第10話 初パーティー
下の階層への道すがらミニガーゴイルをどんどん狩っていく。
ドロップ品であるミニガーゴイルの牙も同じようにアイテムボックスに増えていった。
もしかしたら、後々クラフトで必要となるかもしれない。拾い残すことなく、しっかりと回収する。
ミニガーゴイルの動きにも慣れてきた。
たまに振るった剣を躱されることがあった。今は狙い通りの場所を確実に斬り込める。
剣道もやったこともない俺が、華麗にモンスターを倒せる日も近そうだ。
なんて調子に乗っていると、足元を掬われそうなので気を張っていくべきだろう。
「第一層はここまでです。この大階段を使って下りていきます」
他の探索者の後に付いて、俺は第二層に踏み込んだ。
やはり、第一層よりも第二層の探索者は少ない。下の層へ行くほど、モンスターの強さは上がっていくので当たり前な話だろう。
第二層のモンスターは、ミニガーゴイルに加えてサンドスコーピオンがいる。
このモンスターは、稀に出現して探索者の命を奪うことで有名だった。
尻尾の先に強い毒を持っており、刺されたらあっという間に毒が全身に回って死に至る。
ミニガーゴイルが空を飛ぶモンスターで、サンドスコーピオンは地面を這うモンスター。
戦う面で、数の多いミニガーゴイルに気を取られて、地面から忍び寄ってくるサンドスコーピオンに気が付きにくい。
このことも死者を増やす要因になっている。
「この層では、サンドスコーピオンに気をつけて進んでいきます。数々の探索者の命を奪った毒針に注意です!」
数の少ないモンスターだからといって、油断大敵である。
さてと、モンスターを狩りながら先に進むぞ。
動画進行を練っている俺の耳に悲鳴が届いた。
「誰か、助けてくれ!」
その声の方へ駆けつけると、3人組の探索者がサンドスコーピオンに襲われていた。
どうやら、1人の男が毒針を受けたようで、ぐったりとしている。なんとか倒れた仲間を引き摺って、上の階層に逃げようとしていた。
しかし、サンドスコーピオンが執拗に彼らを狙って追いかけている。
俺は走りながら、剣を握り締める。サンドスコーピオンは俺に気がついていない。
横から斬り込んで、一撃で仕留めてやる。
……なんて思っていたら、先を越されてしまった。
走っている俺を颯爽と追い抜いて、サンドスコーピオンに一閃。
瞬く間にサンドスコーピオンは、ドロップ品に変わってしまった。
速い、強い、美しい!
そんな三拍子が揃ったような探索者は、全滅しかけた彼らに言う。
「これを飲んで! 毒の回りが遅くする薬よ」
「あっありがとうございます!」
「飲み終わったら、上の階層に急いで」
3人組の探索者たちは、脱兎の如く消えていった。病院に着いて解毒が間に合えばいいのだが……。
「そこの君」
「えっ」
美しき探索者に見惚れていたら、俺の横にいた撮影者に気が付かなった。
「顔出しOK?」
「えっと……」
「いやなら、加工して隠すけど?」
ショートボブの小柄な女の子が俺に話しかけていた。
彼女の容姿と手に持ったカメラに撮られて、どう返していいのやら言い淀んでしまう。
助け舟は、サンドスコーピオンを倒した探索者からだった。ドロップ品を回収して、俺の前まで悠然と歩いてきた。
「リオン、彼が困惑しているよ」
「ごめん。そうだったのか。なら、僕たちの自己紹介しないとね」
剣を収めて彼女は笑顔を見せた。騎士みたいな装備に身を包んで、かっこよかった。
「私はアリス。ダンジョン配信をしていて、こっちが……」
「リオンだよ。僕はアリスの撮影係ってわけ」
二人とも日本人と外人のハーフで、幼いころからの友人だという。幼馴染ってやつだ。
日本のダンジョンに海外の人がいるなんて、珍しいのでちょっとびっくりしていた。
話を聞いて、俺と同じようにダンジョンに憧れを懐いていたのがよくわかる。
ハーフであることから、周囲から物珍しそうに見られる日々に嫌気が差していたそうだ。
そこで出会ったのがダンジョン配信だった。
現実とは違った世界にすぐに虜になったという。そして、今ではダンジョン配信者として活動している。
「それで、顔出しの件どうかな?」
「いいですよ」
「ありがとう! 顔隠しは動画編集で大変だから助かる」
二人はハイタッチをして喜んでいた。先程のサンドスコーピオンの戦いはかっこよかったからな。
映える動画が撮れたのだ。同じダンジョン配信者として、水を差すことはできない。
俺の動画撮影は撮り方が特殊過ぎるため、彼女たちには言えない。
そうなれば、俺の動画はカットするべきだろう。
どちらにしても、活躍できなかったわけだし、問題ない。
リオンが俺にカメラを向けながら聞いてくる。
「君の名前は?」
「くもくもです」
「それって、もしかして君もダンジョン配信者なの?」
「駆け出しですが……」
「私たちも似たようなものだって。ねぇ、アリス」
「うん。まだ始めて1ヶ月くらい」
探索者になって1ヶ月で、サンドスコーピオンを華麗に倒せるのか……。すごいと思っていると、リオンが教えてくれる。
「アリスは剣道の達人なの」
「それは言い過ぎ」
なんでも県大会で優勝経験があるそうだ。それは素人の俺より強いはずだ。
アリスは少し照れながら、俺に話しかけた。
「くもくもは、この先どうするの?」
「俺は……」
その言葉を口にすると、彼女たちはびっくりしていた。
すぐに無謀な戦いをやめるように言ってきた。
「たった1人でミノタウロスを倒そうなんて、絶対にやめたほうがいいわ」
「僕も賛成。駆け出しの探索者がボスモンスターを1人で倒すなんて聞いたことがないよ」
いやいや、それではクラフトができないから!
「どうしても、ミノタウロスのドロップ品が欲しいんです」
「何に使うの?」
「それは……アイテムクラフトに必要なので」
「「えっ!?」」
二人とも俺の顔を見ながら、固まってしまった。
そしてリオンが困った様子で言う。
「ミノタウロスのドロップ品だけで、アイテムクラフトは聞いたことがないわ」
「確かにミスリルと魔石(中等)は武具の素材になるけど、他にも素材が必要よ」
そう言いながら、二人は俺に詰め寄ってきた。後ろは壁で逃げ場なし。
観念した俺は何をアイテムクラフトするのかを白状した。
「蘇生のペンダント? なにそれ?」
「私も知らない。本当ならすごいことだけど」
半信半疑といったところか。
このまま解放してくれると、思っていたら……。
「面白そうね。良い動画が撮れるかも」
「僕もその話に乗った。今日のネタは、『探索者をサンドスコーピオンから救う』と『蘇生のペンダントをゲット』だね」
「あの……蘇生のペンダントをあげるとは言っていないのですが……」
うっ。二人の笑顔が眩しい!!
陰の者は陽の者の押しには勝てない……。
「わかりました」
またミノタウロスはソロで挑戦すればいい。
パーティーを組めるなんて機会は、そうないことだし。こういった巡り合わせを楽しむのもダンジョン探索の醍醐味でもある。
「よろしくお願いします」
「よろしくね」
「よろしく~。撮影は僕に任せてね」
まさか……サンドスコーピオンに襲われている探索者たちを助けようとして、パーティーでミノタウロスに挑むことになるとは……。
高校生の日常とは、かけ離れた出来事。
これだから、ダンジョンは面白い。
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