第47話 S級探索者

 俺と仁子さんは、第一階層でメタルスライムで肩慣らしをすることにした。

 俺は視聴者たちに沖縄ダンジョンでクラフトした魔剣フランベルジュのお披露目会。メタルスライムの硬い金属の体をいとも簡単に焼き斬ってみせる。


 なかなかの切れ味に視聴者たちから大好評だ。

 俺の横では仁子さんがメタルスライムを握り潰していた。

 ん……!? りんごを握り潰すみたいな感覚でサクッと倒している。


 メタルスライムはそんなにお手軽に潰せるほど柔らかくないはず。

 その様子に視聴者たちも俺と一緒に驚いていた。流石はS級探索者と言ったところか。


 仁子さんは自分が倒したメタルスライムのドロップ品を拾いながら、俺の方を見て言う。


「あれ? くもくもの方がドロップ多くない?」

「わかっちゃった。実はこれを飲んでいたんだよ!」


 そう言って、ドロップ増加剤を見せた。


「なになに、それ?」

「これを飲むと、ドロップが二倍になるんだ!」

「ええっ! いつの間にそんなものを作れるようになったの?」

「今日の午前中に新宿ダンジョンへ行ったときだよ。そこの販売ゴーレムでブルースライムキングのコアを5個で買えるから。一度飲めば、24時間効果が続くよ」

「めっちゃいいじゃん。パーティーを組んでいるんだから私にも飲ませてよ。味も気なるし」


 在庫は鰻登りで増えている。仁子さんに渡すと、腰に手を当てて一気に飲み! やっぱり、飲み方が俺の父さんにそっくりだ。

 そのことを彼女に伝えてしまうと、角でさされてしまうので黙っておく。LIVE配信で放送事故は厳禁だ。


「不思議な味だけど、美味しい」

「でしょ! 俺のクラフトアイテムは、味が自慢なんだ」


 視聴者たちのチャットは、ドロップ増加剤のことで持ちきりだった。

 事前に伝えていなかったので、みんなに驚かれていた。チャットがすごいことになっている。


『神アイテムがまたキター』

『新宿ダンジョンに行ってきます!』

『また新宿ダンジョンが更に混み合うぞ』

『スラキン狩りが流行るな』

『ボス部屋に急げ!』


 などという書き込みがとめどなく流れる。

 そして、2万人いた視聴者が1万5000人になってしまった。

 もしかして、新宿ダンジョンへ旅立ってしまったのだろうか。


 まだ、LIVE配信が始まって間もないのになんという減りようだ。


「くもくも、大変よ……視聴者が……」

「うん、それほどドロップ増加剤が魅力的だったんだと思う。気を取り直して、探索を進めていきます!」


 仁子さんもドロップ増加剤を飲んだので、素材の集まるスピードが加速していく。他の探索者がいないことも重なって、メタルスライムが狩り放題だ。


「ちなみに、メタルスライムのドロップ品であるコアを10個集めると、知床ダンジョンに設置した販売ゴーレムから中級ポーションを買えます」

「欠損した手足なども回復できる超強力なポーションよ。初級ポーションもすごい効果だったけど、今回は桁違いね。知床ダンジョンはタルタロスギルドがただいま調査中なので、他の探索者はまだ入れませんのであしからず」


 視聴者からは、悲痛な叫びがチャットを埋め尽くした。

 それもそうだろう。

 初級ポーションを集めるために新宿ダンジョンは、恐ろしいほどの混み合いになっている。素材を落とすブルースライムは絶滅危惧種にカテゴライズされてもおかしくはないくらい乱獲中だ。


 それを超えるポーションとなれば喉から手が出るほどほしいに決まっている。

 しかしまだ調査中なので、訪れることができない。


「ダンジョン神が、サクッと調査してくれると早く開放されるかもね」


 チャットが俺を崇拝する書き込みで埋め尽くされた。

 そんなに祈りを捧げても、まだ第五階層までしか探索できていない。それに、あの階層にはやばそうなモンスターが蠢いていた。

 あれを倒さないと進めないような気がするし、マッピングもすべて埋めておきたい。脱出不可能なトラップがあったし、これから探索する者のために、できる限り事前に情報を集めたかった。


 そう、これがダンジョン調査なのだ!


