第12話 ボスモンスター

 ボス部屋の前で、先に戦っているパーティーが出てくるのを待っていた。

 討伐に結構時間がかかっているようで、なかなか出てこない。

 時間が勿体ないので俺はリオンに撮影の基礎をしっかりと教えてもらっていた。


「ちょっとそこに立ってみて」

「こうですか?」

「そうそう。そのままで剣を構えてみて」


 眼の前にモンスターがいるようにイメージしながら、剣を構えた。

 リオンが俺の周りをウロチョロしながら、撮影してくれる。


「もういいよ。こっちに来て一緒に見よ」


 撮影する方向や角度によって、臨場感がまったく違う。


「すごいテクニックだ」

「もっと褒めてくれていいよ」

「本当にすごいですよ。勉強になります」

「僕たちのチャンネルがここまでの登録者数になったのも、僕の功績があってこそさ」


 ドヤ顔をしているリオンに、アリスは呆れていた。


「また始まった。リオンをあまり調子に乗らせないで、これからボスモンスターなんだよ」

「そうですね」

「ええ……裏方が褒められるのって、こういうときくらいなのに」


 ガックリと項垂れるリオン。

 そんな彼女をそっとしておくこと、しばらく。

 なかなかボス部屋に入ったパーティーが出てこない。


「ボスって倒すのに、こんなにも時間がかかるものなんですか?」

「新宿ダンジョンなら、これほど時間はかからない」

「だよねー。全滅していたりして……」


 リオンの言葉に、ハッとなった俺とアリスはボス部屋の扉の前に駆け寄った。

 他のパーティーがボス部屋で戦っている邪魔をするのはマナー違反だ。

 しかし、命の危機が訪れているのかもしれないのなら、その限りではない。


「念のため、扉を開けてみましょう」

「戦闘が長引いているだけならいいのだけど」

「僕は後ろに隠れているね」


 初めてボス部屋の扉を開ける。緊張で手が汗ばんでいるのを感じた。

 扉はずっしり重いので、かなり力を入れないと動かなかった。アリスも俺と同じように力を込めていた。

 開いた中では、ミノタウロスが怒り狂いながら大斧を振り回していた。


 その足元では3人の探索者が地面に倒れ込んでいる。残った1人の探索者が立ち向かっていた。

 満身創痍といった感じで、体中から血を流している。いつ倒れてもおかしくはない状況だった。


「大丈夫ですか!?」

「今助けるからっ」


 俺たちに気がついた探索者だったが、力尽きて地面に倒れ込んだ。

 気を失った彼女に向けて、ミノタウロスは追い打ちとばかりに大斧を振り下ろす。


「まずい」


 そう思った時には体が自然に動いて、ミノタウロスの攻撃を剣で受け止めていた。

 自分でもびっくりだ。俺ってこんなにも勇敢だったっけ。


「重いっ」


 ミノタウロスの大斧は予想していたよりも、すごい衝撃だった。

 このまま受け続けていたら、剣と一緒に俺も真っ二つにされてしまいそうだ。

 もう少しだけ我慢だ。俺がこうしていることで、ミノタウロスの両脇は隙だらけだ。


「アリスっ。お願いっ」

「よく頑張ったね。くもくも」


 アリスが渾身の一撃をミノタウロスの横腹に叩き込む。

 力強い攻撃だと一目でわかった。なぜならミノタウロスの巨体が宙に浮いて、飛ばされたからだ。


「くもくもとリオンは、怪我にポーションを」

「「はい」」


 アリスがミノタウロスの相手をしているうちに、倒れ込んでいる4人にポーションを飲ませないと!

 気絶しているが、まだ息はあった。

 ポーションを無理やり口に押し込んだ。

 これでちゃんと飲めるかを心配したが、杞憂だった。


 流し込むと飲んでくれたのだ。傷がみるみるうちに回復していく。


「すごいね。このポーションの効果」

「目を覚まさない……」


 傷は治っているが、意識が戻らない。気がつくには時間がかかりそうだ。

 そんな時間……ミノタウロスが待ってくれるわけがない。連れ出すにしても、ボス部屋の扉は閉まっている。

 焦って、俺たち全員が中へ入ってしまっていた。


「リオン、この人たちを壁際に寄せて貰えるかな」

「くもくもはどうするの?」

「アリスの加勢をする」


 ミノタウロスの猛攻に、アリスは次第に追い詰められていった。

 俺の知っているミノタウロスとは違う感じがする。あれほど真紅のような体をしていないはずだ。

 もしかしたら、色違いのレアモンスターと呼ばれるやつじゃないだろうか。レアは通常よりも、強いらしい。

 ボスモンスターでレアがいるなんて聞いたことがなかった。でも……あのミノタウロスの強さから、確信に変わった。


 先程はまぐれでミノタウロスの大斧を受け止められた。

 次も同じことができるのか……不安があった。


 加勢に向かう俺にアプリから通知が届いた。


『チャンネル登録者数が10人になりました』

『ユーザーの全ステータスがアップします』


◆東雲八雲のステータス

力  :5 → 55

魔力 :2 → 30

体力 :3 → 40

素早さ:4 → 45

器用さ:4 → 45

魅力 :1 → 10


 このタイミングでステータス上昇はありがたい! チャンネル登録してくださった方々に感謝!

 全ステータスが10倍くらい強くなっている。これなら俺でもミノタウロスと戦えるぞ。


「アリスっ、危ない」


 リオンの悲痛な声が聞こえた。

 俺が駆け寄る前にミノタウロスの攻撃によって、アリスの剣が折れてしまったからだ。

 ミノタウロスがモンスターのくせにニヤリと笑った。高らかに大斧を振り上げた。

 間に合わないと、思ったときに足元に槍が落ちていた。おそらく気を失っているパーティーの物だろう。


 俺はそれを拾い上げて、ミノタウロスに狙いを定める。

 そして力の限りに投擲した。


 ミノタウロスの首元に吸い込まれるように突き刺さった。勢いは留まることを知らず、ミノタウロスの巨体を持ち上げて吹き飛ばした。

 止まったときには、ミノタウロスを串刺しにして壁に突き刺さっていた。


「た、倒した……」


 ミノタウロスはドロップ品に変わり、地面に転がった。

 ミスリルと魔石(中等)が3つずつ。レアモンスターはドロップ品が通常よりも多いと聞く。

 初めてのボス戦にどうやら勝てたようだった。


「やるじゃん、くもくも!」


 リオンが笑顔で称賛してくれた。大変な戦いだったので、撮影することも忘れているようだった。

 俺は緊張が解けて、地面に座り込んだ。今更ながら息が上がっているのを感じる。

 心を落ち着かせていると、アリスがミノタウロスのドロップ品を手に持ってやってきた。


「はい。あなたの報酬よ」

「みんなの成果ですよ。ちょうど3つずつあるし。蘇生のペンダントは3人で分けましょう」

「いいの? だって、とどめを刺してのはくもくもでしょ」


 今回の戦いでの教訓は、みんなで生き残ることが何よりも大事ってことだ。

 この安心感は何よりも代え難い。


「三人で色違いレアのミノタウロスを倒した記念です」


 俺としては、パーティーを組んでいろいろと教えてもらった恩人が、死んでしまうなんて考えられない。

 記念だと言うと、アリスとリオンは喜んでくれた。

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