第33話 蟻地獄

 第八階層までやってきたぞ!

 上の層ではアサルトアントのポーンとルークを押しのけて、やっとここまで来られた。

 ふぅ~、アプリのマッピングのおかげで、アリの巣のような迷路を的確に進むことができる。


 そして、また目の前に同じような迷路があった。


「まだ、アサルトアントの縄張りは続いているようです」


 書き込みも、「またかよ」とか「アリは見飽きた」なんて言われていた。

 俺だって、そろそろアサルトアントに飽き飽きしている。

 それでもモンスターにとっては、関係のない話だ。


 せめてもの救いは、狭かったダンジョンの通路が広くなったことくらいだ。


 なぜ広くなっているかっていう理由は、姿を見せたアサルトアントですぐにわかった。

 ポーンやルークよりも大きかった。

 頭には鋭く長い角が三つ生えている。前足も同じ様に切れ味の良さそうな爪がギラリと光った。


 鑑定してみるか……。


◆アサルトアント(ナイト) 種族:蟻

属性 :炎

弱点 :なし

力  :300

魔力 :30

体力 :230

素早さ:100

器用さ:120

硬度 :250


 力が強くて、素早さと器用さが高いぞ。

 あの巨体が結構なスピードで動いてくるのか……そう思っていると、アサルトアント(ナイト)が突進してきた。

 俺を三つの角で串刺しにしようとする。その加速は、車のアクセル全開のようなものだった。

 トラックが全力で突っ込んでくるような感覚だ。


 迫力に気圧されていたら、串刺しまたは轢かれるのどちらかだろう。

 その前に、氷魔法のニブルヘイムを発動した。


 瞬時に極寒の領域が展開されて、アサルトアント(ナイト)の足を凍りつかせた。しかし、アサルトアント(ナイト)の勢いまでは止められずに、凍った足が砕けて、頭と体が俺の方へ飛んできた。


「おっと危ない」


 ジャンプして躱すと、振り返らずに奥の方にいたアサルトアントを見据える。

 ずっと気になっていたのだ。ナイトの後ろで見えにくかったが、たくさん何かが蠢いていたのを……。

 そのモンスターも今はニブルヘイムによって、凍りついている。


 近づいてみると、新種のアサルトアントたちだった。

 鑑定すると、ビショップとクイーンだとわかった。


 後ろで何かの魔法を詠唱中だったようだ。

 嫌な予感がしたので、ニブルヘイムで凍らせて正解だったようだ。


「アサルトアントのビショップとクイーンは魔法を使うようです。できるだけ行使される前に倒していきます。ナイトの後ろに隠れているようなので、見逃さないように気を付けます」


 どのような魔法なのかは気になるところだ。

 なんて思っていると、足元に異変が起こった。


 地面が盛り上がって、無数の鋭い尖った岩が飛び出してきた。

 危ないっ!

