第11話 勉強中…
アリスとリオンという名前は、ダンジョン配信者用の別称だという。
俺も本名を名乗っていないので、この軽い感じの付き合い方が居心地良かった。
「くもくも、私たちにさん付けはいらないから」
「わかりました」
おそらく年上だろうアリスに、気になっていたことを聞いてみた。
「あの……二人って関西の人ではないですよね」
「そうよ。あなたもそうでしょ。関西弁を喋っていないから」
「はい」
「僕たちは、東京から遠征してきたんだ」
「そうだったんですか」
わずか1ヶ月のダンジョン探索経験で、遠征までしているのか。
もしかして二人は人気になりつつある配信者なのかもしれない。モンスターの戦いも強かったし。
気になるから聞いてみよう。
「よかったらチャンネル登録者数を教えてもらっていいですか?」
「はは~ん、やっぱり気になっちゃうよね。僕たちは5000人くらいだよ」
「えっ……」
おいおい、とんでもない数字だ。それを1ヶ月程度で達成したのか!?
「じゃあ、君のチャンネル登録者数を教えて」
「えっと…………」
昨日は1人だった。あれから増えたのだろうか。
確認した俺は、人数を口にする。
「4人です」
「あっ……なんていうか……その、ごめん」
リオンは申し訳なさそうに謝ってきた。
そんな風にされると、逆につらいぜ。ここは笑うところだと思う。
見かねたアリスが先を歩きながら言う。
「私たちもまだまだよ。リオン、調子に乗っていたらすぐに足元を掬われるわよ」
「そうだね。顔出しをしている分、炎上したら大変だし」
「有名になるって大変ですね」
しみじみ思っていると、アリスに耳を摘まれてしまった。
イタタタッ。
「あなたも配信者なんでしょ。なら、目指すべき場所は一緒のはず」
「そうですね。早く追いつけるように頑張ります!」
「いいね。配信者同士の友好を図るシーンいただきました」
「ここも動画にするんですか?」
恥ずかしい。チャンネル登録者数が4人に増えていたのを喜んだ顔が配信されてしまう。
しかも5000人超えのチャンネルだ。
俺も頑張ろう。
大阪ダンジョン探索が終わったら、明日は博多ダンジョンだ……なんて思っていると、アリスに言われてしまう。
「今は戦いに集中したほうがいいよ」
「モンスターが溜まってますね」
「誰かがモンスターを引き連れて逃げたんだと思う」
この先に最下層への入口があるというのに、簡単には通してくれないようだった。
俺とアリスが、攻め寄せるミニガーゴイルを迎撃する。
それを撮影しながら、リオンがサンドスコーピオンを警戒した。
「左から、サンスピが来ているよ」
「わかったわ」
俺がミニガーゴイルを相手している間に、アリスがサンドスコーピオンを仕留める。
それを繰り出しているうちに、モンスター群れはすべて倒しきっていた。
「ありがとう。あなたがいなければ、こんなに楽に倒せなかった」
「お礼なら俺の方こそ、ありがとうございます。1人なら、とっくに逃げていました」
数えるのも嫌になるくらいのミニガーゴイル。そして隠れて忍び寄るサンドスコーピオン。
いつもの俺なら、体制を整えるために迷わず納屋へ帰還していたことだろう。
そこを踏ん張れるのがパーティーなんだな。
痛感させられる。
「ここから先はミニガーゴイルではなく、ガーゴイルが出てくる」
「サンドスコーピオンの数も増えますね」
「だから、気をつけて行こう! レッツゴー!」
大階段を下りながら、二人に話しかける。
「よければ、使ってください」
「これって……もしかして」
「ポーションです。味も飲みやすいですよ。10個ずつ渡します」
「僕にもいいの? ありがとう!」
予め、渡しておけば万が一怪我をしても安心だ。
問題はサンドスコーピオンの毒針に刺されたときだろう。
「怪我や疲れはとれます。しかし、解毒効果があるかはわからないので、毒針には気をつけてください」
