第130話 試験会場
ランク認定試験まで、トレーニングをしながらダンジョンも探索してさらに経験を積んでいった。自分でもなかなかの仕上がりだと思う。
試験会場は、北海道にある自衛隊最大の演習場で行うことになった。
移動までは西園寺さんがエスコートしてくれるという。
ポータルで近くのダンジョンへ行っても良かったが、せっかく旅費や宿泊などを手配してもらったので、甘えさせてもらうことにした。
今回の試験に招待されたのは俺だけではなかった。
付き添いとして、仁子さんと氷室さんも同行している。
家に迎えに来てくれた黒塗りの車に乗って、レッツゴー!
「今日は楽しみにしていたの!」
「仁子さん、朝から元気だね」
「それはそうよ。北海道へ遊びに行くんだもの」
あれ!? 俺のランク認定試験はどこに行ってしまった?
「まさか、こんなにすぐに社員旅行とはいいですね」
「氷室さんまで!?」
二人はすでにまったりモードだ。
まったく……本当に付き添いなのだろうか?
そんなことを思っていると、西園寺さんに笑われてしまった。
「東雲さんなら、苦も無く試験をクリアされると思われているんですよ。私もそうです」
「なら、付き添いはいらなかったのでは?」
「もしものためです。東雲さんはランク認定試験は初めてですよね」
「はい」
「彼女たちは、経験者ですから、何かあったときには力になってくれるはずです」
仁子さんがお菓子を食べながら、「任せて」と言っている。
「よかったですね」
「大丈夫ですよ。試験は全力でやりますから!」
「私は東雲さんの本気が少し不安なのです。ちょっとお聞きしたいのですが……」
「何でしょうか?」
西園寺さんは改まった顔をして言う。
「私と一緒に探索したワシントンダンジョンから東雲さんは強くなりましたか?」
「もちろんですよ」
力強く言うと、西園寺さんはどこかに急いでメールしていた。
何か問題があることを言ってしまったのだろうか。少々不安だ。
「俺からも良いですか?」
「はい。私がお答えできることなら」
「試験では、クラフトアイテムを使ってもいいですか? 例えば、ミラクルキャンディーとか」
「だめです。あれと使うと4倍の強さになってしまうため、本来の力が測れません」
「やっぱりだめか。なら、武器も禁止ですか?」
「はい、こちらでご用意したものを使っていただきます」
残念である完璧に調整した体で、魔剣レーヴァテインを使いたかった。
「試験内容はどのようなものになるんですか?」
仁子さんから予め聞いていたのは、純粋な戦闘力を調べる試験らしい。上位ランクになるほど、内容は探索者によって違っていた。
西園寺さんは俺の質問に手を合わせて、教えられないと言ってきた。
「残念だ」
「しかしこれだけは言えます。内容は東雲さんに合わせたものとなっています」
「なら、やっぱりランクS級を想定した試験なんですね」
「もちろんです! 東雲さんの活躍を見れば、一目瞭然です」
仁子さんや氷室さんから太鼓判をもらい、西園寺さんまでもらってしまった。
やばい……すごい期待されている。試験から旅費や宿泊まで手配してもらって、失敗は絶対に許されない。
期末テスト以来のプレッシャーだ。
試験への闘志をめらめらと燃やしている内に、飛行機に乗って北海道まで来ていた。
相変わらず、仁子さんと氷室さんは楽しそうだった。空港では、搭乗までの待ち時間に、ショッピングをしていたし、おしゃれなカフェでまったりしていた。
俺はその間も精神統一して、魔力を高めていた。来るべき試験に向けて、体調だけでなく、魔力もバッチリだ。
自衛隊最大の演習場までは、またしても黒塗りの車に乗って移動となった。
「やっぱり北海道は広いわね。それに私たちが住んでいるところより涼しいわ」
仁子さんが窓を開けて、草原の空気を楽しんでいた。
「八雲くんも、そんな難しい顔をしないで、外の空気でも吸った方が良いわ」
「そうだね」
気を張ってばかりでは、本来の力が発揮できないかもしれない。
俺は試験の先輩である仁子さんに従って、窓を開けてみる。
「うああ、良い空気! ……落ち着く」
「でしょ! それにここら辺の植物は元気だし、見ていて気持ちが良いわ」
「そうですね。片桐さんの言うとおり、草木が元気ですね」
俺と仁子さん、氷室さんは、青々とした大自然を楽しんでいると、西園寺さんだけは真剣な顔をしていた。
「理由は、おそらくダンジョンがないからです」
「えっ、草木が元気がないのってダンジョンが関係しているんですか?」
「まだはっきりとしていませんが、最近になってダンジョンが活発化していることは、皆さんも知っていますよね」
俺たちが頷くと、彼女は話を続ける。
「それに併せて、ダンジョン付近の草木が枯れる現状が発生し始めています。何らかの力をダンジョンが吸い取っているのはないかと」
西園寺さんがいうには、弱った草木に水や肥料を与えても、枯れてしまうのだという。
「もしかして、最近の異常気象もダンジョンの影響があるんですか?」
「それはなんとも、人間自身が環境破壊をしているので、すべてをダンジョンのせいにはできないと思います」
世界中には、無数のダンジョンがある。それらが地球に影響して、異常気象を引き起こしている可能性はあるらしい。
人間による環境破壊と、ダンジョンによる地球への影響の合わせ技である。
西園寺さんは俺たちを見回しながら、
「異常気象については話が大きすぎて、はっきりとしたことは誰にもわからないのです」
「今わかっていることは、ダンジョンがある場所で異変が起こり始めている」
「はい。異変が起こり始めたのは、天空ダンジョンが現れてからです」
話を静かに聞いていた仁子さんが頷きながら言う。
「だから、今回の探索で国が絡んできたのね。いつもは我関せずなのに」
「国民に脅威が迫っているのなら、対応しないわけにはいきません。ですが、ダンジョンとなれば、専門家にお願いするほかないのです」
「私たちの出番ってわけね。しかも念を入れて共同戦線だし」
「話が後になってしまってすみません」
そして西園寺さんは俺にも謝罪した。
いろいろと調べる時間も必要だし、不確定な情報をあの場では、安易に話すことはできなかったのだろう。
「気にしてないですよ。それが西園寺さんの仕事なんですから。でも言ってくれたら良かったのに」
「それは東雲さんが、そういった話をするとお困りになると思ったからです。調査は他のギルドにお願いしていますので、東雲さんと片桐さんには普段通りに探索していただいて構いません」
協力できることはしよう。調査している探索者の身を守ることぐらいはなんとかなるだろう。
俺と仁子さんは改めて、天空ダンジョンを共同戦線で挑むことを快諾した。
「ありがとうございます。でも、無理はしないでくださいね。若いお二人には大事な未来があります」
天空ダンジョン探索での国の思惑もわかったことだし、俺たちは晴れ晴れとした気持ちで挑むことができそうだ。
「そろそろ、試験会場に着きますよ」
西園寺さんが窓の外を見ながら言う。敷地への入り口は自衛隊員によって、しっかりと守られていた。
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