第49話 競争

 ヘルバードはとても好戦的なモンスターだった。

 俺たちを見つければ、猛スピードで駆け寄ってきて攻撃してくる。ダンジョン内はヘルバードで溢れかえっているため、休みなく戦うことになった。


「第2階層で狩りをするなら、ヘルバードに囲まれないように気をつけてください。かなり群れの意識が高いモンスターです」


 そういって注意を促した。なぜかというと、仁子さんが無双すぎて、ヘルバードの危険性が皆無になっていたからだ。

 俺から見てもヘルバードがあまりにも弱く感じてしまう。そのため、視聴者からしたら、それ以上に観えてしまう恐れがあった。


「くもくも、ヘルバードをどっちが多く狩れるか、競争しよう!」

「いいね! ドロップ品の数で確認だね」

「じゃあ、位置について……よ~いドン!」


 仁子さんは東側に、俺は西側に向けて走り出す。

 ヘルバードを駆逐するのは俺だ! すぐにモンスターの群れを発見!


「ステータス、ギア5」


 全力で氷魔法アイシクルを連発。襲いくるヘルバードたちを氷柱で穴だらけにして、ドロップ品に変える。

 それを素早く回収してアイテムボックスへ収納。


 俺が屈んでいる隙きを狙って、ヘルバードたちが忍び寄る。

 クエ~ッという独特な鳴き声を上げずに、そのような動きもできるのか。結構侮れないモンスターだ。

 知床ダンジョンは高難度だと聞いていた。じっくり観察すれば、今までのダンジョンのモンスターとは一味違う。


「ニブルヘイム!」


 でも、俺が展開した極寒の領域では不意打ちはできまい。

 魔力が格段に上がった今では、ニブルヘイムも別物になっている。

 絶対凍結と言っても過言ではない。


 まあ、魔力が俺よりも高い場合を除いてだが……。

 ヘルバードくらいなら、カッチコチだ。


 俺が両手で強くパンと戦うと、その振動で凍っていたヘルバードたちが崩れ落ちた。

 好戦的なモンスターだけあって、次から次へとニブルヘイムの冷凍トラップに引っかかる。

 どうやら、ヘルバードは学習能力が乏しいようだ

 仲間がニブルヘイムで凍っては砕け散っているのに、俺に吸い寄せられるかのように群がってくる。


「ヘルバードは勢いだけのモンスターに見えますが、恐れを知らないというのは脅威ですね。第2階層はこのモンスターをねじ伏せれるほどの力がないと、全滅する恐れがあります」


 視聴者も初めはヘルバードのバカさを嘲け笑っていた。

 しかし仲間がいくら死んでも止めどなく襲ってくる姿は狂気だった。

 例えるなら、ヘルバードという弾丸に集中砲火されてる感じだ。


 タルタロスギルドが先遣隊として15人ほどの大パーティーを組んだのがよくわかる。


 そしてヘルバードの突撃が収まるのに、なんと30分もかかった。

 その間、数えきれないほどのヘルバードたちの特攻が続いた。

 全周囲に極寒の地を展開するニブルヘイムが無かったら、面倒な戦いになっていただろう。


 今、俺の周りにはドロップ品がうず高く積まれている。

 それを回収すると、なんと4560個のヘルバードの羽根が集まった。

 ドロップ増加剤によって、二倍の効果があるので、倒したヘルバードの数は2280匹になる。

 それがわずか15分の間に襲いかかってきたのだ。


 普通のパーティーなら、最初は善戦していても、次第にヘルバードに押されていきひとたまりもないだろう。


 しかも、モンスターの出現するスピードが他のダンジョンに比べて圧倒的に早い。

 だって、さっき倒したモンスターのドロップ品を拾っている間に、もう囲まれてしまったからだ。


「ドロップ品を拾う時間も与えてくれないようです」


 俺はニブルヘイムがあるから、身動きが取れるからいいものの、他の探索者ではそうはいかないだろう。

 それにしてもドロップ品が大量過ぎて、拾うのが大変だ。

 なんて思っていると、アプリから通知が届いた。


『アイテムボックスに自動回収の機能が追加されました』

『機能を有効にしますか?』


 俺は迷わず、『はい』ボタンを押した。

 すると、俺の周りにあったドロップ品が瞬時に消え去った。

 アイテムボックスを確認すると、ヘルバードの羽根の数がどんどん増えていく。


「これはすごい……」


 なんと、自動回収の適用範囲は、パーティーを組んだ仁子さんにまで及んでいた。

 しかも、内訳として、俺と仁子さんが得た数まで見ることができる。

 このアプリは俺の心を読むかのように機能を追加してくる。

 まさにおもてなしの精神をもったアプリだった。


 これでヘルバードをどんどん狩れるぜ!

 ドロップ品を拾わなくてもいい!

