第126話 ミラクルキャンディー

 俺はすぐにドライアドを『鑑定』した。


◆ドライアド 種族:精霊

属性 :土

弱点 :なし

力  :680

魔力 :560

体力 :300

素早さ:180

器用さ:460

硬度 :300


 硬度を除いたステータスが2倍になっていた。

 大木の皮を脱ぎ去った本来の力のようだ。

 種族も亜精霊から精霊となっている。ドライアドは上位の種族へ変わることができるモンスターだった。


 視聴者たちはドライアドの妖艶な姿に、大変喜んでいた。

 見た目は美しくても、モンスターであることは変わらない。


「仁子さん、ドライアドのステータスが硬度を除いて2倍になっているから気をつけて」

「教えてくれて、サンキュー。サングラスさえあればこの程度のモンスターに遅れはとらないわ」

「……ですよね」


 彼女はSランク探索者だ。いらぬ心配をしてしまったようだ。それでもダンジョンにおいて情報は大事だ。

 ドライアドは精霊に変わったことで、空を飛べるようになっていた。

 仁子さんは竜の翼を生やして、ドライアドに向けて突撃した。


「それっ!」


 魔剣グラムを振り下ろして、ドライアドを真っ二つにする。


「ん!?」


 しかし彼女は芳しくない顔をしていた。


「どうしたの?」

「手応えを感じない」


 仁子さんの言うとおりだ。アイテムボックスにはドライアドのドロップ品は回収されていない。しかし、俺の目にはドライアドを倒したように見えた……。


「もしかして、幻覚!? 仁子さん、後ろだっ!」

「えっ」


 彼女の真後ろに現れたドライアドが体に巻き付いている蔦で攻撃をしてきた。

 鞭のようにうねりながら、仁子さんに迫ってくる。

 すんでの所で、グラムを盾にして防いだ。


「危ないわね」


 仁子さんは反撃とばかりに、グラムを横に振るう。またしても、ドライアドを両断したのだが……やはり手応えがないようだ。


「斬ったドライアドが消えていくわ」

「攻撃するときは、実態だったよね」

「でも、私が攻撃したときには……」


 まばゆい光を放つモンスターだ。その光を駆使して、俺たちの視野を操っているのかもしれない。


 そうなると、不可視の攻撃だって可能になってしまう。


「きゅああぁ!」


 仁子さんがいきなり吹き飛ばされたのだ。

 周りにはドライアドはいなかった。


 出し惜しみはしていられない。ステータスをギア5にして、天使の翼を生やす。


「仁子さん!」


 空中で彼女を抱き留めて、声をかける。


「大丈夫?」

「何もないのに、攻撃を受けたわ。ドライアドは透明になれるみたい」

「いや、透明というか。おそらく俺たちの視野を自分の都合がいいように操っているんだ」


 こればかりはサングラスをしていても、対策できない。


「それって目を瞑って戦うってこと」

「うん」

「苦手かも」


 シンプルな戦い方を得意な仁子さんには、相性の悪いモンスターだった。

 それでも、諦めないのが彼女らしい。サングラスを外して、素直に目を閉じたのだ。


「さあ、来なさい!」


 俺から離れた仁子さんは、ドライアドの気配を探っていた。

 さあ、彼女の心眼は開けるのだろうか。ただ気配を感じるのではない。詳細に動きを把握するのだ。これは、想像以上に難しい。


 そして、俺の目の前で仁子さんは、ドライアドの攻撃をたくさん食らっていた。


「……仁子さん、交代しよう」

「無念だわ」


 アイテムボックスから中級ポーションを取り出して、仁子さんに渡す。

 かすり傷だけど、念のため飲んでおいてもらう。


「くもくも、がんばって!」

「鍛錬の成果を見せるときだ!」


 毎朝の筋トレの後に、心眼の鍛錬もちゃんとメニューに入れていた。

 やり方はこうだ。はじめは精神を高めて、まわりの生き物の気配を探る。そして、その中の一つに絞って動きを捉えていく。


 だんだんとすべての動きが捉えられるようになったら、より複雑な行動をする対象へとステップアップする。


 それは、朝食を作る母さんだった。

 台所を動き回り、冷蔵庫の扉を開けたり閉めたり、包丁を振るったりと、心眼を鍛えるのにもってこいだった。


 俺はサングラスを外して、目を瞑る。まずはドライアドの気配を探る。

 いた! 前方斜め右に12mの位置にいる。俺たちの様子をうかがっているようだった。


 居場所を捉えたので、そこから詳細な動きを把握する。


「来るっ!」


 ドライアドが俺に向かいながら、鶴で攻撃してきた。

 右、左、下の三方向からの同時攻撃だ。


 俺はそれを紙一重で躱していく。心眼だからこそできる最小限の動きだった。