 勝手にタルタロスギルドの功績を横取りする気はない。仁子さんも同行してくれているし、これはタルタロスギルドとの共同作業なのだ。


 うんうんと一人で頷いていると、仁子さんが俺を呼んだ。


「見て、あれ! メタルスライムより大きくない?」

「確かに! ちょっと待って調べてみる」


 スマホを向けて、アプリで鑑定してみる。


◆レアメタルスライム 種族:無形

属性 :金属

弱点 :なし

力  :800

魔力 :760

体力 :200

素早さ:3200

器用さ:500

硬度 :3500


 硬度がめっちゃ高い。メタルスライムの倍くらいあるぞ!

 素早さはなんと三倍だ。


 こんなモンスターがいたのか……まったく気が付かなかった。

 ステータスをギア2からギア4まで上げたほうが安全に狩れそうだ。


「よしっ! ステータス、ギア4! 仁子さん、あれはレアメタルスライムといって、メタルスライム素早さの三倍と硬度は2倍あって結構強いよ」

「くもくもが天使モードになったから、あのモンスターの強さがよくわかるわ」


 ステータスをギア3以上にしたため、頭の上に天使の輪が現れた。

 それに視聴者たちはすぐに反応!

 すぐにチャットで俺への崇拝を始めた。そういうのじゃなくて、応援してくれ!

 何が、ありがたや~、ありがたや~だっ!


 拝んでも何も御利益がないって!


「ちょっとみんな、今は探索中だよ。目の前にモンスターがいますよ~、聞いてますか~」


 まったく聞き入ることのない視聴者たちに拝み倒されている間に、仁子さんが動いた。


 ものすごいスピードでレアメタルスライムの背後に回り込むと、勢いよくキックした。

 カーンという甲高い金属音が鳴り響く。

 多分仁子さんの足は、レアメタルスライム以上の硬度なのだろう。

 だって、レアメタルスライムの体が凹んでいるからさ。


 仁子さんが放った鋭いシュートは、俺の方に向かってきた。


「くもくも、パスだよ!」

「えっ、なにそれ! パスに殺意があるよ」


 硬そうな金属が砲弾のように飛んでくるのだ。

 こうなったら、魔剣フランベルジュでたたき斬ってやる!

 よし、レアメタルスライムの起動を捉えた。


「くらえっ! あれっ!!」


 飛んでくるレアメタルスライムにドライブがかかっており、下へ沈み込んだのだ。慌てて振っていた魔剣の軌道を変えるが、時すでに遅し。

 火花を上げながら、レアメタルスライムの体の端を斬るに留まった。

 そして、そのまま俺の後ろへ飛んでいくが……なんとそこには仁子さんが移動していた。

 おやっ、瞬間移動したのかなと思えるほどの速さだ。


「今度はちゃんと斬ってね。いっくよー」


 レアメタルスライムは回避することも出来ずに、されるがままだ。

 ものすごいスピードで飛んでくるモンスターを、軽々と蹴り返した。


 ん!? こんどは、直球のストレートだ!

 しかもど真ん中。これを空振りするわけにはいかない。


「うおおおおっ!! きたっ!!」


 レアメタルスライムの芯を捉えた。

 いけぇー! この手応え……魔剣ではなく、バットだったらホームランだ。

 弱点であるコアを両断して、レアメタルスライムを倒すことができた。

 仁子さんが蹴った勢いもあって、高い硬度に邪魔されることなく、スパッと斬ることができた。

 出会った時は追いかけ回して倒さないといけないかなと思っていたが、やっぱり二人で戦うと連携ができるから最高だ。


「みなさん、レアメタルスライムに出会ったときはこのような感じで倒してください!」

「簡単に倒せるから、みんなもチャレンジしてみてね」


 チャットが一斉に『できるわけないって!』という感じの書き込みが流れ続けた。ちょっと張り切り過ぎたかもしれない。


 そして、ドロップ品は、レアメタルスライムのコアが2個と、魔力を帯びたプラチナの塊20Kgだった。


 プラチナって結構高かったよな。それが20Kg。

 フェニックスを倒したときのような魔力を帯びた黄金1トンというインパクトはない。でも、通常のモンスターでこのドロップは破格だろう。


 しかも沖縄ダンジョンのような灼熱地獄ではない。

 環境的には新宿ダンジョンに似ている。つまり戦いやすいばしょだった。後は、レアメタルスライムを倒せるだけの強さを持ち合わせているかだけ。


 俺と仁子さんが帯びたプラチナの塊を10Kgずつ手にすると、視聴者たちのチャットが大いに盛り上がった。

 知床ダンジョンでゴールドラッシュならぬプラチナラッシュの幕開けを予感させた。

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