第35話 メルト
結論から言うと……俺は死んだ。
炎魔法メルトの圧倒的な火力によって、フェニックスは灰も残らず消滅した。そこまではよかった。
メルトの勢いは留まることを知らず、俺にまで襲いかかった。
氷魔法のアイシクルやニブルヘイムで耐えようとしたが、常軌を逸した熱量を前にして無力だった。
それでもメルトから離れていたことで、ミディアムくらいに焼かれてしまったようだ。
術者まで殺しにくるヤバい魔法……それがメルトだ。
「蘇生のペンダントがなかったら、ご臨終でした。沖縄ダンジョンは本当に命をかけた戦いになりました。皆様も、沖縄ダンジョンで戦う際にはお気をつけください!」
視聴者たちも安堵の書き込みをしてくれていた。
俺もあの時は死んだかと思っていたから、観ていた人たちはそれ以上のものを感じていたようだった。
流れ続けた書き込みが落ち着き始めた頃に、本来の目的に戻ることにした。
メルトによって、ドロドロに溶けた空間をニブルヘイムで冷やして前に進む。
確か……この辺でフェニックスを仕留めたはず。
キラリと光るドロップ品が2個落ちていた。
「フェニックスのドロップ品です! 1つ目は炎魔石(上等)です! これでフランベルジュをクラフトする素材がすべて集まりました。あと、これは……」
とんでもない大きさのドロップ品だった。
LIVE配信の視聴者たちも、書き込みも興奮しているようだった。
俺は念のため、鑑定して確認する。
◆魔力を帯びた黄金 1トン
フェニックスの魔力を含んでおり、炎に耐久性がある黄金。
うあああっ……とんでもない量の黄金だ。
えっと、金の価格って1gが一万円くらいしていたような気がする。
それが1トン……時価総額は……!?
いや考えないようにしておこう。高校の俺にとっては、あり得ないほどの金額だった。
東雲家がお金に困ったときのために取っておいたほうがいいだろう。俺はアイテムボックスにそっとしまった。
視聴者たちの書き込みは、大盛りあがりだ。
『億万長者の誕生!』
『俺にも分けてください』
『フェニックス狩りの見返りがすごい』
『大手ギルドが沖縄ダンジョンへ乗り込んできそう』
これから魔剣フランベルジュをクラフトするのに、みんな黄金の話題に夢中だった。
俺はこれまでゲットした大量のドロップ品をアイテムボックスから出した。
「魔力を帯びた黄金はこの先のクラフトで使うかもしれないので大事に保管しておきます。それで魔剣フランベルジュをクラフトしたいと思います」
素材の山に、ミスリルソードをそっと置いた。
今までこの剣のおかげで、たくさんの窮地を乗り越えてこられた。
感謝の気持ちを込めて、クラフトだ!
素材は光の粒子となって、収束していく。そして赤い光を帯びながら、一本の剣が現れた。
「魔剣フランベルジュの完成です!」
手にとって、鞘から引き抜く。
これは……魔力が吸われる感覚だ。どうやら、魔剣は俺の魔力を奪って、力を発揮するらしい。
試しに空を斬ってみると、炎が迸った。
「焼き斬るような攻撃ができるみたいです。性能は、次回のダンジョン探索で検証していこうと思います。今日のダンジョン探索はこれにて終了です。よかったらグットボタン、お気に入り登録をお願いします!」
俺はLIVE配信を停止した。
ふぅ~、今日の配信は結構ハードだった。
モンスターとの連戦に次ぐ連戦。そして、ボスモンスターとの戦いでは一回死んだ。
アイテムボックスから、予備の蘇生のペンダントを取り出して装備しておく。これがなかった。
LIVE配信が大惨事になっていたことだろう。
持っていて安心安全の蘇生のペンダントである。
俺は自分のステータスを再度確認しながら、各数値の桁数に半ば呆れていた。
はっきり言って、もう人間をやめている。
やっとこの前のステータスに慣れてきたのに、またとんでもない力を得てしまった。またステータスが使いこなせるように鍛錬しないといけない。
そうしないと、今回のフェニックスとの戦いのように、周りの人たちや自分自身まで傷つけかねない。
「強すぎるのも、案外大変なことなのかも……」
もしこのまま強くなっていったら、歩く核弾頭なんて呼ばれてしまうかもしれない。あいつが本気になったら都市一つが吹き飛ぶなんて言われたりして……。
日常生活はセーブモードがあるから、有り余るステータスによって支障をきたさないだろう。
さてと……家に帰ろう。
アプリの【帰還】を選んで、納屋に戻った。
装備を解除して、ステータスはセーブモードへ移行!
夕ご飯の時間にギリギリだ。
急いで玄関ドアを開けて、リビングへ。
母さんがキッチンで料理を作っていた。どうやら、匂いから今日はカレーのようだった。
「あら、おかえりなさい」
母さんは振り返らずに、鍋をお玉でかき回していた。
「父さんは?」
「仕事のトラブルで遅くなるって」
「そうなんだ。ああ……喉が渇いた」
沖縄ダンジョンの暑さによって、喉がカラカラになっていた。
冷蔵庫から麦茶ポットを取り出して、がぶ飲みする。
「八雲、ご飯の前にそんなに飲んで、ちゃんと食べられるの……」
お玉から手を話して、母さんがそう言いながら、振り向いた。
そして、俺を見て固まってしまう。
ん!? なんでそんなに俺を見るんだろうか?
母さんは俺に近づいて、顔をペタペタと触りながら、
「本当に八雲なの?」
「そうだけど、どうしたの?」
「ちょっと……あんた……カッコよくなっているわよ!!」
「うっそおおおおぉぉ!?」
俺は母さんの言うことが、信じられなかった。
また冗談を言って、なんて思ったが……母さんの表情は本気だった。
俺は今どうなっているんだ!
急いで洗面台に向かう。そして鏡に写った自分の顔を見て驚く。
「お前は誰だ……俺だっ!!」
自分にツッコミを入れてしまうほどの男前だった。
なんだこれ……自分が自分じゃないみたいだ。
もしかして、これが魅力1000の力なのか。
鏡を見ていると、めっちゃ存在感があった。
身の内から隠しきれないほどの魅力が溢れ出している感じだ。
「明日の学校は大丈夫かな……」
東雲八雲、整形疑惑!! 待ったなしである。
魅力100のときも思ったことだが、ステータスのセーブモードは、魅力には適用されてないようだった。
まあ、大丈夫か。明日は有名人の仁子さんと一緒に登校する。
同じクラスになるらしいから、クラスメイトたちの視線は俺よりも仁子さんへ注がれるだろう。
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