第5話 初チャンネル登録者

 二層目に下りてきたら、探索者の数を調べてみる。

 階段の近くで戦っている探索者は少なかった。一層のゲーム付近とは大違いだった。


「一層に比べて、2層はモンスターが強くなるので、探索者の数が少なくなっているようです。この層でロックバードとミニゴーレムを狩っていきます!」


 強気でこの層に下りてきた理由は、俺の装備が良かったからだ。

 他の探索者たちがブルースライムとの戦いで、2撃から3撃くらいで倒していた。それに比べて、俺はワンパンだった。

 このスタンダードソードの攻撃力なら、ロックバードとミニゴーレムを倒せると予想した。


 少ないとはいえ探索者たちは俺の周りで戦っていた。

 相手はロックバード。姿はダチョウのように飛べない鳥で、足が長く走るのが早かった。

 長い足を生かした蹴り飛ばしが強力そうだ。

 ここらへんにミニゴーレムはいなかった。たしか、この層でのモンスターの出現比率は、ロックバードが9割、ミニゴーレムが1割だったはず。

 ロックバードを狩りのメインにしながら、ミニゴーレムを探していく流れにしていくのが良いだろう。


「2層目では、ミニゴーレムを探しながら、ロックバードを狩っていきます。理由はミニゴーレムの出現数が少ないからです」


 早速、ロックバード1匹と向き合う。俺よりも少し大きい。あの鋭い足の爪で一撃もらったら、大怪我しそうだ。

 ブルースライムとは格上感がひしひしと伝わってきた。駆け出し探索者たちが二の足を踏むのもわかる。

 ここは先手必勝だ。俺は勢いをつけてロックバードに斬り込む。


「せいっ」


 剣が空を切った。ロックバードが軽快なステップで躱したからだった。

 動きが早いというのは投稿動画で知っていた。観ているのと、実際に狩るのとでは全然違うぞ。

 ロックバードは、そんな俺をおちょくるようにお尻をフリフリしている。

 そして俺を無視してどこかに行ってしまった。


「バカにされているのか……くそっ」


 このロックバードのくせにっ! 剣の錆にしてくれるわっ!

 追いかけようと思ったところで、アプリに通知が届いた。

 新たな機能の追加かなと思ったら、違っていた。


「うおおおおっ!」


 嬉しさで思わず声を上げてしまった。遠くで狩りをしていた探索者がこちらを怪訝そうな顔で見ている。

 気にすることはない。それくらいに興奮させられることが通知でお知らせされたからだ。


「今、くもくものアイテムクラフトのんびり配信中のチャンネルに、記念すべきお一人の登録がされました。ありがとうございます! これからも頑張りますっ!」


 喜んでいたら、アプリから通知にまだ内容が続いていた。


『チャンネル登録者数が1人になりました』

『ユーザーの全ステータスがアップします』


◆東雲八雲のステータス

力  :2 → 5

魔力 :0 → 2

体力 :1 → 3

素早さ:2 → 4

器用さ:2 → 4

魅力 :0 → 1


 おおっ、強くなっているぞ!

 元のステータスが低かったので、今回のアップで倍くらい成長している。

 魅力が0ってなんだよっ! 配信者として致命的過ぎるって。

 でも0から1に上がったので、ここからは魅力的な動画となるはずだ。


 チャンネル登録者数が俺の力の源となるのか。

 それなら、初めて登録してくれた1人を大事にしないといけないぞ!


「チャンネル登録は、くもくもの力となります! よろしくお願いします!」


 言葉のまま、本当に俺の力となるので、ぜひチャンネル登録を押してもらいたい。

 そして外さないでほしいと切に願った。


 強くなった俺は、因縁のロックバードを探した。他のロックバードとは違って、頭にアホ毛みたいなのがあったはず。


「いたっ! さっきはよくもコケにしてくれたな」


 俺は剣を構えて、アホ毛のロックバードと睨み合った。

 そのまま、俺は切り込んでいく。ロックバードも負けじと動き出す。


「うおおおおっ」

「くええええっ」


 互いに交差して離れた後、ロックバードだけが地面に倒れ込んだ。

 よしっ、剣の錆にしてやった。

 ドロップ品のロックバードの石翼を回収する。ステータスがアップして、体が羽がついたように軽い。それに腕の太さは変わらないのに腕力も上がっているようだ。剣を振るスピードが以前とは比べ物にならない。