 ジャンプして躱すと、また着地位置に同じ攻撃がされる。

 おそらく魔法だ。

 回避しながら鑑定すると、ロックニードルという土魔法だった。


 どうやら、ニブルヘイムの効果範囲10Mの外側からの魔法を行使しているようだ。

 距離があるのにこれだけ的確に、狙ってくるとは結構厄介だ。

 魔法を躱しながら、行使しているアサルトアントに近づく。


「土魔法ロックニードルを使っていたのはアサルトアント(ビショップ)でした。しかも6匹です。止めどない魔法だった理由がわかりました」


 ビショップは魔法を使うことに特化しているようで、接近戦に弱かった。近づいてしまえばポーンよりも簡単に倒せる。


 ナイトに護られてこそ、真価を発揮するのだろう。


「クイーンはいないようです。まだどのような魔法を使うのかがわからないので気をつけていきます!」


 倒しながらどんどん進撃していく俺に、アサルトアントたちは慌て出しているようだった。通路の奥で、アサルトアントの足音が響き渡る。

 次第に俺を排除しようとするアサルトアント数は増していった。

 戦い続けたことでナイトとビショップの動きは、完全に読めた。


 ニブルヘイムを使うまでもない。

 ナイトは炎魔法ボルケーノで打ち上げて、胴体をみせたところで、叩き斬るだけ。

 呑気に詠唱しているビショップは、氷魔法アイシクルでサクッと処理した。


「そろそろ第九階層への大階段のはずです」


 マッピングも順調に埋められている。

 この先を進めば、大階段がある大広場に出られるはず。

 邪魔をしているアサルトアントを薙ぎ払って、やっと大広間にやってきた。


「おおおおっ!! とうとう見つけた!」


 やった! このモンスターを探していたんだよ。

 人間の王様のように、ちゃっかりと頭の上に角が変化した王冠のような物を乗せている。

 鑑定して確かめてみる。


◆アサルトアント(キング) 種族:蟻

属性 :炎、氷、土

弱点 :なし

力  :460

魔力 :390

体力 :330

素早さ:70

器用さ:100

硬度 :150


 属性が多いぞ。三種類も持っている。

 魔力も高いから、魔法を使ってくる可能性もあり。


 それにキングを取り囲んで護るように、今までに出会ったアサルトアントたちが勢ぞろいしていた。


 キングの号令によって、ポーンとルークが俺に向かってきた。

 ナイトはビショップとクイーンの護衛のようで動かない。


 その代わりに、ビショップとクイーンが魔法を詠唱してくる。


 俺も負けずに、ニブルヘイムでポーンとルークの足を止める。

 魔力の出力を上げて、魔法を詠唱しているビショップとクイーンも凍らせてやろうと思ったら、キングに邪魔をされた。


 氷魔法アイシクルを俺に放ってきたからだ。詠唱スピードは他のアサルトアントを軽く凌駕していた。


 ジャンプして氷柱を躱すと、魔法への集中ができずにニブルヘイムが途絶えてしまった。


 キングは俺にニブルヘイムを使わせないように執拗にアイシクルを撃ってくる。

 それに合わせて、詠唱が完了したビショップとクイーンも加わった。

 ビショップは土魔法ロックニードル。クイーンは炎魔法ファイアボールだった。


 いろいろな魔法が四方八方から飛んでくるという地獄絵図だ。

 更に俺に接近戦を挑もうと、ポーンとルークまでもが近づいてくる。


 ポーンとルークは、キングにとって捨て駒のような扱いだった。

 放たれる魔法に巻き添えになっても、気にする様子はない。


 数で劣る俺は長期戦になれば、ジリ貧になりそうだ。サクッと終わらせるには、アサルトアントの連携を指示しているキングを倒すしかない。


「アイシクル! からのボルケーノ!」


 キングに向けて、アイシクルを放つが……アイシクルで返されてしまう。ぶつかり合う氷柱にポーンとルークが巻き込まれて、ドロップ品に変わった。


 まあ、アイシクルは囮で、本命はボルケーノ。

 キングの足元からマグマが噴き出るが、微動だにしなかった。

 う~ん……炎耐久があることや、あの巨体を持ち上げるほどの威力はなかったようだ。

 サラマンダーで熟練度を上げたといえど、たった一日だ。

 ボルケーノはまだまだ鍛える余地がありそうだ。


 俺の攻撃のターンが終わったら、こちらのターンとばかりに、また特盛の魔法が飛んできた。


「あわっわわわっ!」


 大群で魔法を使われると、ガチで大変危険だと身にしみてわかった。

 LIVE配信を見ている視聴者たちも、ドギマギしているようで、「逃げろ!」とか「ここは戦略的撤退をおすすめする」とか書き込んでいる。

 アリスとリオンも心配してくれていた。


『くもくも、無理しないで』

『今日は諦めよう。死んじゃうよ』


 いやいや、まだ戦えるって!

 だって、書き込みを読んでいる暇があるくらいには余裕があったからだ。


 奥の手を使うしかない。できれば、ボス戦まで温存しておきたかった。

 でも、このまま防戦一方の戦いをしていたら、視聴者たちにストレスを与えかねない。ダンジョン配信者としてあるまじきことだ。


 ここは余裕を持って、キングを倒すべきシーンだ。


「奥の手で倒します! アイシクル! アイシクル! アイシクル!……」


 俺は氷柱を幾重にも地面に突き刺して、氷の防壁を作った。

 キングまでの距離を考えると、奥の手の火力に俺自身も溶けかねない。


 準備は万全! ではいきます!

 狙いをアサルトアント(キング)に定める。


「メルト!」


 蒼き大火球が一直線にキングに向かっていく。

 道中にいるポーンやルーク、ナイト、ビショップ、クイーンまでもを飲み込みながら進む。

 キングがアイシクルで弾き飛ばそうと、何発も撃ってくるが、炎魔法メルトの前にはすべて無意味だ。


 そしてキングの頭に着弾。それと同時に熱量が飛躍的に上がっていく。

 俺がアイシクルで作った分厚い氷壁が恐ろしいスピードで溶けていく。


「ヤバい、ヤバい。距離が近すぎたんだ」


 サラマンダーを溶かしてしまうほどの火力だ。もし、この氷壁がなくなったら、俺の防火装備など意味をなさずにご臨終してしまうだろう。


 氷壁に手を当てて、ニブルヘイムを唱えて魔力を全力で送る。

 溶けてもすぐに凍らせての繰り返しだ。


「はあ、はあ、はあ……」


 メルトが収まったときには、俺はへとへとに疲れ切っていた。

 危険な魔法だぜ。まだコントロールできていないから余計に危ない。


 氷壁から顔を出して、キングを含めたアサルトアントがいた辺りを覗く。

 地面が溶けて、真っ赤になっていた。

 そこから離れた位置にドロップ品が大量に転がっていた。メルトによって発生した爆風であそこまで吹き飛ばされたのだろう。


 ドロップ品を回収して、一先ず小休憩だ。

 初級ポーションと魔ポーション(小)を飲んで、体力と魔力の回復をしながら、喉の乾きを癒す。


「奥の手の炎魔法メルトでした。この魔法をもし使う時は大変危険なので、使う時は周りの人に迷惑がかからないように配慮してください」


 俺が真剣な顔をして言うと、LIVE配信を見ていた人たちから、たくさんツッコミされてしまった。

 書き込みはこんな感じだ。


『そんな魔法使えないからw』

『誰も使えないのに注意を促されても役に立たないって』

『教えていただきありがとうございます。でも私たちは使えませんが……』

『くもくもさんが絶対に配慮してください!』

『新宿ダンジョンでは絶対に使ってはいけない魔法です!』

『予想を超え過ぎた奥の手w』

『人工太陽は誰も作れません。くもくも専用魔法』

『まったく参考にならないw』


 次々と流れる書き込み件数が多すぎて、目で拾うのが難しいくらいだった。

 視聴者たちが楽しんでくれているようで、俺も嬉しい。

 さあ、第九階層へレッツゴー!

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