第84話 猛吹雪
氷室さんは、バックからパソコンを取り出して俺のチャンネルの監視する準備に取り掛かる。
「今日のところは、探索中にここで仕事をさせてもらってもいいですか?」
「はい、大丈夫です。飲み物は冷蔵庫にあるので好きに飲んでください」
「お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えてさせていただきますね」
「中級ポーションもたくさん入っていますので疲れたら飲んでください」
「すごい! でも高級品を良いんですか?」
「福利厚生ですよ。でも横流しは厳禁ですよ」
「承知しております」
彼女自身で中級ポーションの効果は見に持って理解している。
だからか、すごく嬉しそうだった。
うんうんと思っている俺に、仁子さんが言う。
「私には? 一応相棒みたいなポジションでしょ?」
「仁子さんも好きに飲んでいいいよ」
「ありがと、八雲くんのそういうところ好きよ」
「どういたしまして」
俺と仁子さんは自室に移動して、装備を整えた。
タルタロスギルドから頂いた装備は、見るからに高価だとわかってしまう。
鑑定で調べてみると、すべての防具が防寒仕様だった。
デザインもこれぞ探索者という感じで、かっこよい。
「この装備ってすべて手作りなんだ」
完全オーダーメイドである。そういえば、仁子さんに体の寸法を測られていたときがあったので、このときのためだったのかもしれない。
紺色で統一された防具は良い感じだ。きっとアラスカダンジョンで映えることだろう。
俺が部屋から出てくると、氷室さんが褒めてくれた。
「良い感じですね。とても良く似合っていると思います」
「ありがとうございます。タルタロスギルドからもらったんです」
「大手なら高性能でしょうね。アラスカダンジョンは、マイナス50以下の世界だと聞いています。ですが、この装備なら低体温症になることはないでしょうね」
「装備にも詳しいんですね」
「元探索者ですから」
俺は氷室さんと談笑しながら、仁子さんを待つ。
しばらくして、仁子さんが新装備で現れた。
「どう?」
「すごくきれい! 真っ白だ!」
「西園寺さんの装備に触発されて、パクりました」
「そう言われてみれば、ちょっと似ているかも」
仁子さん曰く、ワシントンダンジョンで西園寺さんが着ていた装備がスタイリッシュですごく良かったそうだ。
俺の知らないところで、似た衣装を作ってもいいかと西園寺さんに許可をもらっていたみたいだ。
「もしかして西園寺さんの監修も入っているの?」
「そうよ。仕事で忙しいホワイトさんの意志を継ぐ者として、今回のアラスカダンジョンへ挑むわ」
「いつの間に!?」
二人とも装備が整ったところで、ダンジョンポータルを開くことにした。
アプリでアラスカダンジョンを選択!
接続開始だ!
ポータルの光が黄金色となったことで、アラスカダンジョンへ問題なく繋がった。
「よしっ、準備万端!」
その様子を見ていた氷室さんが、驚いたような顔をしていた。
「西園寺から話は聞いていましたが、すごく便利ですね。それにとても綺麗です!」
冷静沈着な彼女は、ダンジョンポータルを見て少し興奮しているようだった。
だが、すぐにいつもの氷室さんに戻って言う。
「では、こちらではLIVE配信が始まりましたら、モデレーターをさせてもらいますね」
「お願いします!」
「いってらっしゃい。お二人ともお気をつけて」
「はい、頑張ります!」
「行ってきます!」
氷室さんに見送られながら、俺と仁子さんはダンジョンポータルへ飛び込んだ。
さあ、アラスカダンジョンはどのようなところだろう。
超不人気ダンジョンということで、配信者がやってこないところだ。
だから、ほとんど情報が出回らないダンジョンでもあった。
いつもなら、予習をしてダンジョンに挑むのだけど、今回は出たところ勝負といった感じだ。
「寒い!」
「やばっ! ここってダンジョンの中だよね」
「そのはずだよ」
「めっちゃ吹雪いているんですけど」
ダンジョンの中とは思えない猛吹雪だった。
元々マイナス50度の寒さなのに、強い風も相まって、体感ではそれ以上に感じる。
タルタロスギルドからちゃんとした防寒装備をもらっていなかったら、即撤退していたことだろう。
「仁子さんは寒くない?」
「私はこういうのは平気だから問題なし」
「……そうだったね」
仁子さんの体は俺とは違って、すべての属性に耐久性があるのだった。
なんてスペシャルな体なんだろうか。羨ましい限りだ。
仁子さんは吹雪の中で、元気よくダンジョンの様子を伺っていた。
「視界が悪いわね。でもこのダンジョンはかなり広そうよ」
「マッピング機能があるから、遭難することは無いと思うけど、慎重にいこう!」
「オッケー」
さてさて、俺はアプリからの通知を確認しよう。
もちろん、新しいクラフトアイテムのお知らせだ。
◆レーヴァテインの素材
・フランベルジュ ✕ 1
・フェンリルの銀爪 ✕ 1
・ヨルムンガンドの勾玉 ✕ 1
むむむっ! フランベルジュが新しい武器にアップグレードされるのは喜ばしい!
