第61話 最下層へ
戻ってきました。知床ダンジョンの第五階層!
挨拶代わりにグランドワームを倒したところで、アプリから通知が届いた。
◆グラムの素材
・ ファフニールの輝石 ✕ 1
・ ミスリルソード ✕ 1000
おおっ! 魔剣グラムをクラフトできるようだ。
鑑定で調べてみる。装備者の能力を飛躍的に引き上げるバフ効果が付いている。それに加えて、魔力の斬撃を飛ばせるみたいだ。
接近戦は剣で、遠距離は斬撃波!
ステータスアップもするし、この魔剣は強力だぞ!
問題はクラフトするための素材だ。
ミスリルソードを1000本も必要とするのは、とんでもない大食らいの魔剣だ。
それにファフニールの輝石が気になる。
名前から察するにドラゴンと思われる。
大抵のドラゴン種は、ダンジョンのボスモンスターだ。
おそらく知床ダンジョンのボスモンスターは、ファフニールだろう。
仁子さんにも、ボスモンスターの予想について相談する。
「ファフニール? 神話級のドラゴンね。倒しがいがありそう」
彼女は楽しそうだった。さすがは戦闘慣れしている。
「八雲くんも全力で戦えそうなモンスターじゃない?」
「そうだね。ステータスがアップしたのを試したみたいな」
ステータスはギア5で抑えている。まだギア6を使っていない。なぜなら、ギア5でも力を持て余しているからだった。
ギア6はボスモンスター戦までのお楽しみにしておこう。
「さあ、下の階層に行きましょう。ギルドから8階層までの道順は教えてもらっているし」
「マジで助かるよ」
「これがタルタロスが知床ダンジョンへ来た本来理由だからね」
俺たちは、第五階層のトラップ地獄を避けながら、下の階層に下りていった。
「配信は第6階層からするの?」
「そのつもりだよ。既に配信待ちの人たちがかなりいるからね」
「今や人気配信だものね」
「まだ100万人だからまだまださ。目指せ、1000万人! なんてね」
「八雲くんなら、1億人も達成しそう。だって、最近のLIVE配信で海外の人たちの書き込みが増えているじゃない?」
「それは思っていた。チャンネル登録者の1割くらいが外人さんだね」
仁子さんとはパーティを組むことによって、LIVE配信中のチャットが俺と同じように視界に入るようになっている。
だから、書き込みの状況を把握しているのだろう。
「海外からの書き込みのほとんどが、自分の国にあるダンジョンへ来て欲しいって感じだったわね」
「次はアメリカのワシントンダンジョンだから、喜ぶ視聴者もいるかもね」
「八雲くんの販売ゴーレム目当てだと思うわよ」
特に中級ポーションへの熱望がすごい。
たまに嫉妬混じりの書き込みもあるくらいだった。
「配信者たる者、チャットの書き込みに振り回されないようにしないとね」
「うん。それは大丈夫かな。全然、気にならないから」
俺はそんなことよりも、ダンジョン探索とアイテムクラフトが楽しいのだ。
俺が楽しんでいる過程を視聴者にもお裾分けという感じで配信していた。
階段を降りながら仁子さんが思い出したように言った。
「そういえば、八雲くんが販売ゴーレムから出禁にしたメビウスギルドが壊滅状態になっているみたいよ」
「マジで!」
「それほど君がクラフトするアイテムが探索には欠かせないものになっているってことね」
メビウスに対して販売ゴーレムを使えないようにしたのは、最近なのにそれほどの効果があったとは思ってもみなかった。
仁子さんが言うには、販売ゴーレムからの出禁が発覚してすぐにギルドメンバーの離散が始まったそうだ。
「新しいギルドを作って、逃れようとしている探索者もいるみたいね」
「また悪評が轟かないことを祈るばかりだよ」
その時はまたブラックリストのフィルターに追加するだけだ。
「日本の三大ギルドの一角を潰してしまうなんて、さすがはダンジョン神ね」
「少しは平和になると良いね」
「メビウスのギルド長が怒っているらしいわよ。気をつけてね」
それは注意しておこう。ブラックリストにはギルド長をしっかりと登録してある。
もしダンジョン内で襲ってきたとしても、ステータスのギア6で返り討ちにできる。家族の身については、公安の人たちが守ってくれているし、たぶん心配はないだろう。
仁子さんと話しながら、第6階層にやってきた。
よしっ! LIVE配信を開始だ。
「どうも、くもくもです! 今日も引き続き、知床ダンジョンに来ています! ここは第6階層です。そして、タルタロスギルドの片桐さんと共に探索していきます」
「よろしくお願いします!」
仁子さんが笑顔で挨拶すると、チャットの書き込みが一気ににぎやかになった。
これが男子高生と女子高生の差だ。
配信者よりもゲストの方が人気があるのはよくあることさ。なんて思いつつ、話を続ける。
「今回は魔剣グラムのクラフトを目指します! おそらく最下層にいるボスモンスターからのドロップ品が必要になると思われます。ですので、今日で知床ダンジョンを攻略完了します!」
言い切ってしまった。
こうなってしまえば、有言実行しかない。
仁子さんが元気よく掛け声を言う。
「そうと決まれば、どんどん進んでいこう!」
「おう!」
タルタロスからの事前情報から、この階層には大蜘蛛のモンスターがいるらしい。
大きな腹の先から発射される糸は、鋼のように強靭でかつ伸縮自在だという。
そして粘っこくて、一度絡みついたら身動きが取れなくなってしまう。
「この階層はダークスパイダーがいます。吐く糸に捕まると、大変です!」
と言いながらも、俺と仁子さんはダークスパイダーが糸を吐く前に倒していた。
動きは早いが、俺達の敵ではなかった。
ドロップ品はダークスパイダーの目だった。結構、キモいドロップ品だ。
立ちはだかるダークスパイダーをバッタバッタと倒していると、すぐに下の階層への大階段を見つけた。
事前にマップをもらっていると、すごく楽だ。
「では、第7階層へ下りていきます! やはりパーティを組むと探索は早いですね」
「私とくもくもが強いから、こんなに早く進めるのよ。本来なら数時間はかかるかもね」
仁子さんにそう言われて思い返してみれば、たしかにそうかもしれない。沖縄ダンジョンを探索していた頃の俺だったら、もっと時間がかかっていた。
ニコニコしていた仁子さんが真剣な顔になって俺に言う。
「この下の階層にいるモンスターには気をつけてね」
「あっ、そうだね」
俺も気を引き締める。視聴者たちにも、第七階層にいるモンスターについての注意事項を伝えた。
「次の階層にいるモンスターは、メドゥーサです。直視すると石化してしまいます。LIVE配信越しなら、影響は受けませんので安心してください」
タルタロスギルドの調査隊の一人が、メドゥーサによって石化してしまう悲劇があったのだ。
しかも、その人は中級ポーションをもってしても、治らなかった。
メドゥーサは強くはないモンスターだ。しかし、その特殊能力は大変危険だった。
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