第131話 認定試験
入り口で身分確認が行われた後に、バーが上がり車の通行ができるようになった。
俺はよくしてくれた自衛隊のおじさんへ敬礼する。
なんと敬礼で返してくれた!?
「見て、仁子さん! めっちゃ嬉しい!」
「子供じゃないんだから、落ち着きなさい」
西園寺さんと氷室さんにも笑われてしまった。
「ああっ、戦車だ。本物を初めて見た」
「もう……」
俺は興奮を抑えきれなかった。自衛隊の施設や車両を楽しんでいると、不思議と緊張も収まっていくのを感じた。
俺たちが乗った車はさらに進んで、ひたすらに広い土地が見えてきた。
「あれが今回の試験場です。東雲さんの力を考慮しまして、一番広い場所を借りました」
「ありがとうございます。全力で頑張ります!」
「全力というのが少々不安がありますが……そこは仁子さんにお願いしますね」
「はい、打ち合わせ通りなんとかします」
ん? 何の打ち合わせだ?
まっ、俺は試験に集中しよう。問題がでれば仁子さんがサポートしてくれるのだろう。
そのための同行者なのだからな。
俺は大船に乗った気分で挑もう。
車が止まり、俺たちは外へ出る。すでに試験官と思われる人たちが大勢集まっていた。
多過ぎじゃない!?
50人以上はいるぞ。
「あの……西園寺さん」
「どうしたのですか?」
「この人たちが試験官なんですか?」
「試験官は前にいる5人です。彼らはランクS級の探索者です」
「えええっ、試験にそれほどの人たちが集まるんですか?」
「通常は2人です。今回は東雲さんですから、試験官を名乗り出る人が多かったです。ちなみに片桐仁子さんもです」
「えっ、初耳なんですけど」
俺は仁子さんをみると、そそくさと氷室さんの後ろに隠れてしまった。
「東雲さんに近しい人なので、試験官をお願いできませんでした」
「正しい判断だと思います」
「試験官たちは東雲さんと会えることを楽しみにしていました」
俺は西園寺さんに伴われて、試験官の人たちに挨拶していく。
うん。すごい強者のオーラを感じるぞ。
その中に俺と同じくらいの年齢の子がいた。背は低く、ショートヘアの大人しそうな女の子だ。見た目と探索者の実力が、ここまで噛み合っていない人は初めてだった。
「どうも、一ノ瀬雪乃です。今回は東雲さんの試験官を務めさせていただきます」
「よろしくお願いします」
握手を求められたので、手を出そうとしたとき、
「はい、それはダメっ」
仁子さんによって止められた。
「試験官と仲良くしないの、八雲君はこっちにくる」
俺は彼女に引きずられていった。
「ちょっと仁子さん、挨拶くらい大丈夫なのでは?」
「ダメ、とくに一ノ瀬はダメ」
「知り合いなの?」
「うん……まあね。アマテラスギルドで一番の実力者よ。可愛い顔して、超危ない子って噂よ」
アマテラスは新進気鋭のギルドとして有名になりつつあり、メンバーはかなりの若手で構成されているらしい。
「彼女がギルド長なの?」
「いいえ、ギルド長はあの子の兄よ」
仁子さんが警戒するのなら、俺も距離を取った方が良さそうだ。
彼女から解放されたところで、西園寺さんに残りの人たちについて聞いた。
「あと45人くらいの人は、なんでいるんですか?」
「ギャラリーです。自衛隊の幹部の方が多いですけど、天空ダンジョンで協力するギルドの方もいらっしゃっています」
「そういうことですか」
西園寺さんの話を聞くに、試験会場に自衛隊の演習場を貸し出すための条件として、見学をお願いされることが多いらしい。
今回は特に人気で、これほど集まってしまったというのだ。
「みんな暇なんですか?」
「彼らも探索者の力には興味があるんですよ」
軍事利用……いやな響きの言葉だ。
ここが試験会場となっている以上、我慢して受けるしかない。
「お気に召さないこともあるかと思いますが、日本の国土は狭いので……」
「大丈夫です! よしっ、俺の準備はできています。いつでもお願いします!!」
「では、始めましょう」
仁子さん、氷室さんが見守る中、俺のランク認定試験が始まった。
西園寺さんはまず手始めに、近くに置いてあった金属の塊を指さした。
ずっと気になっていたんだ。この金属は何でできているんだろう。俺の身長の3倍くらいはある。
「これは人工オリハルコンです。本物までとはいきませんが……」
「すごいですね。しかも重そう。これってダンジョンから取れる金属を使っているんですか?」
「はい、製法は言えませんがそうです。丈夫で重いので、試験によく使われるんです」
「これをどうしたらいいですか?」
「持ち上げて、どれだけ遠くに投げれるかを測ります。ちなみに重さは10トンです。あの赤いラインが見えますか?」
200m先に赤いラインが引かれてあった。砲丸投げのようなものか。
「では、始めてください」
俺はみんなが見守る中で、ステータスをギア5にする。
天使モードになった俺に、一同が大きく反応した。
俺は気にせずに、人工オリハルコンを持ち上げる。
日頃、10トンの魔剣レーヴァテインを振るっている俺にとっては朝飯前だ。
「おりゃああああぁぁっ!」
砲丸投げは良い声を出すほど飛ぶという。俺は真似をして、渾身の力で投擲した。
人工オリハルコンは赤いラインを一瞬で超えて、青い空へ吸い込まれていった。
その様子を見ていた西園寺さんは、軽く咳払いをして言う。
「えっと……計測不能ですっ!」
投げた俺もどこへ飛んで行ってしまったのか……さっぱりわからない。
見学している自衛隊の幹部や天空ダンジョンを共にする予定の探索者たちは、どよめいていた。
やり過ぎたか!?
しかし、試験官たちを見ると、平然とした顔をしていた。
なんだ、普通のことか!
安心した俺は仁子さんと氷室さんを見た。テントの下で、ずっと応援してくれている。
期待に応えないと!
俄然やる気になった俺に、西園寺さんが言う。
「さきほどの人工オリハルコンはつぎの試験にも使う予定だったんです」
「えっ、それを早く言ってくださいよ」
「予備は念のため用意しています。ただ設置に時間がかかります」
「なら、手伝いますよ」
「いえいえ、こちらで手配させてください」
人工オリハルコンが設置されるまで、しばらく待つことになってしまった。
仁子さんが特製ドリンクを片手にやってくる。
「八雲くん、やるわね! 昔の私を思い出すわ」
「仁子さんも、あれを投げたの?」
「まあね。私はパワー系だから、ああいうのが多かったの」
「次はなんだろう」
「この調子でいけば、バッチリよ」
特製ドリンクを飲み干したところで、二つ目の試験となった。
人工オリハルコンが1キロ先に設置してある。
俺は西園寺さんに試験内容を聞く。
「あれに何をすればいいんですか?」
「東雲さんの得意な魔法で攻撃してください」
「魔法の試験なんですね」
「はい。東雲さんの魔法は危険なものばかりなので、標的をかなり遠くへ設置しています」
だから、あんなにも遠くに置いたのか。
納得したところで、俺はここに来るまでに高め続けた魔力をすべて注いで、炎魔法メルトを放つことに決めた。
「全力で行きます!」
「始めてください!」
俺は精神統一して、高めた魔力を一点に集中する。
極大まで圧縮した魔力を魔法へ変化!
「メルト!!」
狙いは1キロ離れた人工オリハルコン。
極小の光の点がキラリと輝いた。
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