しかし、必要となる素材に一抹の不安を感じる。
フェンリルとヨルムンガンドって名前からして、大物感がすごい。
おそらくどっちかがボスモンスターだろうな。
仁子さんに状況を共有すると、ノリノリだった。
「このグラムのサビにしてやるわ」
「油断は大敵だよ」
「わかっているって。それよりも頭に雪が積もっているわよ」
のんびりとクラフトレシピを見ていたら、そんなことになっていたのか。
仁子さんに頭の上の雪を払ってもらいながら、俺はアイテムボックスからドロップ増加剤を取り出した。
「はい、いつものやつ」
「ありがと! これって便利よね」
猛吹雪の中、仁子さんはいつものように豪快に飲み干した。
俺も一気に飲み干す。なぜなら、あまりの寒さに中身が凍ってしまいそうだったからだ。
「ちょっと試したことがあるから、待ってもらってもいい」
「何をするの?」
俺は中級ポーションをアイテムボックスから取り出して、地面に置いてみる。
しばらくして、中の状態を確認する。
「うああ……凍っている」
「取り出したらすぐに飲まないとね」
「そうだね。仁子さん飲みで行こう!」
「何、それ!? 褒めている?」
「う、うん」
「怪しいな……」
さあ、体も温まってきたことだし。
そろそろ、アプリでLIVE配信を開始しよう!
視聴者たちもかなりの人数が待機している。これ以上待たせては、書き込みが荒れてしまって氷室さんが大忙しになってしまう。
仁子さんにも開始を伝えて、アプリの「開始」ボタンを押した。
「おまたせしました! 今日は極寒のアラスカダンジョンに着ています! もちろん、今回も片桐仁子さんにも手伝ってもらいます!」
「どうも、よろしくね!」
仁子さんが画面に映し出されると、一斉に書き込みが盛り上がる。
そして、悩まされていたキモい書き込みもかなり流れてきた。
その途端、氷室さんがモデレーターとして、素早くブロックしていく。
あっという間に一掃されてしまった。なんというお手並みだろう。
そして、『くまちゃん』という名前で注意書きをする。
『不適切な書き込みはブロック対象となります。今後の書き込みルールは概要欄をご確認ください』
視聴者たちは、俺たちと同じように問題な書き込みを快く思っていなかったようで、くまちゃんを大歓迎していた。
それでもチャンネル登録数が200人ほど減ったので、ブロックする速度に視聴者たちはビビっていた。
くまちゃんだけは怒らせるなという書き込みがたくさん流れるほどだった。
「今後はモデレーターとして、くまちゃんに手伝ってもらいます。皆さん、仲良くご視聴してください!」
「みんな、私への書き込みは気をつけてね! くまちゃんはめっちゃ厳しいよ!」
「ということで、今日はアラスカダンジョンを攻略しながら、新しい武器レーヴァテインをクラフトしようと思います! では、探索開始です!」
氷室さんがモデレーターとしての腕前を披露してくれた。俺たちも負けないように探索者として、頑張ろう!
極寒のアラスカダンジョンには、炎属性の魔剣フランベルジュが相性が良さそうだ。
鞘から引き抜くと、吹雪を斬り裂くように剣が燃え上がった。
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