第48話 物理最強
魔力を帯びたプラチナの塊に仁子さんと一緒になって、ホクホク顔だ。あれからレアメタルスライムを10匹も狩ってしまった。
他に探索者がいないから、この階層で出現率がとても低いモンスターでも、比較的簡単に見つけられる。
宝探しをしているような感覚に似ていて、かなり楽しかった。
そのおかげで、プラチナの塊がたんまりだ。
仁子さんは同じ階層にいたギルド仲間に預けていた。すると、受け取った人の目がお金のマークになっていた。
「俺の方で持てたのに、なんで渡したの?」
「ん? ああ……まだギルドとして成果が出ていないでしょ。今回の遠征は結構なお金がかかっているのよ。あのプラチナの塊でなんとか穴埋めできそうでよかったわ」
「ええっ! ギルドの経営費ってそんなにかかるのっ!?」
もうびっくりだ。
先程のプラチナの塊くらいでは、今回の遠征の費用をギリギリ賄えるという。
どこにそんな費用がかかるのかと聞いたら、武具の比重が大きいらしい。
「以前はもっとかかっていたのよ。でもね、どこかのダンジョン神が回復アイテムを手に入れ安くしてくれたし、今まで無かった蘇生アイテムまで提供してくれるようになったからね。探索者なら、みんなくもくもに感謝していると思うよ」
LIVE配信でS級探索者に褒められると、ちょっと照れてしまう。
チャットも俺をとても持ち上げてくれて、かなり気分がいいぞ!
いかん、いかん! 今はダンジョン探索中、調子に乗っていたら足元を掬われる。
「武具の費用ってどのくらいなの?」
「LIVE配信で公言はできないわ。ちょっとこっちに来て」
仁子さんが耳打ちで教えてくれた。
「マジで! 高っ!!」
例えばA級探索者で、オーダーメイドの剣を作ったら、数億円らしい。とても個人では買える金額ではないため、ギルドに所属して借りているようだ。
タルタロスギルドの今回の調査では、40人以上の探索者たちが参加している。その人たちの武具やそのメンテナンス費用など、札束があっという間に消えていくのだという。
「くもくもが持っているミスリルソードだって、売れば数億円はするわよ。ミスリルってとっても加工が難しいの」
「そうだったんだ」
「君はドロップ品をクラフトの素材くらいしか考えていないでしょ?」
「……うん」
「あらら……」
仁子さんに頭を抱えられてしまった。
「ドロップ品を買い取る会社があるのよ」
「何に使うの? 武具を作るの?」
「それだと君と同じでしょ。新しい資源として、利用が目指されているのよ。ほら、日本って天然資源が乏しいでしょ。その代わりに使えないかをいろんな会社が研究を進めているの」
そういえば、父さんが新聞を読みながら、そんなこと言っていたような気がする。アイテムクラフトばかり考えていたので、まったく気にしていなかった。
「もしかして、販売ゴーレムで素材を吸い上げているのってまずかったりする?」
「どうだろうね。今、販売ゴーレムが置かれている場所って、そういう会社が求めている素材じゃないから大丈夫だと思うよ。知床ダンジョンはちょっと怪しいけどね」
そして、仁子さんは思いついたように言うのだ。
「あっ、でも大阪ダンジョンのミノタウロスはまずいかも。ミスリルの需要は高いから」
どうやら、蘇生のペンダントの素材の一つとなっているミスリルが問題のようだ。
現在、市場への供給ができなくなっているらしい。
「探索者なら蘇生のペンダントをゲットしておきたいし。今のところ、ミスリルがドロップできるのはミノタウロスしかいないのよね」
そのため、只今大阪ダンジョンのボス部屋は大混雑している。
販売ゴーレムを引き上げたら、探索者たちの命綱が無くなってしまうし……だからといって、俺のさじ加減一つで市場に影響を与えてしまうのもよろしくないと思われる。
う~んと考えていると、仁子さんが言う。
「ほら、ドロップ増加剤に期待しよう!」
「そうだね。皆さん! 新宿ダンジョンでドロップ増加剤を買った後に大阪ダンジョンに行ってください! ドロップアップ効果でミノタウロスから得られる素材も2倍です。もしミスリルが余ったら、市場で換金してください!」