 攻撃をするときには、必ずと言っていいほど隙が生まれる。

 なぜなら、守りの姿勢が崩れるからだ。カウンターとはそこを狙うものだと、鋼牙さんが言っていた。


 俺はその教えを守って、隙だらけのドライアドに一閃。


「手応えあり!」


 目を開けるとミスリルソードで、ドライアドを縦に両断していた。


「やった!」

「くもくも、やるわね!」


 そんな俺たちの喜びはつかの間だった。ドライアドは最後の力を振り絞って、激しい光を放って爆散したのだ。

 サングラスを外していた俺たちは、まともにその光を見てしまった。


「「うあああぁ、まただ! 目が、あぁ、目がっ、」」


 せっかく倒せたのに喜ぶ暇もなく、俺たちは空中でもがいていた。

 このボスモンスターは二度と戦わない。本当に失明しそうだったからだ。


「ああ、くらくらする」

「くもくも、中級ポーションを追加でお願いできる」

「はい、どうぞ」


 二人で一気飲みだ! よしっ、これで視界良好!

 成り行きを見守っていた視聴者たちもにっこりである。


「千葉ダンジョンのボスモンスターであるドライアドを倒しました。見てください、これがドロップ品です」


 アイテムボックスから、ドライアドの花冠を取り出して、視聴者たちに見せる。

 今回のアイテムクラフトでは使わないけど、大事な戦利品だ。ドロップ増加材を予め飲んでいたので、二つゲットしている。ログハウスに帰ったら、他のドロップ品と一緒に山分けである。


「そして、ミラクルキャンディーのクラフト素材が集まりました。早速クラフトします!」


 視聴者たちは大いに盛り上がる。このために観ている人が多いのだ。

 まずはミラクルキャンディーを1個クラフトしよう!

 俺は映えるようにアイテムボックスから必要な素材を取り出して、地面に置いた。


 ・ジャイアントグミの欠片 ✕ 10

 ・シュガードワーフの斧 ✕ 10

 ・トロピカルマタンゴの果実 ✕ 10

 

 たった一個の飴を作るための材料としては、多すぎる。

 もしかして、とても大きなものができあがってしまうのでは……。一抹の不安を感じさせる。

 あれこれ思っても、クラフトしてみないとわからないか。


「ではいきます!」


 スマホのアプリで、クラフトの『実行』を押した。


 素材は宙に浮いて、円を描くように回り出した。そして、ゆっくりと光の粒子となって形を失っていく。

 そして、すべてが粒子となり、新たな形になるために集まり出した。


「はい、出来上がりです! これがミラクルキャンディーです!」


 クラフトされた飴の大きさは、ビー玉くらいだった。予想していたよりも、はるかに小さかった。

 実物があればこっちの物だ。

 ミラクルキャンディーを『鑑定』をした。


 これは!?

 またダンジョン探索に新たな震撼が走ってしまうかも!


「仁子さん、このミラクルキャンディーを食べてみて」

「わかったわ」


 仁子さんは素直に口の中に入れた。俺のクラフトアイテムの信頼度は相当高いようだ。


「すごい。なんてこと!?」

「でしょ! すべてのステータスが、一時的に4倍になるアイテムなんだ」

「それなら、二つ食べたら4倍の4倍で16倍!?」

「効果時間が延びるだけだよ」


 食べるたびに4倍になっていたら、いくらなんでもバランスブレーカー過ぎる。

 ミラクルキャンディーで、すべてが解決してしまうだろう。


「1個で効果時間は1時間。追加で食べるたびに1時間延長されるよ」

「便利なアイテムじゃん」

「副作用は、無理矢理すべてステータスを上昇させるから、次の日に筋肉痛になることだね」


 鑑定でわかったミラクルキャンディーの情報は以上だった。


「効果も確認できましたので、このアイテムを明日の朝9時から販売します! 販売ゴーレムは第二階層の飴の街に設置します。良ければドロップ品と交換してください!!」


 視聴者たちに説明をする後ろでは、仁子さんが強くなった体を試していた。


 配信のコメントでは「ハイパードーピングきたー」「ダンジョン神の本領発揮」「今から千葉ダンジョンへ行きます」など喜びの声にあふれていた。


 今日の目的も果たせたし、配信はここまでにしよう。


「メルヘンダンジョンはお菓子を食べながら探索できる新鮮さで楽しめました。ミラクルキャンディーも手に入れましたし、天空ダンジョンへ向けて準備を整えていきます。よかったらグットボタン、お気に入り登録をお願いします!」


 俺はそう締めくくり、アプリのLIVE配信を終了した。 

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