第34話 炎の最下層

 第九階層は、広い通路だ。やっとアリの巣から脱出できた。

 アサルトアントともおさらばだ。

 ゲットしたドロップ品――アサルトアントの王冠をアイテムボックスに大事にしまう。めっちゃ大変だったから、当分アサルトアントと戦いたくない。


 残すはゴレームのコアを300個、ファイアゴーストの粉を300個、炎魔石(上等)を1個だ。

 変な笑いが出てしまった……。

 まだフランベルジェのクラフトする素材が全然集まっていないじゃん!


「まだ素材は集まっていませんが、見てください。ゴーレムとファイアゴーストがいます。アサルトアント三昧だったので、口直ししていこうと思います!」


 各モンスターを鑑定で調べてみる。

 ステータスは俺のほうが高い。ゴレームは力はあるが、動きが鈍いので、関節部辺りを攻撃すれば倒せそうだ。


 ファイアゴーストは魔力が高かった。魔法を使うのだろうと予想していたらその通りだった。

 ファイアウォールという炎の壁を作り出してきた。

 複数のファイアゴーストにこの魔法を使われると炎の壁に囲まれて、じっくりと焼かれてしまう可能性がある。

 また、物理攻撃が効かないモンスターで、弱点である氷魔法が役に立つそうだ。

 アイシクルでファイアゴーストの頭を穿てば、一撃必殺だった。


 アサルトアントのように統制がとれていないモンスターは、なんて倒しやすいのだろう。

 ゴレームやファイアゴーストを倒していくたびに実感した。


 沖縄ダンジョンの鬼門は第七階層と第八階層だと思う。そう思ってしまうほど、この階層は順調にマッピングが進んでいた。


 この分だと下への大階段を見つける頃には、必要な素材の個数が集まっていそうだ。


 それでも油断大敵!

 忍び寄っていたファイアゴーストが俺に向けて、ファイアウォールを放ってきた。

 俺はそれをジャンプで躱して、ゴーレムの肩に乗った。


 ゴーレムは俺を振り落とそうと暴れる。そして肩に乗った俺を掴もうと手を伸ばしてくる。

 それを避けて、ミスリルソードを首と頭の接続部に指し込む。そのまま力任せに斬る。

 硬い装甲をしているゴーレムであっても、関節部までも同じとはいかないようだ。ポロリっと頭が地面に落ちた。


 倒れ込むゴーレムの体から離れ際、氷魔法アイシクルをファイアゴーストの頭部に向けて放つ。

 良い感じの角度で放つことができた。後ろにいたもう一匹のファイアゴーストの頭部も穿てた。


 剣と魔法を駆使して戦うスタイル。

 良い剣、強い魔法の2つが揃っているからには、両方を活かしたい。

 そんな欲張りな戦い方だ。


 アリスとリオンと新宿ダンジョンで一緒に探索するまでに、このスタイルに磨きをかけておきたい。

 練習台として、ゴーレムとファイアゴーストはこれ以上ない相手だった。


 ステータスの力をミスリルソードに込めて振るう。それと同時に、五感を研ぎ澄ませるようにイメージする。

 モンスターたちの動きを把握して、戦いの主導権を握るんだ。


 身のこなしは水の中を流れるように自然体に……。それでいて、剣は力強く振るう。


 セイッ、ヤー!


 ゴーレムたちをなぎ倒して、振り向くことなく右側にアイシクルを数発放つ。

 4匹のファイアゴーストがドロップ品に変わった。


 仕上がってきているような気がする。探索者として、なんとなく一つの壁を乗り越えた感じだ。


 う~ん、それでも若輩者の俺にはまだ早いかも……。

 そんな偉そうなことは、沖縄ダンジョンのボスモンスターを倒してからだ。


 未踏の深部にいるボスモンスターを倒せたら、駆け出しから一人前の探索者になれるだろう。

 今はLIVE配信を観てくれている人たちも認めてくれるのだろうか。

 それは書き込みが証明してくれるはず。


 素材は集まった。

 第十階層の大階段も見つかった。

 後は下へ降りていくだけだ。


「沖縄ダンジョンの最深部へこれからいきます。どうなっているのでしょうか!」


 大階段を下って、第十階層にやってきたぞ!

 マジかよ。

 最深部は東京ドームよりも広い空間だった。しかも壁にはマグマが流れている。むせ返りそうなほど熱い。

 おそらく、この階層が一番の熱量を持っている。


 俺は辺りを見回しながら、首を傾げた。


「あれっ、ボス部屋もないし、ボスモンスターもいない」


 ただ広い空間を少し進むと、異変が起こる。後ろにあったはずの大階段が消えてしまったからだ。


「退路を絶たれた!?」


 もしかして……すでにここが……。


「ボス部屋なのか……」


 空間の中心にマグマが集まっていく。

 そして出来上がった巨大なマグマの塊が宙に浮いていた。


 なんだろうか……すごいプレッシャーを感じる。

 本能的にここから逃げろと警鐘を鳴らしているような……。


 逃げる場所はないのだけどさ。

 ミスリルソードを鞘から引き抜く。そして、マグマの塊に、挨拶代わりにアイシクルを打ち込んだ。


 氷柱はマグマに飲み込まれてしまう。

 すごい熱量だ。氷魔法のアイシクルがきかないほどに。


 マグマの塊は脈打つように大きくなっていく。

 そして、限界に達して弾け飛んだ。


「キェエエエエエ」


 マグマの飛沫を飛ばしながら、生まれてきたのは燃え盛る巨鳥だった。

 見た感じで何かわかりそうな姿をしているが、鑑定してみよう。


◆フェニックス 種族:幻獣

属性 :炎

弱点 :なし

力  :890

魔力 :1100

体力 :960

素早さ:550

器用さ:480

硬度 :100


 ちょっとヤバいかも。

 魔力が1000を超えているじゃん!