 なんて素晴らしい言葉だろう。


 喜びを噛み締めながら、ヘルバードを倒していると……ん? なんだ!?

 ダンジョンの奥から、ものすごい足音が響き渡った。

 それは、俺の方へどんどん近づいてくる。


「なにかが来ます! もしかして、この階層にはヘルバード以外のモンスターがいるのかもしれません」


 途轍もないプレッシャーを感じる。今までで一番だ。

 俺は鞘から魔剣フランベルジュを抜いて、更にニブルヘイムを維持したまま、待ち構えた。


「くもくも! 大変よ!!」


 やってきたのは、仁子さんだった。

 危うくモンスターと勘違いしてしまうところだった。

 彼女は鬼気迫る顔で俺のところへ駆け込んできた。


 あれっ、ニブルヘイムを展開中なんですけど……まったく影響を受けている様子はない。

 メルトも大丈夫そうな口ぶりだったけど、ニブルヘイムもいける口のようだ。


「私が倒したモンスターのドロップ品が無くなったの!」

「ああっ、それは……」


 仁子さんに俺の方で預かっていると教えるとびっくりされてしまった。


「超便利! それでヘルバードが多く倒したのはどっちかな?」


 仁子さんが俺のアイテムボックスに回収される前の手持ちも渡してくれた。

 俺のアイテムボックスで集計した結果、


「うううぅ……負けちゃった」

「やった! まあ途中から自動回収によって、ドロップ品も拾う時間が省略されたからね」


 それに突然ドロップ品が消えてしまったことで、仁子さんはヘルバードとの戦いをやめてしまっていた。それが数を稼げなかった理由に繋がっていた。


 それでも仁子さんは悔しがっていた。結構負けず嫌いみたいだ。

 さてと、LIVE配信の時間も良い感じになってきたな。

 素材も集まったことだし、アイテムクラフトをするぞ!


「ヘルバードの羽根はたくさん集まりました。実は……既に第四階層でケルベロスの牙をゲットしています! なので早速、魔ポーション(中)をクラフトしたいと思います!」


 仁子さんが隣でパチパチパチと手を叩いてくれていた。


 アイテムボックスから素材を出して、クラフト開始!

 素材は光の粒子となって、形を成していく。

 出来上がったのは、小瓶に入った藍色の液体だ。

 魔ポーション(小)より、青の色味が強い。


「では飲んでみます。魔法を沢山使ったので魔力をかなり消費しています。果たして1個で全回復するのでしょうか?」


 味はどうなんだろうか?

 飲んでみると、ブルーベリーのような味がした。

 結構好きな味だ。


「これは……すごい。魔力が全回復しています! それだけではないです。魔力がみなぎっている感じがします」


 試しに氷魔法アイシクルを使ってみると、威力が2倍に上がっていた。


「副効果として、魔法の攻撃力が二倍になるみたいです!」


 元々、魔法自体が強い攻撃だ。それが魔ポーション(中)を飲むだけで威力が2倍になるのだから、お手軽だ。

 視聴者たちも副効果に驚いていた。魔力回復よりも、こっちのほうが受けが良かった。


「この魔ポーション(中)も知床ダンジョンの販売ゴーレムで売り出します! ダンジョンが一般開放されるまでお待ち下さい!」


 チャットでみんなが早く知床ダンジョンに行きたいと言っている。

 待ちきれないようだった。


「魔ポーション(中)のクラフトができたので、これで配信を終わります! 次回も引き続き知床ダンジョン探索をします。よかったらグットボタン、お気に入り登録をお願いします!」


 そう締めくくって、俺はLIVE配信を停止した。

 ふぅ~今日は濃密な一日だった。新宿ダンジョンから知床ダンジョンへ。

 そこではタルタロスギルドのメンバーたちを救出。そして、LIVE配信までやった。

 今日のダンジョン探索は濃密でお腹いっぱいだ。


「仁子さん、今日はありがとう!」

「いえいえ、八雲くんには助けてもらったし、こちらことありがとうね」


 俺たちは第一層にいるタルタロスのギルド長のところへ戻った。

 そして、販売ゴーレムに追加でアイテムを売り出すことを知らせた。

 ギルド長は大いに喜んでくれた。


「今日はこれで帰ります! また明日きます」

「そうか……しばらく儂らもここで調査しているから、なにか必要なことがあったら遠慮なく言ってくれ」

「はい、ありがとうございます!」


 そうだ。仁子さんはどうするのかな?

 ここに残るのかな?

 聞いてみると、


「八雲くんが良かったら、一緒に帰りたいかも。ほら、ここではシャワーも浴びれないし」

「いいよ。じゃあ、俺に触って」

「パパ、また明日ね。バイバイ!」


 俺と仁子さんは知床ダンジョンから、俺の家にある納屋へ帰還した。

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