第146話 診断結果

 身体測定で俺の身長が188cmになっていた。探索者を始める前は164cmだったのにすごく伸びたな……。このまま行けば、190cmも夢じゃない!


 併せて体重も大幅に増加していた。なんと80kgだ! あの骨と皮だけと言われた俺も、しっかりとした体になったものだ。毎朝かかさず、筋トレをしている成果だろう。


 頷きながら健康診断の用紙を眺めていると、仁子さんがのぞき込んできた。


「へぃ、八雲君って思ったより身長があるんだね」

「まあね。育ち盛りだから! 仁子さんはどうなの?」

「私は秘密よ!」


 そう言われては、しかたない。彼女は頭に角が二本生えているので、その部分も身体の一部として計測されるのか知りたかったのにな。


 視力はお互いに2.0と書かれていた。それ以上も見えたのだけど、測定する環境がなかった。


「私なら8.0はいけると思うわ」

「逆に近いところが見えにくそうだね」

「聴力も正常! 私の地獄耳が遺憾なく発揮されたわ」

「俺も問題なし」


 後はレントゲンと心電図……そして血液採取だ。


 まずはレントゲンを取ってもらう。部屋に入って服を脱いで、撮影機の前で大きく息を吸う。そのタイミングで撮影だ。

 綺麗に撮れたようで、一回で完了となった。

 心電図も胸の辺りにぺたぺたと電極パッドを貼り付けられた。後は寝ているだけという簡単なものだった。


 血液採取が思った以上に、沢山取られてしまいびっくりだった。大きめの注射器で3本分。いろんな形の容器に俺の血を入れていたので、検査する項目が多岐にわたるのだろう。


 最後は、診察室で俺と仁子さんの検査データを浅見さんは真剣な目で見ていた。


「血液検査は時間がかかるから後日、説明するわね」

「「はい」」

「まずは仁子ちゃん! 健康で安定しているわ。今回は注射もうまくいったし、言うことなしね!」

「ありがとうございます!」


 仁子さんは俺に見せつけるように、ピースサインをした。

 これは俺も負けてはいられないぞ。


「次は東雲君ね。うん……これは!?」

「えっ、何か問題でも!」

「すごく頑丈な骨をしているわね。人間の構造とは違うわよ。例えば、首の骨とか、鎧を着ているみたいになっているわ」


 そう言いながら、俺にもレントゲンで撮影したものを見せてくれる。


「うああ……これって大丈夫なんですか?」

「元気そうだから、たぶん問題ないと思うけど……現状では判断が難しいわね。血液検査の結果も見てみないことには」

「俺って、人間なんでしょうか」

「う〜ん………人間として不完全な構造がすべて強化されているのよ。人間から進化した者って感じかしら。非常に興味深いわ」


 それを横で聞いていた仁子さんが、レントゲン画像を見ながら言う。


「私もかなり人間離れした構造しているけど、これは私以上ね……八雲くんの中身ってこうなっていたんだ」

「まじまじと見ないでっ!」


 仁子さんが興味津々過ぎる!!

 なんだか、裸を見られているよりも恥ずかしい。


「見た目からだと、ほんとわからないものね」

「俺も自分の体にびっくりだよ」


 まさか見た目だけではなく、中身も別物になっていたとは、自分自身がちょっと怖いくらいだった。


「心配なら、定期的に診察できるけど、どうする?」


 空を飛んでいけば、それほど時間がかからずに、この施設にくることはできる。

 もしこのまま俺の知らないうちに、人間を超えた存在になっていくのも受け入れがたい。


「おねがいします!」

「なら、血液検査の結果が出てから、また来てもらおうかしら。仁子ちゃんはどうするの?」

「八雲くんが心配なので、付き添いに来ます!」


 仁子さんがいてくれると心強いし、とてもありがたかった。

 やっぱり天使化の影響だろうな。いよいよ人間をやめて、天使になってしまうんだろうか。


 浅見さんは、俺たちの検査結果を見ながら、どこか感心していた。


「二人のデータは、他のSランク探索者とは一線を画すわね。今度はMRIも取らせてもらおうかしら」

「ええっ、あれはうるさいし、長いから面倒くさいです。あと角が邪魔になるし」


 仁子さんはMRIに拒否反応を起こしていた。

 それでも浅見さんは、抗議を押し切ってしまったので、仁子さんの扱いをよくわかっているのだろう。


「くぅ〜、丸め込まれてしまった」

「まあ、まあ」

「それでは健康診断は終わりよ。ご苦労様でした! では、本命のトレーニング施設にご案内よ」



 待ってました! 俺たちはこのために遙々樹海までやってきたのだ。


「私としては本命は健康診断なんだけどね。Sランク探索者は国としても稀少な人材だし、普通の医療機関だとどうしてもちゃんとした検査ができないから」

「もしかして、トレーニング施設ってそのおまけなんですか?」

「それは利用する人が決めることよ。さあ、付いてきて!」


 エレベーターにみんなで乗り込んで、まずは地下一階へ。


「この階は、探索者用のトレーニング用品が置いてあるわよ」

「楽しみにしていたんです! 購入もできるんですよね」

「そうよ。大抵の探索者はここで買っていくわね。そうよね、仁子ちゃん!」

「八雲くんのお眼鏡にかなうものがあればいいわね」


 扉が開くと、おしゃれなジムが現れた。モダンな壁だな。ん? これはもしかして!?


「この壁って人工オリハルコンですか?」

「よくわかったわね。そのとおりよ。床にも分厚いものを仕込んでいるから、安心してトレーニングできるわよ」

「すごい……それに広い!」


 学校のグラウンドくらいはあるぞ。そして、トレーニング用品がずらりと並んでいた。


「あの分厚い服はなんですか?」

「魔力を吸収する素材でできているのよ。あれを着て、魔力を取られないように鍛えるものね」

「魔力コントロール力が上がりそうだ」


 早速、着させてもらうと、みるみるうちに魔力が吸い取られていく。


「すごい吸引力だ! 取られないように魔力を制御しないとっ」


 しかし、そう簡単にはいかなかった。どうやっても、少し吸いとられてしまう。


「難しいでしょ。これはかなり高度な魔力操作が必要になるからね。でも、初めてにしては、かなり良い線よ。東雲くんは魔法才能があるのね」

「仁子さんから言われてます」

「うんうん、浅見さんからも太鼓判をもらったわけだし、魔法に専念してみたら?」


 仁子さんに魔法使いへの道を促されるが、俺は首を横に振った。


「今は剣術をがんばりたいんだ。目指せ、魔剣士!」

「ということみたいです。良いトレーニング用品はありますか?」

「そうね。魔法は大丈夫そうだから、剣術系のものを紹介した方がよさそうね」


 浅見さんは、さらに俺たちを奥へ連れて行く。とっておきの物があるらしい。

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