第60話 投資家

 学校から帰宅して、納屋で仁子さんがやってくるのを待っていた。

 LIVE配信のお知らせもしている。配信開始を待つ視聴者たちがどんどんと増えていた。

 この調子なら同接が10万人を超えるかもしれない。


 チャンネル登録者数も投稿した動画ランキングに載るようになったので、今も鰻登りに増加している。

 飛ぶ鳥を落とすとはこのことを言うのだろう。


 それに伴って、俺が一般公開しているSNSにコラボ依頼をしてくるダンジョン配信者が多くなった。


 その中には俺よりもチャンネル登録者が多い有名配信者たちも名を連ねていた。


 とても光栄なことだが、今はコラボ配信をする気になれない。サポートなら仁子さんがいるし、純粋にダンジョン探索を楽しみたいのだ。


 それに俺の場合、アイテムクラフトが絡んでくるコラボしている配信者にその見返りを求められたら、面倒なことになる。


 俺から見てもクラフトしたアイテムは、強力過ぎるからだ。

 またコラボ依頼が来たぞ。

 中身を読んでみると、あからさまに俺のアイテムを使わせて欲しいと書いてある。

 俺は大きくため息をつく。


「有名になるって大変なんだな」


 身の回りの雑音が大きくなっている感覚だ。


「今更、何を言っているんだか」

「あっ、仁子さん! 早かったね」

「八雲くんがそれをいう? 私の家の前に金塊を1トン置いていったから大変だったのよ」

「大地の息吹を譲ってくれたお礼として渡す約束をしていたから」


 あそこにあのままにしておけなかったから、輸送手配に時間がかかったらしい。それなら、言ってくれたらいいのに……。


 でも、金塊1トンを見た仁子さん以外のギルドメンバーは目がお金のマークになっていたため、また今度と言うわけにはいかなかった。


「またギルドが潤ったわ。ありがとね」

「それはよかった。タルタロスにはお世話になりっぱなしだから、また金塊が必要なら言ってね」


 そう言うと仁子さんに呆れられた。


「ポケットマネーみたいな感覚で金塊1トンを渡す高校生……将来が楽しみね」

「将来? う~ん、普通にサラリーマンをしながら、ダンジョン配信をしたいかな」

「えっ!? 専業の探索者やギルドを立ち上げないの?」

「今のところ考えてないかな」


 俺にはダンジョンポータルがある。探索がしたいときに移動時間を考えることなく、ダンジョンへ直行直帰できる。

 今も学生生活をしながら、ダンジョン探索を楽しんでいる。

 サラリーマンとダンジョン探索者の両立は可能だろう。


 仁子さんはすごく意外だったようだ。


「平凡なサラリーマン、実は最強の探索者を目指しているの?」

「最強かどうかは別として、そうかな。社会の常識的なものを得ておきたいから。両親もその方が喜ぶだろうし。二足のわらじを履きながら、様子を見るよ」


 ダンジョンは急にこの世界に現れたという。

 それなら逆にいきなり無くなってもおかしくはない。

 もしそうなったら、無職だ。まあ、お金があるだろうけどさ。


 なんか暇そうな人生になりそうなので、サラリーマンもやっておきたい。それに勉強を頑張っているし。


「八雲くんって変わっているわね」

「あっ、そうそう。これを見て!」


 俺はスマホを仁子さんに見せた。


「えっ、八雲くん! 株をやっているの?」

「うん。ほら、公安を通して国に、金属系素材を売ったお金で、株を始めたんだ」


 未成年なので両親の許可がいる。

 父さんにお願いしたら、経済の勉強になるからと言って快諾してもらったのだ。

 仁子さんが俺が買った銘柄を見ながら頷いた。


「手堅い所を買っているわね。もしかして会社を乗っ取る気?」

「そんなことしないよ。俺だってちゃんと調べて買っているんだよ。発行株式数の5%以上は買ってないよ。面倒だからね」

「海外の株も買っているんだ」

「そうだよ。積立投資みたいな感覚で、手元にお金が入ったら買っている感じかな」

「本当に将来が末恐ろしいわね……」


 俺の投資計画はお金儲けというよりも、手元に入ってくる信じられないお金に困って預けている感じだ。

 配当金もあるし、10年という長いスパンで考えたら、銀行で預けているよりも良いと思う。


 もし銀行の金利が上がったときには、定期預金も考え中だ。


「高校生には手に余るお金だからさ」

「八雲くんの性格から考えると、無駄遣いしなさそうだけど。大金を持つと人格が変わるとも言われているから、距離を置くのは良い考えかもね」

「値動きは考えずに買い続ける投資戦略!」

「富豪のみが許された買い付け方ね。……その方法だと負けないような気がする」


 俺自身で今どれくらいの資産があるのかをはっきりと分かっていない。株アプリや銀行アプリの金額は把握できる。

 しかし、日々繰り返される販売ゴーレムの売上については追いきれていない。そして、俺が作り出すアイテムの市場価格もよくわからないものまである。


 今は販売ゴーレムで素材との交換で、探索者とやり取りしているからだ。

 仁子さん曰く、特に中級ポーションは途轍もない価値があるらしい。

 それでも俺としては販売ゴーレムで売り出しているものは今まで通り、素材交換するつもりだ。

 ダンジョン探索を盛り上げたいから、品揃えをもっと増やしていく所存だ。

 そんな俺に仁子さんは面白そうに言う。


「八雲くんが知床ダンジョンで、販売ゴーレムを設置してから、早く開放してくれって探索者から問い合わせがすごいみたいよ」

「タルタロスギルドの調査はどれくらい進んでいるの?」


 たしか昨日、再開するとギルド長が言っていた。


「今は第8階層を調査中みたいね。もしかしたら、私たちと出会うかもね」

「結構進んでいるね。知床ダンジョンは第10階層までだよね」

「深度計測器の予測ではね。実際は潜ってみないとわからないかな」

「ボスモンスターは強いかな」

「今の八雲くんが苦戦するなら、今探索しているタルタロスギルドのメンバーは全滅ね」


 知床ダンジョンの今回の調査ではボスモンスターの確認まではしないようだ。高難易度ダンジョンではボス部屋に入ったら出られない恐れがあるためだった。


「ボスモンスターは私と八雲くんで倒せば、完璧に調査完了ってこと」

「それでやっと知床ダンジョンが一般開放されるわけか」

「すごい人数の探索者が押しかけるでしょうね。空前の知床バブルが始まるわよ」


 知床ダンジョンの近くの町は、それに備えて水面下で準備を進めているという。

 タルタロスギルドに、探索者の受け入れについて沢山の相談が寄せられて大変のようだ。


「もしかして、仁子さんは今日で知床ダンジョンを攻略完了させるつもり?」

「そうよ! 他のギルドからの圧力がすごいのよ。だからパパも大変みたい」


 第8階層の調査中で早いなと思ったら、そういう理由があったわけか。


「空前の知床バブルのためにも、今日の探索は頑張ろう!」

「おう!」


 俺と仁子さんは装備を整えると、知床ダンジョンに繋がったポータルの中へ入った。

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