第46話 販売ゴーレム4

 戻ってきました! 知床ダンジョンへ!

 先行していた探索者たちが、待機していたギルドメンバーに迎え入れられていた。至る所で安堵と喜びの声が聞こえてくる。

 それを見ていると、仁子さんから改めてお礼を言われた。


「ありがとう、八雲くん。君のおかげで一人の死者も出なかったわ。しかも怪我人もいないし、これってすごいことよ」

「アイテムクラフトのついでだったから、気にしないで」


 仁子さんがめっちゃ褒めてくれるけど、本当についでだったのだ。

 ちゃっかりと中級ポーションをクラフトしてから、助けに行ったわけだし。

 まあ、そのアイテムが役に立ったから結果オーライである。


「そうそう、中級ポーションはすごい効き目ね。手足の欠損まで治してしまうなんて嘘みたい」

「俺もここまですごいとは思わなかったよ」


 あっ、そうだ。販売ゴーレムを設置しよう。


◆中級ポーション 1個 

【購入に必要な素材】

 ・メタルスライムのコア ✕ 10


 このくらいで条件でまずは様子を見よう。

 すごい回復アイテムなので、いくらあっても困ることはないと思う。


 知床ダンジョンのゲート付近に販売ゴーレムを数体設置していると、仁子さんに笑われた。


「こんな時でもちゃっかりしているわね」

「でも、これでダンジョン調査が捗るでしょ?」

「助かるわ。ありがとう」


 第一層では、メタルスライムがワラワラといるので、すぐにコアが集まることだろう。

 もう少し販売ゴーレムの設置を増やしたほうがいいかなと思っていると、ギルド長から声を掛けられた。


「八雲くん、救援していただきありがとう! まさか……10分もかからずに戻ってくるとは思ってもいなかったよ。しかも全員を無傷で救出とは、恐れ入った。仁子の父親としてもお礼を言う。ありがとう!」


 ギルド長は俺の手を取って、ブンブンと握手してくる。

 あまりの勢いに、俺の体が浮いてしまったほどだ。それくらい、嬉しかったようだ。親として、娘のことを心配するのも当然か……。


「第五階層には脱出不能のトラップがあったみたいだね。八雲くんにはそうではなかったようだけど……。脱出の詳しい話は他の者から聞いている。ポータルの件は秘匿とさせてもらうよ」

「お気遣いありがとうございます! あと販売ゴーレムを設置しましたので、ご利用ください。中級ポーションを売っています」

「おおおっ! それは助かる」


 ギルド長は早速販売ゴーレムに行って、確認していた。

 そして、部下を呼んで中級ポーションを沢山買っていた。


 俺はそんなギルド長に声をかける。


「あの……ちょっと相談なのですが、知床ダンジョンでLIVE配信はしてもいいですか?」


 今一般公開されておらず、ギルドが前もって調査しているダンジョンだ。先行しているタルタロスギルドを差し置いて、勝手にLIVE配信するわけにはいかない。

 駄目かな……なんて思っていると、ギルド長がニッコリと微笑んだ。


「助けてもらった恩がある。LIVE配信をしてもらって構わない。元来、ダンジョンは誰のものでもない。この調査では知床ダンジョンの危険度を調べて、ここへ探索へ来る者へ情報提供が目的だ」

「ありがとうございます!」

「LIVE配信で、このダンジョンについて教えてくれ。儂らも参考にさせてもらうよ」


 めっちゃ気前が良かった。

 まずはSNSでLIVE配信のお知らせを流しておこう。

 あっ、そうだ! アプリから通知が来ていたんだ。


◆魔ポーション(中)の素材

 ・ヘルバードの羽根 ✕ 1

 ・ケルベロスの牙 ✕ 1


 魔ポーション(小)の魔力回復量が、今のステータスは追いついていなかった。お腹が破裂するほど飲まないと、全回復は無理だった。


 鑑定してみると、たったの1個で可能だ。

 数十万の魔力を一気に回復させてしまうなんて、強力過ぎる!

 素材のうち、ケルベロスの牙は仁子さんたちを救出するときにゲットしている。

 あとはヘルバードの羽根だけだ。おそらく、第二階層でダチョウのような鳥がいたので、そのモンスターからドロップできそうだ。


 ギルド長の許可ももらったし、では早速LIVE配信を始めよう!

 なんて思っていると、後ろから視線を感じた。

 振り向くと仁子さんがいた。


「八雲くん、LIVE配信をやるんだって! 私も混ぜてよ」

「いいの? ギルドで調査があるんじゃない」

「今日は中止になったわ。全滅しかけたし当然ね。ということで、暇になったの」

「そうなんだ。でもいいの、LIVE配信だから顔が出るよ」

「今更よ。すでにニュースとかに取り上げているのに」

「そっか、ではくもくも配信にようこそ、仁子さん」

「よろしく!」


 仁子さんの装備を改めて見る。

 剣や槍などの武器を持っていない。聞いてみると、素手で殴る系だった。


「私に合う武器を開発中なの。すぐ壊しちゃうから、望み薄だけどね」

「ミスリルソードならすぐに用意できるけど」


 サッとクラフトして仁子さんに渡した。

 彼女は鞘から抜いて、数回振ってみせる。


「う~ん、強度不足かな。本当で使ったら一回で壊しちゃいそう」

「マジか…」


 返してもらいながら、仁子さんに魔剣フランベルジュを見せたことを思い出す。魔剣ですら、物足りないと言っていた気がする。


「仁子さんに合ういい武器がクラフトできたら、教えるよ」

「ありがとう。気長に待っているね」


 さて、準備万端!

 LIVE配信を開始だ!


「どうも、くもくもです。今日はなんと知床ダンジョンに来ています。このダンジョンはできたばかりです。タルタロスギルドのご厚意で、LIVE配信しています」


 視聴者たちが一斉に挨拶来てきた。

 俺は流れるチャットを見ながら、話を続ける。


「そして、今日はゲストとしてS級探索者である片桐仁子さんに来ていただきました」


 パチパチパチと俺が手を叩いて、仁子さんを迎え入れる。


「片桐仁子です! 今日はダンジョン神ことくもくもさんの探索に同行させてもらいます!」


 うああっ、すごい書き込みの量だ。

 俺が挨拶したときより、比にならないくらいだ。

 彼女の圧倒的な人気がよくわかる。


「仁子さん、すごい書き込みですよ。めっちゃ人気者だ」

「えっ、そうなの。LIVE配信のチャットが見えないからよくわからないけど」


 この状況を彼女にも伝えられたらと思ってしまう。すると、アプリから通知が届いた。

 やっぱり、このアプリはよくわかっているな。


『LIVE配信にチャット共有の機能が追加されました』

『パーティーを組んだ者とチャットが共有できます』


 アプリにパーティーとして『片桐仁子』を追加しますかと表示されたので、『はい』のボタンを押した。

 その次に、チャットの共有を有効にした。

 途端に、仁子さんに反応があった。


「すごい! 視界の中にチャットが見える!! 超便利っ」


 どうやら、チャットの可視化によって仁子さんはご満悦のようだ。

 このチャット共有機能があれば、コラボのLIVE配信をしても、参加者で書き込みを見ることができるのでとても助かるはず。


「今日のアイテムクラフトは、魔ポーション(中)です。素材としてはヘルバードの羽根とケルベロスの牙を1個ずつ必要になります。ではモンスターを倒しながら素材を集めていきます!」


 仁子さんと元気よく出発の掛け声を発した。その声はダンジョン内に響き渡った。

 離れたところでタルタロスのギルド長が、手を振って見送ってくれていた。

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