第39話 急上昇
昨日のニュースから、朝起きてみると……なんとチャンネル登録数が9000人を超えていた。
とうとう俺ことくもくもがダンジョン神だという情報が広まり始めたのだ。
今まで投稿した動画がランキングに食い込み出していた。
この調子なら、家に帰った頃には登録者数が雪だるま式に増えているだろう。
くもくもの人気が急上昇中である。
有名ダンジョン配信者としての憧れはあった。
しかし、これほど急激な変化に俺自身がついて行けていない感じだ。
それに、このまま有名になってしまうと……両親にバレること間違いなし。
どうしようかな……探索者をしていることが知られたら最悪の場合、引退も覚悟しないといけないかも。
まだ俺のダンジョン探索は始まったばかりなのに無念である。
身支度をして、朝食を食べているときに見た朝のニュースも、ダンジョン神についてだった。
どうやら、ダンジョン神が未成年だということと、ダンジョン配信者でもあることが話題となっていた。
配信動画について、俺の顔がモザイク加工されて報道されている。
父さんが食パンを食べながら、ダンジョン神の声が俺に似ていると言い出した。
「八雲の声に似ているな」
「そうだね」
「あら、本当ね。八雲だったりして」
「あはは、それはないだろ。沖縄ダンジョンでLIVE配信された日付のときは、八雲は家にいたろ」
「冗談よ」
「……そうだね」
俺は同じ言葉しか言えない機械みたいだった。
両親が興味を持って、くもくものチャンネルを覗いたら、冗談ではなくなってしまうだろう。
俺は逃げるように登校した。途中、仁子さんと合流。
ことの経緯を説明して、助言を求めるが……。
「自業自得かも」
「それはわかっているけど、ダンジョン探索を続けられる何か良い方法をご教示してください」
「両親から独立するとか」
「まだ未成年だよ」
俺の必死さが伝わったのか……仁子さんが熟考し始めた。
彼女は先輩探索者だ。これは何か良い手があるのかもしれない。
そして、仁子さんはあっけらかんと言った。
「無理ね」
「そんな……」
「親に黙ってダンジョン探索をしている八雲くんが悪いし。一度、叱られるべきかと」
「それは甘んじて受ける。だけど、ダンジョン探索が!」
「なんとかなるんじゃない。国が動いていることだし」
マジか……親子のことに国が関与してくるのか!?
そっちのほうが恐ろしいって。
仁子さんの顔を見る。一切笑っていない真顔だった。
「八雲くんがダンジョン神をやめちゃうと、私がなんのために転校してきたのかがわからなくなるし」
「確かに……」
「それよりも、ほらチャンネル登録数が1万人超えたわよ」
「えっ、本当!? おおおっ、やった! いやいや、今は喜んでいられないって」
「そうね。ニュースで報道されているし。学校で八雲くんはどうなってしまうのでしょう」
「そこだけ、楽しそうに言わないで」
仁子さんが嬉しそうに駆け出していく。
「有名になるって結構大変なんだから、八雲くんも身を持って知るといいわ」
仁子さんはランクS級探索者として、タルタロスのギルド長の娘として、頭に角が生えた珍しい容姿として、大いに目立ってきたのだと思う。
顔に出さないけど、もしかしたら苦労を沢山してきたのかも。
そして、俺も学校でどのような扱いになってしまうのだろうか。
「なんか、緊張してきた」
「いつも通りでいいのに」
「そういうわけには」
校門近くでは、思っていたよりも注目されなかった。
ホッとしていると仁子さんに笑われた。
「普段、同じ高校といえど八雲くんを知らない人たちだからね。どちらかというと私の方に視線を感じるわ」
「なんだ。ビクビクして損した気分だ」
なんて思っていたら、教室に入ったら違っていた。
クラスメイトたちが俺へ向かって押しかけて来たのだ。
「東雲、お前がダンジョン神なのか!?」
「ダンジョン神って本当?」
「配信者のくもくもだよね。顔や声が同じだし」
「チャンネル登録しておいたから、よろしく!」
いやいや、何がよろしくだ。みんな、一気に話しかけ過ぎだ!
俺は詰め寄るクラスメイトたちによって、もみくちゃにされる。
そして、いつの間にか仁子さんは離れた位置にいた。俺が目線を送ると、小さく手を振ってみせる。
「ヘルプ、ミー!」
「なんで英語なの?」
焦って助けの呼び方が外人仕様になってしまった。
それくらい、クラスメイトたちの勢いは凄かった。
質問攻めに次ぐ質問攻め。もはや尋問だ!!