 力も体力も高い。


 それ以上に空を飛ぶのはきつい。このような広い空間が用意されているのにはちゃんと理由があったようだ。


 接近戦はまず無理だと思ったほうが良いだろう。飛んでいるので安易に近づけないこと。それと、フェニックスの全身が燃えている。あの炎の熱量では俺の防火装備でも無力だろう。


 極めつけは種族が幻獣というところだ。

 幻獣は一癖も二癖もある力を持っていて、戦うよりも逃げるが吉なんて、ダンジョン配信では有名な話だった。


 暑さからなのか……それとも焦りからなのか……額から汗が流れ落ちた。


 幻獣か……倒せたら、間違いなく一人前の探索者だ。

 よしっ、やるぞ!


「最深部のボスモンスターはフェニックスでした。幻獣なので、危険なモンスターですが、全力を持って戦いたいと思います」


 そう言いながら、旋回するフェニックスを見上げた。

 LIVE配信の視聴者たちからは、心配するような書き込みが多かった。俺が彼らと同じ様に観る側だったら、同じ書き込みをしていただろう。


 魔力を高めて、もう一度アイシクルを撃ちまくる。

 フェニックスは攻撃を器用に躱しながら、俺に向かって接近してきた。


 一発くらい当たれ!


 そうだ。フェニックスに向けて、ただ打つことをやめて……。


「これならどうだ!」


 数発は囮だ。フェニックスの退路を断つように氷柱を撃つ。

 そして、それらを躱した場所にタイミングをあわせて、アイシクルを放つ。


「当たった! やった!」


 うっ、マジかよ。予想はしていたけど、フェニックスの羽根の一枚を削っただけだった。


 かすり傷にもなっていなかった。


「うあああっ」


 突撃してくるフェニックスをすんでのところで転がりながら躱した。

 フェニックスが通り過ぎたところの地面が抉られており、あまりの熱量で溶けていた。


 少しでも躱すのが遅れていたら、跡形もなく消えていたかもしれない。


 アイシクルが効かないのなら、もう一つの氷魔法にかけるしかない。

 魔力を高めて、ニブルヘイムを展開する。


 沖縄ダンジョンで使い続けて、熟練度を上げてきたんだ。

 翼の一枚くらいは凍らせてくれっ。


 辺りの流れるマグマは凍りつき、世界は極寒の地へ変わる。

 しかし、フェニックスは元気に飛んでいた。

 ほんの僅か体から発せられる熱量が弱まったくらいだった。


 そして、またしても俺に体当たりしようとしてくる。

 近づけば、ニブルヘイムの効果は高まっていく。それでもフェニックスの動きを止めるまでには至らない。


 ニブルヘイムに集中する俺にアプリから通知が届いた。

 こんな時になんだ!?


『チャンネル登録者数が1000人になりました』

『ユーザーの全ステータスがアップします』


◆東雲八雲 種族:人間

力  :680 → 7500

魔力 :720 → 8600

体力 :880 → 8000

素早さ:540 → 5700

器用さ:670 → 6400

魅力 :100 → 1000


 待て、待て!

 体の内側から爆発的な力が湧き上がってくるぞ!

 異様な感覚と共に、発動中のニブルヘイムの出力が飛躍的に上がった。


 先程まで俺の氷魔法など効かなかったフェニックスが、一瞬にして凍りついた。

 瞬殺である。


 LIVE配信を観てくれている人たちも、驚いているようだった。

 俺も伸びに伸び過ぎたステータスにびっくりだ。


 緊張感があったボス戦が、いつの間にかサクッと終わってしまって拍子抜けである。


「フェニックスを倒せました! 見てください! あの凍りついた姿を……えっ!」


 フェニックスが凍りついた体を脱ぎ捨てて、復活したのだ。

 さすがは不死鳥! 一筋縄ではいないのか!


 再び、上空を旋回するフェニックスに向けて、アイシクルを放つ。

 魔力が異常に上がった今なら、貫通できる!


 ズタボロになったフェニックスが落ちてきた。しかし、また蘇って飛び始めた。


「不死のモンスターなのか……倒せないです。試しにバラバラにしてみます」


 フェニックスは炎を吐いて応戦してくるが、今更もう遅い。

 その攻撃は初めにやってくるべきだったな。

 俺が放ったアイシクルで、フェニックスを細切れにする。


 しかし、それが寄せ集まってまた蘇ってしまった。


「体の一部でも残っていたら、復活できるようです」


 何も残さずにフェニックスは倒さなければいけない。

 それができる手札は一つしかない。

 今の魔力なら、行使しても押し負けることはないだろう。


 問題は威力の予想ができないため、場合によっては俺も焼かれるかもしれない。


 このままフェニックスに有効打を与えられずに、LIVE配信を垂れ流しても良くない。

 そろそろ夕ご飯……家に帰りたいし、覚悟を決めていこう!


「俺の持てる一番の炎魔法で、フェニックスを灰も残らずに焼き尽くします」


 アイシクルを放って、フェニックスを俺から極力遠ざける。

 そして、本命の炎魔法を放つ。


「メルトッ!」


 莫大な熱量を内包した青い大火球が、フェニックスを包み込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る