視聴者たちからは『は~い』という返事。それとは別に蘇生のペンダントは予備がいくらあってもよいという書き込みもあった。
沢山あって困るアイテムではない。
これは新たなミスリルをゲットできるダンジョンを開拓する必要がありそうだ。供給源がボスモンスターであるミノタウロスだけというのが問題なのだ。
この未開の知床ダンジョンがミスリルの産出地となってくれるといいのだけど……。
仁子さんに聞くと、第4階層までのモンスターはミスリルを落とさないようだ。
「そう都合良くはいかないわよ。日本以外の国でもミスリルのドロップは似たような感じだし」
「残念……でも第5階層からはまだわからないよね」
「うん。それに第1階層でレアメタルスライムがいたし。他の階層でもレアなモンスターがいるかも」
「じゃあ、第2階層へ行こう!」
「おう!」
ちょうど、下への大階段が見えてきていた。
視聴者たちに向けて、下の層へ歩きながら説明する
「次の第2階層にはヘルバードがいます! メタルスライムよりもスピードがあります。そこだけ気をつければ、柔らかそうな見た目だったので、戦いやすいかもです」
第2階層は仁子さんたちを救出するために急いでいたから、ヘルバードとはまともに戦っていない。
一生懸命、走っている俺に追いつこうと頑張っていた姿だけが印象的だった。
「仁子さんはヘルバードと戦ったの?」
「戦ったわよ。ダチョウのように長い首を手刀でスパッとね」
階段を降りながら、仁子さんが実演してくる。
振り下ろす手が速すぎて見えなかった。
「なんでも斬れそうな勢いだね」
「今まで斬れなかった物はないかも」
武器がいらない理由がわかった気がする。
試しに俺がクラフトしたミスリルソードを斬れるかと聞いてみたら、
「余裕ね」
「マジですか……」
レアメタルスライムを蹴っていたときも、びっくりだったが……。手刀はそれを上回る攻撃力があるという。
魔剣フランベルジュを見せた時、物足りないという彼女の言葉に嘘偽りはなかった。
「やってきました! ここが第2階層です。ゴツゴツとした岩肌と入り組んだ迷路のような構造をしています」
タルタロスのギルド長から事前にマッピングされた地図をもらっていなかったら、絶対に迷いそうだった。
そして、俺たちの前を立ち塞がるようにヘルバードの群れがいた。
ヘルバードたちは俺を睨みつけている。どうやら、顔見知りのようだった。
それには仁子さんも気が付いていた。
「みんな、くもくもを見ているんだけど……お知り合い?」
「多分ここを通るときに、追いかけてきたヘルバードたちかも」
「出待ちとは人気者ね」
全く嬉しくない。モンスターにそんなことをされて喜ぶ探索者はいない。
逆に迷惑だ!
「私が倒してもいい? 肩慣らしくらいにはなりそうだし」
ほう……メタルスライムやレアメタルスライムではまだ準備運動が足りなかったようだ。
どうやって戦うのかを探索者として勉強したいし、仁子さんに譲ることにした。
「じゃあ、いっくね。それっ!」
「ん!?」
仁子さんは手を横に構えた。そして水平に空を斬った。
あまりの勢いにかまいたちが発生して、ヘルバードたちの首が中を舞う。
瞬殺。これほどこの言葉がピッタリ合ってしまうほどの攻撃だった。
だって、攻撃されたヘルバードたちの胴体が、頭を失ったことを理解できずにまだ歩いていたから。
数秒遅れて、ヘルバードたちが地面に倒れて、ドロップ品に変わった。
すごい! 物理攻撃が魔法攻撃のように見えたぞ!
視聴者たちのチャットは仁子さんの豪快な戦いっぷりに大賑わいだった。
これは負けてはいられない。
「こうなったら、俺はメルトで対抗……」
「ヘルバードくらいで、メルトを使わない! 私はくもくもがミディアムに焼かれるのを見るのは嫌よ」
メルトは自滅魔法でもあるので、やっぱり駄目だよな。
あれ? さっきの口ぶりだと、俺がメルトを使っても仁子さんには被害が及ばないのかな……。
気になる! やっぱりS級探索者は底が知れない。
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