 登録者数が1でこの強さだ。もし、10とか100にでもなったら……ごくり。

 新宿ダンジョンのボスモンスターをソロで倒せてしまうかもしれないぞ。

 いやいや、今は販売ゴーレムの素材集めだ。


「ロックバードとの戦いに慣れてきたので、どんどん狩っていきます」


 1匹1匹倒していた。それが、1対2、1対3、1対4、1対5という感じで、相手にするモンスターの数を増やしていった。この方が動画映えるしそうだと思ったからだ。


 それもあって、ロックバードの石翼はどんどん貯まっていった。

 代わりにミニゴーレムが見当たらない。困ったな……おそらく、2層でミニゴーレムは珍しいため、探索者が我先にと倒してしまうからだろう。


 そうなると……最下層である3層目に行くべきだろう。そこにはミニゴーレムがたくさんいるはず。

 しかし、他にもう一体危険なモンスターがいる。ボスモンスターだ。

 ボスモンスターは特別な部屋の中に鎮座しているから、大丈夫だろう。


 ロックバードの石翼も50個が手に入っているし、下の層へ行こう。

 この層で探してみたけど、ロックバードばかりだ。


「ロックバードの石翼が集まったので、最後はミニゴーレムの心臓を10個です。2層目ではミニゴーレムが見つからないので、最下層に向かいます!」


 初級ポーションを飲んで、しっかりと回復する。

 リフレッシュ! 全回復だ!

 ダンジョンの構造は動画で予習済みなので、すぐに下へ降りる大階段が見つかった。


「では、下りていきます。この下にボスモンスターがいると思うと緊張します」


 今日はボスモンスターとは戦うつもりはない。

 しかし、進むと気温が段々と下がっていくのを感じた。最下層は上の層とは違う。


「寒くなってきました。ここは薄着でくると風邪を引きそうですね」


 スタンダードアーマーは軽装であるため、より寒さを感じてしまうのだろう。

 最下層に着くと、地面が所々で凍っていた。


「地面を見てください。足を滑らせないようにっ……痛っ」


 説明をすることに気を取られて、地面の氷に足を取られてしまった。


「気をつけないと、このようになります」


 腰をもろに打ち付けてしまった。新宿ダンジョンで初めての大ダメージである。


「ちょっと待ってください。初級ポーションで回復します」


 飲むと立ちどころに腰の痛みがなくなった。

 そういえば、父さんや母さんがよく腰が痛いと言っていた。普通の飲み物として、こっそりポーションを飲ませてみようかな。親孝行をするべきかなと思っていると、


「うああっ」


 ミニゴーレムが俺を襲ってきた。腰下くらいしかないサイズで、見た目は弱そうだ。

 しかし、硬そうな石の拳が風を鳴らして、振り回してくるので、当たれば骨が折れそうだった。


 たしかミニゴーレムはとても硬いモンスターだったはず。正当法の攻撃なら、剣より鈍器を用いるのが良いとされている。今の俺には、このスタンダードソードしかない。


 今の俺のステータスと剣の性能をここで試させてもらう。


「いざ、尋常に勝負だ!」


 せいっ、やぁー。俺の二段斬りが、ミニゴーレムを斬り裂く。

 振り回していた危なっかしい右腕を斬り落とした後、胴体を両断した。


「よしっ、倒せた!」


 いけるぞ。あの硬そうな体を斬ることができたぞ。

 なら、動きの遅いミニゴーレムは、容易に倒せる。ブルースライムよりも楽かもしれない。


「えいっ、えいっえいっ、やぁー!」


 一度にミニゴーレムを4匹屠ってしまった。

 ドロップ品を拾っていく。ミニゴーレムの心臓は残り5個集めればいい。

 楽勝だな。


 あっという間に、ミニゴーレムの心臓が10個集まってしまった。

 これで販売ゴーレムをクラフトできる!

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