「はいはい、皆さん、お静かに!」
仁子さんがやっと割って入ってきた。
「八雲くんはご存知の通り、ダンジョン神です。私は彼を護るために、国の協力の下でタルタロスギルドから派遣されました。何か聞きたい場合は、私を通してくださいね」
丁寧語で言っているけど、すごく威圧感があった。
そのためか、クラスメイトたちは静まり返った。そして、俺はやっと解放された。
息も絶え絶えに自分の席に座る。
「おはよう、大変なことになったな」
隣の席の友人が、仁子さんをチラチラと見ながら話しかけてきた。
「まさか、ニュースで報道されるとは思ってもみなかった」
「ダンジョン配信をして有名になりたいって言っていたし、よかったんじゃね」
「それはそうだけどさ」
「で、どうする? 今日からダンジョン神って呼んだほうがいいのか?」
「冗談はやめてくれ。いつも通りでお願いします!」
「おう。じゃあ……くもくも、先生がお呼びのようだ」
「ええっ」
教室のドアを見ると、担任が俺を手招きしていた。
そして、仁子さんも呼ばれている。
「東雲と片桐、ちょっといいか?」
「「はい」」
俺と仁子さんが席を立ち上がると、クラスメイトたちがどっと盛り上がった。なんでこういうときだけ、興味津々なんだ。
いつもは友人ではない人のことなんて、興味すら示さないのに……。
仁子さんが落胆する俺の肩に手を置く。
「これで八雲くんも有名人の仲間入りね」
「お手柔らかにお願いします」
「それは担任の先生が決めることかも。行きましょう」
なんだろうか……担任は俺たちをどこへ連れて行こうというのか。
職員室に入って、更に奥へ進む。
そこは校長室だった。
あっ、この禿頭を見たことある。なんて思っていたら、校長先生だった。これほど間近に向かい合ったのは初めてだった。
校長先生の隣には見知らぬ女性が座っていた。なんというか、校長先生がとても気を使っているように見える。
お葬式で着るような真っ黒なスーツ。それを着こなす女性は立ち上がると、俺と仁子さんに名刺をくれた。
「普通ならこのような物は渡さないのですが、今回ばかりは特別です。私は公安の西園寺朱音と言います」
「はあ……はっ!?」
名刺を受け取って、俺は校長先生と担任を見た。
二人とも、この状況に困惑しているようだった。
仁子さんは平然としており、西園寺さんに話しかける。
「パパがお世話になっています。私がこの高校へ転校するときも取り計らってもらったとか」
「いえいえ、お気になさらず。ランクS級の探索者さんはお忙しいとお聞きしていたので、まさか東雲さんの護衛を引き受けてもらえるとは思ってもみなかったですよ」
「八雲くんはダンジョン探索に革命を起こした人ですから、当然ですね」
「公安としても、彼の重要性にはしっかりと認識しております」
なんだろうか……ダンジョン神の俺を差し置いて、仁子さんと西園寺さんがバチバチやり合っている感じがするぞ。
校長先生と担任が見ていられないくらいにオロオロしているし。
そんな中、校長先生が勇気を出して、二人に声を掛けた。
「立ち話もなんです。まずは座って話しましょう」
そう言われた仁子さんと西園寺さんはまず向かい合うように座った。
俺は仁子さんの横に腰を掛ける。続いて担任は西園寺さんに気を使いながら隣に座った。
残された校長先生は両者の顔が見えるように間の席に。そして深呼吸して口を開く。
「東雲くん、ここへ呼ばれたことは、おおよその察しがつくかね」
「はい。簡単に言えば、俺がダンジョン神ってことがバレたからですか?」
「まあ、そういうことだよ。校則ではダンジョン探索をしてはいけないことや、ダンジョン配信をしてはいけないとはされていない。今問題となっているのは君が日本にとって、とても重要な人物だったということだ」
校長先生が気を使いながら西園寺さんの方を伺う。
「ここからは私の方から話しましょう。東雲くんが作り出した販売ゴーレムによって売られているアイテムが、とても希少な物ばかりなのはお分かり?」
「それはもちろんです。これでも他のダンジョン配信動画はかなり見ていますから、便利なアイテムだと自負しています。実際に使われている動画も沢山投稿されていましたし」
そのおかげで、初級ポーションを作ってみた動画は、大量の投稿動画によって埋もれてしまった。
「東雲さんのクラフトアイテムは、彼にしかできない物です。国としても、彼にはこれかもダンジョン探索を続けてもらいたいし、アイテムクラフトをしてほしいと思っています」
「それはギルド側も同じですね」
仁子さんがにっこりとした顔で話を続ける。
「要は、八雲くんが思ったよりも早く有名になりつつあるから、高校の方でも協力してくれるってことかしら」
「ええ、その話は先程校長先生としました。東雲さんを天然記念物のような保護を求めました」
天然記念物って人間に適用されるものだっけ?
なんか人間扱いされていないような気がしてきたぞ。
でもダンジョン神だから、そういうことなのか?
俺と一緒に担任の先生は首をひねっていた。
たぶん俺と同じことを考えていると思う。東雲、お前って天然記念物なのかって目で見ているし。
西園寺さんはそんな俺に問いかける。
「東雲さん、今日のご家族は家にいますか?」
「仕事が終わった夕方ならいると思います」
「それはよかった。今日中に家庭訪問をしましょう。皆さん、よろしいですね」
校長先生が頷くと、それを見た担任は釣られるように首を縦に振った。
仁子さんも「うんうん」と言っている。
「では、決まりましたね。東雲さんのダンジョン探索をバックアップできるように、頑張りましょう!」
あれ……俺はまだ頷いてもいないのに、話が勝手に進んでいくぞ。
でも、みんなで両親を説得してくれるなら、これ以上ないくらい心強い味方だ。とりあえず、両親に今日の夕方から家庭訪問があるとだけ、伝えておこう。
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