第123話 オアシス
飴の街でしっかりと休憩した俺たちは露天巡りを早々に切り上げて、下への大階段を探していた。
一面に広がるザラメ糖で出来た砂漠。
「すごい量だね。これを袋詰めにしてダンジョン砂糖として売り出せるかも」
「くもくもと同じことを考えた人たちがあそこでスコップ片手に頑張っているわね」
「ほんとうだ! 俺もちょっと持って帰ろう」
朝のコーヒーに入れて飲んだら、美味しいかもしれない。
「この砂漠は探索者が多いね。景観も良いし、観光スポットなのかな」
「見て、くもくも。オアシスよ」
「大きい湖だね」
水面は鏡のようにダンジョンの光を反射して、キラキラと輝いていた。
その湖の辺りにはさまざまな植物が生い茂っている。近づいてみると、植物は砂糖でできていた。
「綺麗だね。飲めそうかな」
「ちょうど喉が渇いていたのよ」
周りの探索者たちが湖の水を手で掬って飲んでいたので、安全そうだ。
紙コップをアイテムボックスから2つ取り出して、1つを仁子さんに渡す。
「はい、どうぞ」
「サンキュー! では早速」
仁子さんは紙コップを湖につけた。そして汲み取った水を一気に飲み干す。
ぷっは〜! 良い飲みっぷりだ。
「思ったよりも甘くなかったわ」
「意外だね」
「周りのザラメが溶け込んで甘いだけかと思ったら、全然違う」
「味はどうだった?」
「サイダーね」
えっ、炭酸が入っているの!?
上の階層で見た炭酸水の泉と同じなのかな。
すると仁子さんが紙コップに水を汲んで、ザラメをいれた。
「見て、くもくも。ザラメから炭酸が発生しているわ」
「えええっ! やっぱりダンジョン産は変わってるね」
このザラメがあると即席でサイダーが作れるのか。これは利用価値が高そうだ。俺は追加でアイテムボックスにしまうことにした。
「ここって落ち着くわね。飴の街とは大違い」
「あそこにはキャンディーミミックがいたからね。オアシスにはモンスターはいないね」
「安全地帯なんでしょ。たまにこういう場所が発生するのよね。ギルドの遠征ではキャンプ地によくするわ」
「どうしてこんな場所が生まれるんだろ?」
「はっきりしたことはわかっていないの。でも、ダンジョン内ではモンスターが湧きやすい場所とそうではない場所がある」
「そうだね。今までのダンジョンでは場所によってモンスターの発生数に偏りがあった」
「階層で発生する総数には、限度があるのではないかと言われているの」
「じゃあ、このオアシスは他の場所でたくさん発生したモンスターのあおりを受けているってこと?」
「うん。おそらく、ここのモンスター発生率は限りなくゼロに近いのかもね」
もしモンスター発生率をコントロールできたら、すごいことになりそうだ。
効率よく狩りができたり、安全に休憩もできる。
「あっ、くもくも今コントロールできたらいいなって思ったでしょ」
「なんで、わかったの!?」
「企んだような顔をしていたわ。でも、さすがのダンジョン神でもそんなことはできないんでしょ」
俺は元気よく頷いた。そんなことができたら、本当にダンジョン神だ。
「できたら効率的だけどさ。探索が楽しめなくなるから、今のままで十分だよ」
「くもくもなら、そう言うと思ったわ」
のんびりと二人で砂漠のオアシスを眺めているのもいいな。
今回の探索は、今までと違って時間が長く感じられた。
「よしっ、いこうか!」
「そうね。アイテムクラフトの素材を集めないとね」
オアシス観光を堪能した俺たちは、砂漠の奥へと進む。オアシスサイダーを飲んだ効果だろうか。体の疲れが取れており、快調にザラメの上を歩いて行けた。
「仁子さん、あれを見て」
「うああ、砂嵐……というかザラメ嵐ね」
強い風によって巻き上げられたザラメによって、視界が不良となっていた。
「あの先をいくの?」
「そうだよ。第2階層のマッピングでは、あの中に大階段がありそうなんだ」
スマホのアプリでは、他の場所はほとんどマッピングされており、残すは砂嵐があるところだけだった。
他の探索者の動向も見ようとしたけど、俺たち以外にいなかった。この下の第3階層は、この階層よりもモンスターは間違いなく強いだろう。そうなれば、初心者たちには危険な水準となってしまう。
千葉ダンジョンは観光を楽しむ探索者が多いと聞く。だから、あえて危険な階層にまでは踏み込まないのだろう。
「仁子さん、離れ離れにならないように手を繋ごう」
「……うん。いいわよ」
ザラメ嵐の中は、予想通り視界不良だった。それでもアプリのマッピングを使って、大階段の場所を絞っていく。
「あったよ、仁子さん!」
「やるわね。さすがはダンジョン神ね」
俺の手を握る仁子さんの手に力が入る。
ザラメ嵐の中をマッピング頼りに歩き回ったので、体の至る所にザラメが侵入していた。
大階段に駆け込んだ俺たちは、服をはらってザラメを落としていく。
「くもくも、頭にザラメがたくさん積もっているわよ」
そう言って、仁子さんは俺の頭に乗ったザラメをはらってくれた。
「ありがとう。って仁子さんも同じく積もっているよ」
お礼とばかりに、俺は仁子さんの頭に綺麗にする。うん! これでよしっ!
「サンキュー、くもくも! 今日のダンジョンはいろんなものが、髪にくっついて大変よ」
「これくらいなら、いつでもいって。でも焼き払って綺麗にするのはなしだからね」
「あははっ! ファイアボールでシャワーするのって気持ちがいいのに」
「ほとんどの探索者が致命傷だよ」
「タルタロスギルドでは、私だけの特別シャワーよ」
仁子さんはドヤ顔だった。彼女なら、マグマダイブもへっちゃらかもしれない。
竜の力を持っているから、体の耐久力は尋常ではない。
俺は大階段を降りながら、仁子さんに聞いてみる。
「仁子さんって体が丈夫だよね。もしかして銃弾とかも平気なの」
「うん。その気になれば、対戦車ライフルだって跳ね返せるわ」
「まじか……」
「ほら、私って拳で戦うじゃない。それくらいじゃないとスタートラインにも立てないわ」
仁子さんの拳での戦いは自分の特性を活かしたものだった。
俺の天使モードは、彼女ほどの防御力はない。だから、どうしても肉弾戦よりも、魔法に頼ってしまうのだ。
今は剣術の技術を上げているので、いつかは二つを融合して魔法剣士として大活躍するつもりでいる。
俺は鞘からミスリルソードを抜いて刃を確認する。
キャンディーミミック戦によって、少しだけ刃が傷んでいた。
どうやら、その道はまだまだ遠いようだ。
まだ使えるが念の為、スマホのアプリで『修繕』を行う。対価としてミスリルの塊を1個消費した。
「よしっ、次はもっと上手く扱うぞ!」
「気合が入っているね。私から見たら、剣術は結構いい線をいっていると思うけど」
「まだまだ鋼牙さんの足元にも及ばないよ」
「パパが聞いたら、喜ぶと思うわ」
仁子さんはとても嬉しそうだった。その様子を見ていると俺も自然と微笑んでしまう。
つまり、彼女とのダンジョン探索はとても楽しい。
「あっ、第三階層が見えてきたよ」
「どんなところでしょうね」
待ちきれない俺たちは、急いで大階段を駆け降りていく。
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