第13話 ボス周回

 アリスから渡された素材を手早くクラフトする。蘇生のペンダントが3つ出来上がり!

 特別な魔導具を使わずにその場でクラフトしたことに彼女たちは驚いていた。

 アリスが俺の間近まで寄って聞いてきた。


「一体、どうやったの?」

「俺のクラフトはちょっと変わっているから」

「ちょっとどころじゃないよ」


 リオンは撮影したかったと悔やんでいた。なぜなら、彼女のカメラはミノタウロスの戦闘の騒ぎによって壊れてしまったからだ。カメラよりも人命を優先したことで、地面に落ちてしまった。当たりどころが悪かったこともあり、見るも無惨な形になっていた。


「まあ、仕方ないさ。これも何が起こるかわからないダンジョン配信の醍醐味だね」

「撮影したデータは無事ですか?」

「どうだろうね。帰ってみてみないとわからないかな。どちらにしても、メインのミノタウロス戦が撮れていないから、お蔵入りになるかもね」

「これから、どうするんですか?」


 そう聞くと、アリスは折れた剣を見せながら言う。


「遠征は中断かな。私は愛剣を失ったし、リオンは撮影ができない。東京に帰るよ」

「そうですか……せっかく一緒に探索できたのに残念です」

「新宿ダンジョンでまた探索しよう。あっ、その前に連絡先を交換しないとね」

「はい」


 なんと、俺のスマホに母親以外の女性の連絡先が登録された。しかも二人!

 ダンジョン配信でこんなこともあるんだな……しみじみ思ってしまう。


 そんなやり取りをしていると気を失っていたパーティーが目を覚ました。

 ものすごくお礼を言われてたじたじになってしまうほどだった。お金まで渡そうとしてきたから、丁重にお断りした。

 彼らが出口に向けて帰っていくのを見送る。

 よかった、よかったと思っていると、リオンがとんでもないことを口にした。


「ああ、もう20時だね」

「ええええっ、今なんて言いました?」

「20時だよ」

「うああああああっ、やばいっ、やば過ぎる」

「どうしたのそんなに慌てて」


 アリスも心配そうな顔をしていた。

 早く帰らないと! 夕食時間になっている!

 母親は夕食時間に厳しい。遅れるなんて以ての外だ。


「すいません。急用があるのでこれで失礼します」

「あっちょっと」

「……行っちゃった」


 俺は二人に見えなくなるところまで走って、スマホのアプリで『帰還』を選んだ。

 納屋に戻ってきたら、装備を解除する。

 そして家に駆け込んで、リビングに飛び込んだ。


「ふぅー、間に合った」

「八雲、何が間に合ったなの?」


 すでに父さんと母さんが食卓に座っていた。

 母さんは怪訝そうな顔をして言う。


「今までどこにいたの?」

「えっと……」


 ダンジョンでボスモンスターのミノタウロスを倒していました……なんて言えない。

 頭をフル回転させて出てきたのは……。


「運動不足だから、ランニングしていたんだ」

「あら、そうなの。確かに汗をかいているわね。シャワーを浴びてくる?」

「いいよ。ご飯が冷めちゃうし」


 今日の夕食は麻婆豆腐だった。ピリッと辛い熱々のそれをご飯と一緒に食べる。

 ダンジョンで体を動かしまくったから、身に染みる感じだ。

 ぱくぱく食べてしまい、ご飯のおかわりを3回してしまったほどだ。



****



 次の日、学校が終わったらすぐに納屋に直行した。

 昨日は時間を忘れて、ダンジョン探索に夢中になってしまった。同じ轍を踏まないようにスマホにアラームを設定する。

 これでバッチリだ。


 さて、今日はどこのダンジョンへ行くのかをまたしても学校にいる間ずっと考えていた。

 やはり大阪ダンジョンの再戦だ。

 動画撮影も上手くできていなかったし、改めてやり直したかった。

 装備を整えて、ダンジョンポータルを開く。行き先はもちろん大阪ダンジョンだ。


 ダンジョンの入口か、帰還した場所かを選べた。

 第一層から探索すると、また時間がかかってしまう恐れがある。


 昨日帰還した場所を選んだ。


 ポータルが黄金色の光り輝きとなり、開通したことを知らせる。

 さあ、今日も頑張ります!


 俺は勢いよくポータルに飛び込んだ。出た先は見覚えがある。

 大阪ダンジョンの最下層、ボス部屋の近くだった。


『新たなレシピが支給されます』


 どんなレシピだろう。

 アプリで届いたレシピを確認する。


◆ミスリルソードの素材

 ・ミスリル ✕ 50


 やった新しい武器だ!

