第62話 魔力探知
第七階層はメドゥーサの縄張りだ。
このモンスターは互いに仲が悪く、群れをなさない性格らしい。
鏡越しなら見ることができるのは、神話の世界と一緒みたいだった。
仁子さんから事前に鏡を用意してもらっていた。しかし、実際に鏡を見ながら戦うのは思った以上に難しい。
頭がこんがらがってしまう。
仁子さんは俺とは違って平気のようだった。メドゥーサの顔面を殴り飛ばして、ドロップ品に変えていた。
「やるね! 仁子さん」
「幼い頃から、いろいろなダンジョンに潜って、沢山のモンスターと戦ってきたから、このくらいなんともないわ」
熟練度の差ってやつかな。
ここは俺がもっとも得意としている戦い方でいこう。
魔剣フランベルジュを鞘に収める。
それを見た仁子さんは頭をかしげながら言う。
「どうするつもり?」
「こうする!」
「えっ!?」
俺がメドゥーサに向かって振り向いたので、仁子さんは驚いたようだった。しかし、ちゃんと目を瞑っているので、直視していない。
魔法が使えるようになってから、モンスターの魔力を探れるように密かに鍛錬してきた成果をここで発揮するのだ!
集中して、周りの魔力を探っていく。左横からとても強い魔力を感じる。これは仁子さんだ。
そして正面から、禍々しい魔力が発せられている!
「ここだ! アイシクル!」
氷柱を飛ばすと、メドゥーサの悲鳴が聞こえてきた。
そして正面から発せられていた魔力が消えた。
ゆっくり目を開けると、メドゥーサの宝玉が落ちていた。
「やった! これで目を瞑って戦える!」
「また器用なことを……」
「仁子さんに言われたくないよ」
俺としては鏡越しに戦えるほうが器用だ。
魔力探知がうまくできるようになった最大の理由は、ステータスアップが大きかった。
ステータスが上がる前はおぼろげに感じられていた。それが今ははっきりと手に取るようにわかるのだ。
と言っても、ダンジョンの構造までも目を瞑って把握はできない。
それでもメドゥーサが近づいてきたら、魔力探知によって気がつくことはできる。
だから俺たちは警戒をしながら、ダンジョンを進んでいき、メドゥーサを感じたら戦いに備えるを繰り返した。
「くもくも探知機は、高性能ね。今度、私にも魔力探知を教えてよ」
「じゃあ、目を瞑って周りの魔力を感じてみて」
「いやいや、感じることができないから!」
「そうなの……あっ! ほら仁子さんって魔法を使わないじゃない。だから、その感覚がわからないのかも」
「言われてみればそうね。今度、ギルドが管理している魔法系のアイテムを持ってこようかな」
仁子さんにとって、物理攻撃ですべてが完結していたため、魔法をあえて使う機会がなかったようだ。
俺は魔法にかなりお世話になっているから、逆にびっくりだよ。
仁子さんの魔力探知の習得については、後日となった。
今はメドゥーサに集中しよう。
メドゥーサと目を瞑って、魔力探知のみで戦い続けていると、熟練度が上がっていくのを感じた。
モンスターの些細な動きさえ手に取るようにわかるようになったからだ。
試しに、鞘からフランベルジュを抜いて、目を瞑ったままメドゥーサと戦ってみる。
「ここだ! セイッ、ヤー!」
手を切り落とした後、詰め寄って首を跳ねる。
ふー……いける……いけるぞ!
視覚に頼らなくても、魔力探知のみで戦える。
しかも、モンスターに流れる魔力の流れから、どの部分を動かして攻撃するのかをはっきりと感じ取れる。
魔力探知の方が視覚よりも、早くモンスターの攻撃を先読みできるぞ!