アリスたちが助けた探索者にポーションを飲んでもらえばよかった。脱兎の如く、立ち去ったので渡すチャンスがなかったが……。
試すために刺されるわけにもいかないし。ここは毒に効かないと考えて、ダンジョンを進んだほうがいい。
「高価な物をこんなにも……」
「もしかして、くもくもってお金持ちの息子だったりする? 装備もちゃんとしているし」
「そ、そんなことないですよ。素直にもらってくれないなら、返してもらいますよ」
「ごめん、ごめん。たくさんのポーションをもらったから動揺しちゃった」
「リオンの分までありがとう」
俺としては大したことない物だった。新宿ダンジョンの販売ゴーレムによって、クラフトする素材は潤沢にある。
こんなに喜ばれるなら、今後パーティーを組む人に粗品として渡していくのもありかも。
あれこれ考えていると、アリスが俺に耳打ちしてくる。
「さっき、リオンが言っていた蘇生のペンダントのことは気にしないでいいから」
「ゲットの話ですか?」
「そう。あの子はお調子者だから……要らないことをよく言うの」
「気にしていないですよ。あれくらいで怒っていたら世の中、やっていけませんから」
「なら、よかった」
ホッとした様子のアリスは最下層へ下りていった。そしてリオンに何やら言っているようだった。
即席のパーティーで不協和音は良くないから、俺に気を使ってくれたようだ。
リオンにも謝られて、蘇生のペンダントの件は落ち着いた。
ミノタウロスを倒したドロップ品について俺が貰えることになった。理由は、初級ポーションを10個ずつ貰ったお礼だという。
更に剣の振るい方をアリスに教えてもらい。ダンジョンの動画撮影についてはリオンからアドバイスをもらった。
これだけでも俺としたら、かなりの収穫だった。
「やぁーっ」
ガーゴイルを一刀両断してみせる。
このモンスターの大きさは、ミニよりも2倍ほどだ。
飛ぶスピードも上がっており、初めは剣を当てるのに苦労した。アリスの指導もあって、今はこの通り倒せるようになっていた。
ガーゴイルの大牙を拾いながら、アリスにガッツポーズを送った。
すると、彼女も笑顔で頷いてくれる。
「くもくもは飲み込みが早い。剣の才能があるよ」
「アリスには及ばないですよ」
彼女は背後に迫るサンドスコーピオンを、背中に目があるかのように気がついて倒していた。
さすがに俺にはできなさそうだ。
リオンも、モンスターのヘイトを買うことなく立ち回り、俺たちを撮影している。
この二人なら1ヶ月でチャンネル登録者数が5000人超えても納得だった。
リオンが良い動画が撮れたと喜んで、こちらにやってきた。
「そろそろパーティーの動画を撮りたかったんだよ。ナイスな戦いだったよ」
「リオンの歯に衣着せぬ実況……聞いていて勉強になります」
「言い過ぎて、アリスによく怒られるんだけどね」
ガーゴイルとサンドスコーピオンのドロップ品をたくさんゲットした頃には、ボス部屋に辿り着いていた。
ここからが本番だ。始めてボスモンスターと戦う。
「緊張してきました」
「私たちも同じよ」
すでに他のパーティーがミノタウロスと戦っている最中だった。
俺たちはボス部屋の前で待機することにした。
「他のダンジョンでボスモンスターを倒した経験はあるんですか?」
「あるよ。新宿ダンジョンでボスモンスターを倒したよ」
「場所が東京だったし。ダンジョン配信者の登竜門だから」
「俺はまだなんです」
「なら、今度東京に来たら一緒に倒そうよ」
「いいですか?」
「うん」
やった! 新宿ダンジョンのボスモンスターも倒せそうだ。
3回目のチャレンジにして、新宿ダンジョンを攻略できるかも。
なんて思っていると、アリスにまたしても耳を摘まれてしまった。
「その前にミノタウロスを倒さないとね」
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