第132話 強さの証明
人工オリハルコンは、メルトによって作り出された炎に飲み込まれていく。
その勢いは、やっぱり収まらなかった。
周りの草木を飲み込みながら、俺たちがいるところまで迫ってきた。
それを見た後ろのギャラリーは大いに驚き、逃げ惑う。
「安心してください! ちゃんと防ぎますから!」
結界魔法キュービックで、メイルの火炎を覆う。
巨大な正立方体の結界に閉じ込められたメルトは中で暴れ狂う。
俺としては、目の前で繰り広げられる炎のショーをギャラリーに楽しんでもらいたかった。でも、彼らは我先にと逃げて行ってしまった。
西園寺さんを始め、試験官たちや仁子さん、氷室さんだけが俺を見守っていた。
さすがは歴戦の探索者たちだ。面構えが違う。
と思っていたら、仁子さんがちゃっかり結界魔法キュービクルを発動して、皆さんを守っていた。
信用されていないかも……と思ったけど、今までメルトで焼き尽くされた自分を思い出して、そうなるよねと考え直した。
でも、今回は失敗しない。そのために鍛錬してきたのだから!
今もキュービクルを壊そうと燃え上がるメルトを見ながら、さらに魔力を高める。
「収束しろっ!」
俺の声に呼応するように、巨大な正立方体がどんどん小さくなっていく。
次第には俺の手のひらサイズまでなり、さらに縮小して最後は消えてしまった。
人工オリハルコンがあった場所には、メルトによってできたクレータのみが残されていた。
仁子さんが「ふぅ〜」と言って額の汗を拭いながら、結界魔法を解いていた。
安全が確認されたことで、逃げていったギャラリーも戻ってくる。
みんなそろったところで、西園寺さんが2番目の試験結果を口にする。
「えっと……消滅しましたっ!」
果たして、最初の炎魔法メルトで消滅したのか。それとも最後の結界魔法キュービクルによって消え去ったのかは、俺にもわからなかった。
仁子さんと氷室さんから拍手をもらっていたので、結果として良かったのだろう。
俺は西園寺さんのところに行って声をかける。
「どうでした?」
「危なかったです。非常に……」
「えええっ! まだ威力が足りなかったんですか?」
「違いますっ!! 東雲さんの魔法があまりにも強力すぎて、みんな死んでしまうと思ったんです!」
「安心してください。そこまで無茶はしませんよ」
「あれはどう見ても、核爆発並でしたよ」
「いえいえ、本物にはほど遠いです」
ギャラリーたちも口々に「核」と言っていた。自衛隊のおじさんたちが言うのなら、結構いい線をいっているのかもしれない。
この日のために頑張って、研鑽したかいがあるというものだ。
そして、天空ダンジョンで共にする予定の探索者たちは、ドン引きしていた。
顔色が思わしくないけど大丈夫だろうか。ちょっと心配だ。
西園寺さんはスマホでどこかに連絡しているようだった。
「どうしたんですか?」
「演習場に巨大なクレーターができてしまったので、次の試験をするための準備が送れているようです」
「すみません!」
「気にしないでください。これは私たちの不手際ですから……」
1時間以上はかかりそうだと、西園寺さんに連絡が入った。
「しばらくは建物の中で待機していただくことになりそうです」
申し訳なさそうに西園寺さんが口にしたとき、試験官の一人が声を上げた。
「東雲くんは規格外なのだから、こんな試験はやめて手っ取り早く私たちが認める方法にしたらいいのでは?」
提案してきたのは一ノ瀬さんだった。見た目に反して、とても気の強そうな声だ。
「それはどういうことでしょうか?」
西園寺さんが彼女に聞くと、俺を指さしながら言う。
「ここにいる試験官全員と東雲くんが戦ってもらえばいい」
「えっ、Sランクの探索者と5対1で戦うってことですか?」
「勝てとはいわない。納得させるほどの強さを証明してくれたらいい」
一ノ瀬さんが周りの試験官たちに同意を求めると、皆が頷いた。
うん。さすがはSランクの探索者だ。すごい好戦的だ。
すでに仁子さんで経験済みなので、意外ではないけどさ。
西園寺さんが困っている中で、一ノ瀬さんはお構いなしに話を続ける。
「どうせ、最後の試験は実技なんだし、お遊びはこのくらいにしたらいいかと」
「わかりました。Sランクの探索者が直接実技の手合わせをしていただけるのなら、わざわざダンジョンのボスモンスターで行わなくてもいいですね」
えっ、最終試験ってダンジョンのボスモンスターだったの!?
それっ気になります!
俺はそっちの方がいいかも!?
西園寺さんはどこかに連絡をしていた。そして、しばらくして電話を切った。
「許可が下りました。さきほどの東雲さんの魔法をダンジョン内で使用されるのは、私たちの身が危険と判断されました。よって、特例として試験官5人による実技試験とします」
俺の淡い希望は、すぐになくなってしまった。
がっくし……試験で対決するはずだったボスモンスターを今度西園寺さんから聞いてみよう。個人的にチャレンジしたい!
試験官を見ながら、西園寺さんに俺は合格条件の確認をする。
「ランクS級に相応しい強さを証明するだけでいいんですよね」
「はい。彼らが納得していただければ試験終了です」
俺は試験官たちに聞く。
「武器はなしですか?」
「そうだ。あと魔法もなしだ」
体格の良いおじさんが前に出て言う。
その後ろには若い男が3人。おじさんの方が歴戦の探索者といった感じで強そうだ。
そして、一番後ろで一ノ瀬さんが準備運動をしていた。
「防具を着けなくても大丈夫ですか?」
「それを言うなら、君もだろ」
「あははっ、全くです」
にらみ合う俺と試験官たち。一触即発とはこのことだろうか……。
仁子さんと氷室さんは、のんきに応援してくれている。
「やっちゃえ、八雲くん! 清水のおっさんなんて、一発ケーオーKOよ」
「仁子ちゃん、それは酷いよ」
どうやら、この体格の良いおじさんは清水さんというらしい。
しかも仁子さんの知り合いか……。
「東雲さん、無茶しないでくださいね!」
「ええっ、氷室さん! そこは無理しないでとかじゃないんですか!?」
氷室さんは、安心してください。俺は至って普通に戦います!
一ノ瀬さんの準備運動が終わったところで、西園寺さんが開始の合図を行う。
「よろしいですね。では、はじめっ!」
俺はすぐにステータスをギア5で天使モードへ。
それと同時に、3人の若い男の試験官が動き出した。
速い!
一瞬にして、俺の左右と頭上から三点同時攻撃を仕掛けてきた。
俺は、左右の攻撃を二枚の翼で受け止めて、上からの攻撃は両手ではじき返す。
「くっ!? この力はっ!!」
一人は大きく吹き飛ばされて、一ノ瀬さんの横をかすめていった。
残った二人は次の攻撃を仕掛けようとしていた。
そうはさせない。俺は両方の翼を羽ばたかせて、二人を叩き伏せる。
彼らにとって思った以上の力だったのだろう。防ぎきれずに、二人とも地面に倒れ込んだ。
俺の翼は見た目以上に、とても丈夫で力強い。腕力の10倍くらいはあるのだ。
翼で打つ攻撃は地味だけど、かなり強力な隠し技だ。
「油断しすぎだ。あっという間に二人だな。一ノ瀬の嬢ちゃんはそのまま見学かい?」
「気の早い人たちには、勝手に先走っただけでは?」
「その通りだ。5体1は心苦しかったから、結果オーライか」
清水のおじさんと一ノ瀬さんが、隙を見せずにゆっくりと俺に近づいてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます