛びやすいから良いと思うけど、そうなると……」
「やっぱりくもくもも同じことを思ったみたいね」
答え合わせは飛行するモンスターの群れが現れたことで、すぐにできた。
俺はスマホを取り出して、アプリの鑑定を実行。
名前はワイバーン。羽が生えたトカゲのように見えていたが、近づいてくるとかっこいい顔つきをしている。
口から炎を吹いているし、翼に鋭い爪が3つあった。
問題は、名前以外の情報を鑑定できないことだった。なぜか、エラーとなってしまい。表示されない。
今まで鑑定は俺の探索において、とても助けになっていたのに……。
やはりこのダンジョンは、おかしい!
「仁子さん、ワイバーンの強さがわからないから気をつけて」
「大丈夫よ。あのモンスターは他のダンジョンで戦ったことがあるわ」
彼女は勢いよく飛び上がると、背中に竜の翼を出現させた。
空中で戦うつもりだ。
俺もすぐに天使の翼を広げて、仁子さんを追う。
彼女は俺から魔剣グラムを受け取らずに、自慢の拳でワイバーンに殴りかかる。
空中戦となれば、非常に重い大剣は不利だ。それをわかっていて、身軽になれる戦い方を選んだのだろう。
それに対して俺は愛剣のフランベルジュを取り出した。この剣は少し重い程度で、俺の動きが遅くなることはない。それに使い慣れた剣が一番だった。
気になるのはこの剣が炎属性で、炎を吹くワイバーンとの相性が悪そうに思えた。
仁子さんの拳はワイバーンの頭を吹き飛ばす。俺の剣は二匹同時に一刀両断をした。
「なんだ。思った通り、大したことはないわ」
「うん、鑑定がうまくいかないと思って、驚いたけど普通だったね……」
「「なにっ!?」」
困ったことが起きた。
安心した瞬間に絶望が襲ってくるとは、さすがダンジョンである。
しかし、コメント欄は大盛り上がりだった。
視聴者たちは「再生した」や「増える」なんて書き込みを一杯していた。
配信しているほうは、ワイバーンの奇行にびっくりだ。
「頭が再生しているわ」
「俺の方が二匹が分裂して、四匹になったよ」
「これって倒せるの?」
「細切れにしたら、それの数だけ増えそうな予感がする」
今ですらワイバーンは100匹を超えているのに、これが戦うほど増加していくなんて……ヤバすぎる。
ドロップ品も得られないというのも、懐に痛い。
「戦うだけ損かも」
「そう言いたいけど、囲まれている以上、戦わないわけにはいかないわ」
「ですよね」
少なくともワイバーンの動きを止めないと、下への大階段を探すこともできそうもない。
「ワイバーンの壁をどうにかしないと……そうだ!」
「何か思いついたの?」
「仁子さんは巻き込まれないように俺から離れないで」
「わかったわ」
俺が冷気を纏い始めたことに、気がついた仁子さん。おそらく、これからやろうとしていることを理解したみたいだった。
「全力ニブルヘイム!!」
魔力を最大限に高めて、全方向に向けて一気に放った。
「やった!」
カチンコチンに凍りついたワイバーンたちは、砂の海に落ちていった。
凍らせて虫を殺すスプレーを母さんが愛用しているけど、その効き目に俺も感心していた。そのこともあって、いつかニブルヘイムでもやってみようと思ったいたのだ。
「気になるのは、倒せたかだけど」
「ドロップ品には変わらないね」
「生命力が強いな」
頭を吹き飛ばされても、再生してしまうほどだ。凍らせて殺せるくらいなら、苦労はしないか。
でも、動きを止められたからここを離れよう。
「くもくも、見て! モンスターの増援が来たわ」
「どんだけいるの? どこかで湧いているのかな?」
援軍と言って相応しい数だった。ざっと数えて200匹は超えている。
そのうち、半分くらいが俺たちの前に立ち塞がり、残りは凍りついた仲間の元へ降りていった。
何をする気なんだろう……えっ、そんなことができるのか!?
「氷付された仲間を助けている!?」
「モンスターがそんなことをするなんて、初めて見た」
ワイバーンが健気に、仲間の氷を口から吹く炎で溶かしていた。
「モンスターのくせに尊いことを……」
「感動している場合じゃないわ」
そうだ! 俺たちは、尊いモンスターたちに囲まれて、殺されようとしていたんだ。
モンスターの意外な生態を見られて、心を温めている暇はない。
「ニブルヘイムを連発しながら、道を切り開くから仁子さんは下への階段を探して!」
「わかったわ。魔力の使いすぎには気をつけてね」
「了解!」
俺は氷魔法ニブルヘイムを行使して、道を塞ぐワイバーンを氷付けにしていく。
たまに、魔法から逃れて俺たちを襲ってくるワイバーンには仁子さんが拳で対応した。
しかし、体を分割してしまうと、その数だけ増えてしまうので、彼女は細心の注意を払って、拳をワイバーンに向けて叩き込んでいた。
「さあ、どんどんいくわよ!」
何気に彼女のストレス解消として、良いサンドバックなのかもしれない。
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