「見える! メドゥーサの動きが……その先が見える!」
「急にくもくもの戦い方が変わったわね」
仁子さんに褒められてしまった。
それほど、今までとは比べ物にならないくらい戦いやすくなっていた。
「魔力探知やばい! めっちゃ戦いやすくなる」
「本当に見違えるように動きが良くなったわね……私も魔力探知を早く習得したい!」
仁子さんに羨ましがられて地団駄踏まれるほど、俺はメドゥーサ戦によって、強さが増した感じだった。
勢いに乗った俺はメドゥーサをバッタバッタを倒しまくり、あっという間に下への大階段までやってきた。
視聴者たちも満足してくれているようだ。
「この下の階層には、タルタロスギルドの調査隊がいるみたいです。仁子さん、一度合流したほうがいい?」
「その方が助かるかも」
調査隊からの連絡では、今のところメドゥーサで一人が石化した以外は、大きな問題は出ていないみたいだった。
「第8階層のモンスターに少し手こずっているみたいだから、様子見はしておきたいかな」
「了解! では下の階層にいこう!」
「おう!」
第8階層のモンスターは、ジオカメレオン。
ダンジョンの壁や床、天井に擬態して、周りの景色に同化してしまうみたいだ。
そのため、気が付かない間に忍び寄ってきて攻撃してくるらしい。
しかし、魔力探知を極めつつある俺にとって、ジオカメレオンの擬態はまったく意味をなさなかった。
仁子さんがジオカメレオンを倒しまくる俺を見て言う。
「ジオカメレオンが擬態をしている分、隙だらけで格好の的になっているわね」
「油断大敵ってやつだね」
擬態をして待ち伏せしているつもりだろうけど、動かないからアイシクルが面白いように当たる。
百発百中とはこのことである。
「やばい! この階層が一番楽かも!!」
「くもくもの魔力探知が感度良すぎるから相手にならないだけよ。普通ならどこにいるかわからないから苦労するんだから」
仁子さんは苦笑いしながら、タルタロスギルド側として、探検隊の肩を持った。
「視聴者の人たち、知床ダンジョンに来る際は注意してね! ここは高難度ダンジョンだからね。ダンジョン神が強すぎて、低難度ダンジョンに見えるけど、絶対にそうじゃないから!」
俺がメドゥーサに続き、ジオカメレオンまでサクサクと倒すから、視聴者が勘違いしないように仁子さんが注意喚起していた。
それほど、楽な戦いだった。
やっぱりステータスのギア6をお披露目するのは、ボスモンスターになりそうだ。
魔力探知を活かして、タルタロスギルドの人たちを探す。
「こっちの方から、人間の魔力を沢山感じるよ」
「もう猟犬並みに鼻が利き始めているわね」
「ワンワン! こっちだ、ワン!」
「調子にならない!」
仁子さんに叱られながら、歩いているとタルタロスギルドの人たちが見えてきた。
結構疲弊しているようだった。
仁子さんが駆け寄って、状況を確認する。
「どうやら、ついさっき休憩中にジオカメレオンの群れに襲われたみたい」
「マジで! それは大変だ! 怪我人は?」
「それは大丈夫。中級ポーションがあったから」
「あったから?」
過去形ということは……。
「準備していた中級ポーションが無くなってしまったみたい。それで探索の中止を検討しているところに私たちが合流したわけ」
「なら、探索は俺たちで引き継ぐ? あっ、その前に!」
俺はアイテムボックスから、中級ポーションを多めに取り出して、仁子さんに渡す。
「まずは無くなった中級ポーションを補充だね」
「助かるわ。ここで引き返すにしても、中級ポーションがあるとないでは、生存率がまったく違うから」
「タルタロスギルドにはいつもお世話になっておりますから、足りなければもっと用意するよ!」
「ありがとう」
仁子さんは沢山の中級ポーションを抱えて、タルタロスギルドの人たちと話し合いを始めた。
俺はその間、襲ってくるジオカメレオンをアイシクルで倒したり、ボルケーノで倒したりしていた。
魔力探知の熟練度を更に上げるのには、最高のモンスターだ。
守備は俺に任せておけ!
一匹たりとも逃しはしない!
ルンルン気分で魔法を放つ俺を見て、タルタロスギルドの人たちは、若干引き気味だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます