第125話 ドライアド

◆ドライアド 種族:亜精霊

属性 :土

弱点 :なし

力  :340

魔力 :280

体力 :150

素早さ:90

器用さ:230

硬度 :100


 やはりボスモンスターを感じさせるステータスだ。

 育ちすぎたキャンディーミミックよりも倍以上の強さだった。

 俺は視聴者たちに注意喚起する。


「皆さん! ドライアドは上の階層で戦ったキャンディーミミックより、とても強いです。初心者の方は絶対に第三階層には入らないでください。キノコ狩りは禁止です!」


 のんきにキノコ狩りをしていたら、ドライアドに出会ってさあ大変になってしまう。

 いくら中級ポーションや蘇生のペンダントを持っていても、倒せなかったり逃げられなかったりすれば意味を成さない。


「仁子さん、グラムを渡そうか?」

「お願いできる。トロピカルマタンゴが多いし、全体攻撃できた方が楽ね」


 俺は素早くアイテムボックスから、魔剣グラムを取り出して彼女に渡した。


「サンキュー、トロピカルマタンゴを倒しながら、ドライアドに牽制するわね」

「仁子さん、フェアリーリングの下に、元となっている菌糸があると思うんだ」

「わかったわ。見つかれば破壊する」


 そう言って仁子さんは増殖するトロピカルマタンゴの根絶に向かった。

 俺はミスリルソードを構えて、その間の時間稼ぎだ。硬度100か……ミスリルソードには荷が重たい硬さだった。


 それを刃こぼれなく両断できてこそ、一人前の剣士だと思う。日頃の鍛錬が試されるときが来たのだ。

 ドライアドに向かって、大きくジャンプをした。


「セイっ!」


 キーンという甲高い金属音が鳴り響く。

 あれっ、全く切れていないどころか。持っていたミスリルソードが根元からポッキリと折れてしまった。


 マジかよ……。俺の鍛錬は無駄だったのか。それともまだまだ未熟ということか。


 それでも明らかにあの大木は硬すぎる。硬度100のモンスターにミスリルソードで斬りつけて、全く傷がつかないわけがない。


 俺は納得できずに、スマホのアプリで『鑑定』を再度行った。


「えええっ、このボスモンスターは硬度を変化させることができる!?」


 ドライアドの硬度が100から300に引き上がっていたのだ。

 これなら、ミスリルソードも折れるはずだ。


 俺はアイテムボックスから代わりの剣を取り出した。もちろんミスリルソードである。

 ステータスをギア5にすれば、力押しで斬ることはできるだろう。

 しかし、それでは剣の技術は上がらないままだ。

 ステータスはこのまま。ミスリルソードで斬ってみせる。


 精神を集中するのだ。ドライアドの根っこを使った攻撃は、今もちゃんと躱せているんだ。

 剣を自分の一部として捉えろ。俺の中に流れる魔力を、剣にも循環させろ。

 俺は敵の攻撃を躱しながら、詰め寄って剣を大きく振りかぶる。


「セイっ!」


 ドライアドの体にミスリルソードが触れる瞬間、持てる力と魔力を一気に爆発させた。


「キィィィィィッ」


 耳をつんざく悲鳴と共に、ミスリルソードはドライアドの体に深々と食い込む。

 俺は力を緩めずに、そのまま振り抜いた。

 伐採とまではいかなかったが、かなりの深手を負わすことに成功する。


「やった! できたぞ。ミスリルソードの性能以上の攻撃ができた!」

「くもくも、やるじゃん!」

「仁子さん! トロピカルマタンゴは?」

「もう全部倒したわよ。くもくものアドバイス通りだったわ。フェアリーサークルの下に発生源の菌糸が埋まっていたの」


 アイテムボックスを確認すると、ドロップ品であるトロピカルマタンゴの果実が410個入っていた。さすがは仁子さんである。俺が鍛錬の成果を試している間に、一掃してしまうとは……。

 こっちもオタオタしていられない。


「急いじゃった! ほら、この前のアラスカダンジョンでヨルムンガンド戦に加われなかったでしょ」


 どうやら、仁子さんはフェンリルとの戦いに手こずったことを気にしていたようだ。


「仁子さんが来てくれて心強いよ」

「ドライアドは硬度変化できるのね。珍しいタイプだわ」

「本来はそういうモンスターには魔法が有効なんだろうけど」

「今日は剣術の日だもんね」


 仁子さんが言ったとおり、今日の俺はいつもとひと味違うのだ。

 父さんが夕食でとりあえずビールと言うような感覚で、俺もダンジョンでとりあえず魔法だった。それでは配信を観てくれている視聴者たちが飽きてしまう。


 新たな戦い方を見せれなければ、ダンジョン配信者として成長はない。


 今も痛みで体を激しくうねらせているドライアドに向けて、ミスリルソードを構える。


「悪いけど、先に俺が倒す」

「あっ、ずるい!」


 一足先に、飛び上がった俺はドライアドに向けて縦に一閃。

 今度も、かなり深く斬り込めた。ミスリルソードの刃も欠けていない。

 それでもとどめにならなかった。ドロップ品に変わらないのだ。


「思った以上にしぶとい」

「なら、私の出番ね」


 仁子さんは魔剣グラムを振りかぶって、ドライアドを根元から伐採した。

 これ以上ないくらいに叫び声を上げながら、ドライアドは倒れ込んだ。


「まだ枝葉がぴくぴく動いてるね」

「うそでしょ。これでまだドロップ品にならないの!?」


 仁子さんもびっくりの生命力だ。

 大木がくねくね動く様子は、巨大な芋虫のように見えた。


「なんかいやな感じがするわ。早く倒しましょ」

「うん。なら、二人で」


 俺はミスリルソード、仁子さんはグラムを振り上げる。

 そして、ドライアドへ向けて振り下ろそうとしたとき、


「何だ、急に光った!」

「眩しいっ!」


 暗い森の中であったことも災いして、急な強い光に目の前が真っ白になってしまった。

 こればかりは鍛えてどうこうできるものではない。


「「うあああぁ、目が、あぁ、目がっ、」」


 もう失明するかと思うほどの光だった。

 これほどの不意打ちを受けたのは初めてだった。


「仁子さん、ドライアドから距離をとろう」

「オッケー」


 お互いに視力が回復していないため、手をつないで後ろへ飛び退いた。


「いててっ」

「角が何かに刺さった」

「それは俺だよ!」


 着地をミスり、バランスを崩した俺たち。

 そして主に俺が被害を受けた。


 目が回復したところで、ドライアドを確認する。


「くもくも、見てよ。これ……」

「からっぽだ」


 大木の中身がない。あるのは外側の硬い皮だけだ。

 もしかして、さなぎのように羽化をしたのか?


 まさかね……なんて思っていると、頭上からまたしても強い光が発せられた。


「仁子さん、これを使って」

「おっ、サングラス。さすが、用意周到ね」


 こんなこともあろうかとアイテムボックスにいれておいて良かった。

 俺と仁子さんはサングラスをかけて、光の発生源を見つめた。


「たくさんの蔦をまとった青白い女性がいる……もしかして、あれがドライアド!?」

「中身というか、本体かも。う〜ん、ちょっとあの姿センシティブすぎない」


 ドライアドは、この世の者とは思えないほどの美しい女性だった。

 彼女は俺たちの目線に気がついて顔を向ける。


「うああ!?」

「ヤバすぎっ!」


 途端に顔が豹変して、人間とは違った形になった。目は大きく5倍ほどの大きさへ、鼻は膨れ上がり、口は裂けて歪な歯がむき出しになる。

 その姿は間違いなくモンスターだった。


「くもくも、来るわっ」


 先ほどの顔は俺たちへの威嚇だったようだ。

 すぐに綺麗な顔に戻ったドライアドは奇声を上げながら、地上にいる俺たちに向けて急降下してきた。

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