第124話 発光キノコ
大階段を出た先には鬱蒼としたおどろおどろしい森が広がっていた。
見渡しが悪く、不用意に中に入ったら迷いそうだ。
しかし、俺にはアプリのマッピングがある。これがあれば迷うことはないので問題なし。
仁子さんは辺りを見回しながら、探索者の気配を探っていた。
「近くにはいないわね。やっぱり第三階層は不人気ね」
「最下層だし、ここってボスモンスターが徘徊しているんだね」
「うん。森の中であら大変って感じに鉢合わせするみたい」
そんな状況では不人気まっしぐらだ。上の階層で十分に楽しめるので、あえて第三階層へやってくる物好きはいないようだ。
「ボスモンスターはかなり大きいから、注意していれば大丈夫だけどね」
「ドライアドっていう名前だったよね。可愛い姿をしているとか」
「私の情報では、うどの大木って話よ」
果たして、真実はどちらだろうか。
千葉ダンジョンの最下層についての配信動画は見当たらなかった。この入り組んだ木々が撮影に不向きなのだろう。それにお菓子でできた森なのに、上の階層に比べて華やかさがないのだ。
そのためか、俺が見た千葉ダンジョンの配信は第二階層までとなっていた。まあ、最下層まで撮影してしまうと、どうしてもボスモンスターを収めたくなってしまうのが配信者だ。危険が伴うため、あえて第二階層までとしている者もいると思う。
「よし、それなら私たちがボスモンスターの姿を視聴者のみんなに初お披露目するわ」
一気に盛り上がりを見せる視聴者たち。これは今日に限ったことではない。
俺のチャンネルなのに、いつも仁子さんの意見に大賛成なのだ。
と言いつつも、俺も大賛成だった。
「いいね! ドライアドの探してみよう!」
「じゃあ、ついでにトロピカルマタンゴも探しましょ」
「オッケー」
トロピカルマタンゴは通常モンスターだ。ドライアドを探しているうちに、たくさん会えるだろう。
森に入った俺たちは、巨大なキノコが至るところに生えているのでびっくりした。
「くもくも! このキノコ、マシュマロだわ」
「カラフルで色をしているね。あっちのキノコは発光しているよ」
俺と仁子さんは光キノコのそばまで駆け寄った。
触ってみると、間違いなくマシュマロで出来ていた。
「光っているマシュマロって美味しいのかな」
「わからないわ。初めて見るもの」
視聴者たちも同じだった。蛍光灯のように明るく輝くマシュマロのキノコ。
ダンジョン産だけあって、俺たちの予想を超えてくる。
「くもくも、食べてみたら?」
「えええっ!」
「視聴者たちも期待しているわよ」
いざとなれば、中級ポーションで命を取り留めることはできるだろう。
「では、実食!」
発光キノコをもぎ取って、かぶりついた。
食感はふあふあのマシュマロだ。
「ヤバすぎ! くもくもの口が発光している!」
俺はそれどころではなかった。
なんだこの味は!? 食べたことがまったくない味で、どう表現したらいいのかがわからない。
この感動を一言で表すのなら、
「ダンジョン味だ」
「なにそれ? 美味しかったの?」
「間違いなく美味しい。とても上品な果実を食べているような味だった。でも初めて食べる味なんだ。たぶん地球には存在していない」
「それってすごい発見じゃない!」
仁子さんは毒味担当の俺の話を聞くやいなや、発光キノコをパクリと食べた。
「仁子さんの口がめっちゃ光ってる!?」
俺も食べている最中、あんな風だったのか。この光キノコはびっくりパーティーアイテムに使えそうだ。
俺と視聴者たちが見守る中で、仁子さんは悶えだした。
「ううううううぅぅ……」
「だ、大丈夫。もしかして口に合わなかった!?」
「うまいっ!」
恍惚とした顔をしていた。俺はあんな顔をする仁子さんを初めて見た。
「なにこれっ、ヤバすぎ! 袋詰めにして売り出したら、即完売よ」
「そうでしょ、そうでしょ」
「くもくもが言うように、この味は地球にはないわ。まさにダンジョンの味ね」
大絶賛であった。彼女は近くに生えている光キノコをすべて採り尽くした。
「くもくも! ……これをアイテムボックスへ」
「かしこまりました」
美味しいものには目がない仁子さんだった。帰ったら彼女にわけてもらおう。
父さんと母さんが見たら絶対にびっくりするはずだ。そして食べてもびっくりである。
「光キノコは絶対に千葉ダンジョンの名物になるわ。こうなったらほかのマシュマロキノコ狩りよ」
「ドライアドは?」
「それも探しながらよ。もちろんトロピカルマタンゴもね」
なんてことだ。ドライアドを探しながら、ついでにトロピカルマタンゴも狩る。さらにはキノコ狩りもする。
第三階層の探索は大忙しだ。
「見てみて、くもくも。噂をすればなんとやらよ」
「あれは、トロピカルマタンゴだ」
大きな化けキノコがのっしのっしと歩いていた。頭にはトレードマークであるたわわに実った果物。
種類はさまざまで、バナナやパイナップル、リンゴ、オレンジ、ブドウ、イチゴなどありとあらゆる果物だった。あれはキノコの傘が進化したイミテーションなのか、本当に果物なのか、気になるところである。
俺はとりあえずアプリで『鑑定』をした。
◆トロピカルマタンゴ 種族:マタンゴ
属性 :火、水、土、風
弱点 :なし
力 :30
魔力 :80
体力 :50
素早さ:15
器用さ:30
硬度 :30
初心者では倒せないモンスターだ。それでもパーティーを組めば、なんとか倒せそうだ。
気になるのは4属性持ちであることだ。力より魔力が高いモンスターは大概の場合、浜法を使ってくる。
「仁子さん、トロピカルマタンゴが魔法を使ってくるかもしれない」
「わかったわ! 詠唱する前に仕留める」
俺の予想は当たっていた。トロピカルマタンゴが魔力を高めだしたのだ。
しかし、魔法が発動する前に仁子さんが、鋭い蹴りで吹き飛ばした。
「それっ!」
トロピカルマタンゴは、一瞬にしてドロップ品へと変わる。
「やったね」
「これくらい余裕!」
勝利のVサインをする仁子さん。
戦いはあっという間に終わってしまい、俺が出る幕もない。
彼女に拍手を送っていると、彼女を取り囲むようにトロピカルマタンゴが生えてきた。
「これってフェアリーサークルってやつかな」
「なにそれ?」
「キノコの生え方だよ。環状をなして生えてくる種類がいるんだ。トロピカルマタンゴもそうやって増えるんだね」
「関心していないで、手伝って!」
フェアリーサークルって神秘的だよな……なんて思っている暇はなさそうだ。
なぜなら、わらわらとトロピカルマタンゴが生えてくるからだ。
「数が多いと、気持ち悪いな」
「動きも気持ち悪いから余計にね」
小刻みに動いて踊っているようだった。よしっ、マタンゴダンスと呼ぼう。
「頭の果物から胞子を出している!?」
「吸ったらヤバそうだ」
俺たちは大きくジャンプをして、トロピカルマタンゴから距離をとった。
「くもくも、大地が振動していない?」
「さっきから、揺れが大きくなっているよな……」
そして振動はピタリと止まった。いやな予感がした俺たちは、頭上を見上げた。
森の枝葉の隙間から、ゆっくりと現れたのは巨大な大木だった。
古代樹とも思えてしまう歴史と大きさを感じさせる。
もしかして、あれがドライアドなのか!?
俺は見上げるほどの大木にスマホを向けて、アプリの『鑑定』を実行した。
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