 スタンダードソードは扱いやすい剣だ。しかし、今の俺のステータスには物足りなさを感じていた。

 それに昨日のレアミノタウロスとの戦いで、大斧を受け止めたことで刃こぼれしていた。

 交換するにはいい時期かもしれない。


 問題は素材の数だ。

 ミスリルが50個。つまり、ミノタウロスを50回倒さないといけない。

 レアミノタウロスが出れば、それよりも少ない回数で済む。ほとんど出現しないレアに望みをかけるのも、現実的ではない。

 今日は、ミノタウロス周回だ!

 そうと決まれば、撮影開始。アプリの録画ボタンを押す。


「今日は大阪ダンジョンでボスモンスターのミノタウロスを狩りまくります」


 ボス部屋の前まで歩いていく。先客はいないようだった。


「ミノタウロスを倒したドロップ品であるミスリルを50個集めて、ミスリルソードをクラフトしたいと思います」


 早速、扉を開ける。身に覚えがあるミノタウロスが鎮座していた。

 肌の色が通常だから、普通のミノタウロスのようだ。


 俺を見つけると、大斧を振り上げて襲いかかってきた。


「よろしくお願いします!」


 俺はすれ違いざまに横一閃した。ミノタウロスの巨体は地面に倒れて、ドロップ品になった。

 まずは一回。


 すぐに扉の外に出る。扉が勝手に閉まるのを待って、また開ける。

 そこには同じ姿をしたミノタウロスがいた。


 ミノタウロスは大斧を振り上げて俺に迫ってくる。振り下ろされた大斧を躱して、ミノタウロスに言う。


「それは俺の残像だ」


 ちょっと言ってみたかっただけ。

 なんだか恥ずかしくなったので、ミノタウロスをたたき斬る。そしてドロップ品を拾う。

 まだ2回か……。先は長そうだ。


 動画映えを気にして、いろいろな倒し方を試していた。

 ときには空中回転斬り、またときには、牙突で巨体を持ち上げる。

 たまに投擲したりした。


「さすがに50回の戦いのバリエーションなんて無理だ」


 初めはいろいろと倒し方を試行錯誤していたが、20回目くらいからは剣を上から下へ振るう作業になっていた。

 ミノタウロスも俺の動きに合わせて、攻撃パターンを変えてきた。それも戦い方の良い練習になった。


 勝手にミノタウロス道場と名付けていた。

 俺の師匠はミノタウロスだ。


「師匠、よろしくお願いします」

「ガガアァァァ」


 倒しても倒しても、ボス部屋の扉を閉じたら出現しているミノタウロス。

 いつの間にか、俺は師匠を鼓舞していた。


「師匠、もっと踏み込んで攻撃してください」

「ウガァッ」

「そう、そんな感じでお願いします」

「ガアッ」

「今度はこっちからいきますね」

「ギャアアア」

「師匠おぉぉっ!」


 ドロップ品となった師匠を拾う。今回の師匠はよく戦ったと思う。

 さくさくとミノタウロスを倒していったため、最後の50回目が訪れた。


「次で最後のミノタウロス戦となります。長々と戦いの動画になってしまい申し訳ありません。ミノタウロス戦の参考にしていただけたら幸いです」


 いざ行かん! 最後のミノタウロス戦へ。

 ボス部屋の扉を開けようとしたら、後ろから声を掛けられた。


「君、1人でボスモンスターと戦う気か?」

「無謀にもほどがある」

「やめたまえ」

「見た所、駆け出し探索者だね。君にはまだ早すぎるよ」


 大人の男性の4人パーティーがボス部屋に入るのをやめるように忠告してきた。

 1人がカメラを持って撮影しているので、ダンジョン配信者だとすぐにわかった。

 俺は夕飯の時間が迫っていたので、彼らの話を聞いている暇はない。


「忠告には感謝します。ですが早くミノタウロスを倒して家に帰らないといけないので」


 まだ彼らは何かを言っていたが、扉を開けて中に入った。

 こんにちは、ミノタウロス師匠。

 50回目です。長きに渡り、指導していただきありがとうざいました。

 セイッ、ヤッー!


 俺は一気に駆け寄って、ミノタウロスが持っていた大斧の柄を斬り飛ばす。そして、続けざまにミノタウロスの首に一閃。

 勝負あり!

 俺がドロップ品を拾って外へ出ると、外にいたパーティーが驚きの声を上げた。


「えっ……もう倒したの?」

「はい。では失礼します」

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