第52話 有名配信者?

 とうとう、くもくもチャンネルの登録者数が70万人を超えた。

 今もすごい勢いで増えている。

 飛ぶ鳥を落とすとは、このことだろう。


 有名配信者として名が轟きつつあるので、高校においても俺を知らない人はいない感じだ。

 一緒にいる仁子さんも有名人なので、とても目立ってしまう。


 それとクラスメイトのほとんどが、なんと俺のチャンネルを登録してくれていた。

 嬉し限りだが、身近な人達に配信を見られていると思うとちょっと恥ずい。


 そして、担任の先生や校長先生まで俺のチャンネルに登録してくれていた。


 監視目的だろうか……。

 二人からは、勉学とダンジョン探索の両立を頑張りなさいと言われた。一応、公安の西園寺さんが言っていた通り、高校は俺に配慮してくれているようだ。


 休憩時間は教室に沢山の人たちが俺の様子を見に来て、なんだか落ち着かなかった。

 これが有名になるということか……改めて実感した。


 仁子さんはそんな俺に、有名になるっていろいろと大変なのだと力説する。


「日常生活は以前と同じとはいかないわよ」

「そうだね。視線をすごく感じる」


 自意識過剰ではなく、めっちゃ直視してくるから、慣れるまで時間がかかりそうだ。

 学校中の人たちから、監視されていたら帰宅時間となった。

 授業はしっかりと聞いていたので、今も頭に焼き付いているほどだ。この集中力はもしかしたら、ステータスがアップしたおかげかもしれない。


 仁子さんと帰りながら、今日のダンジョン探索について話し合う。


「とりあえず、納屋に集合でいいの?」

「そうだね。ポータルを何処に繋げようかな。昨日のところからでいいかな?」

「えっ、ゲートではなくて、途中から再開できるの?」

「うん。マッピングが終わったところなら、どこへでも行けるよ」

「超便利! 帰還で簡単に帰れるし。一度訪れたら行きたい場所にも行けるって……。普通なら第一層から下りて、帰りは上がるのに、八雲くんには探索者の常識は通用しないようね」

「そのおかげで高校でもダンジョン探索できているんだ。交通なしでダンジョンへ直行だからね」

「時間もコストだから、移動時間もないのもメリットね。海外のダンジョン探索は考えているの?」

「う~ん、できればしたいけど。今は国内のダンジョン探索で力を付けてからかな」


 今日の朝、父さんが読んでいた新聞では、ダンジョンを軍事利用しようとする国があるようだ。

 そういった国には行きたくはない。


 西園寺さんに予め相談しておいた方がいいだろう。一応、国の力で護ってもらっている。

 勝手に他の国のダンジョンへ行ってしまうと、西園寺さんの面子を潰してしまうかもしれない。

 日本に住んでいる以上、公安とは友好的でありたい。

 そんな俺を仁子さんは不安視する。


「あまり公安に近づきすぎないようにね。あの人達は八雲くんに好意を寄せているわけではないから。利用価値があるから、そうしているだけ。それを忘れないでね」

「俺の知る由もないところで、大人の事情が絡み合っているのかな?」

「ぐるぐる絡み合っているわよ。巻き取られないようにしないとね」


 公安とは程よい距離を保ちながら、関係だけは続けないとな。


「ギルドの方はどうなのかな?」

「八雲くんの好きにすればいいと思う。タルタロスは中立かな。特に君から何かを求めていないし。でも、メビウスには気をつけて、あそこは悪い噂しか聞かないから」

「俺もそれは知ってる! だって、販売ゴーレムのブラックリスト入りにそのギルド所属が多かったから」

「この際、メビウスギルドの関係者すべてをブラックリスト入りしておいたら、どう?」


 後々トラブルになる前に目を摘んでおくわけか。

 確かにポーション系や蘇生のペンダントなどを溜め込まれると、メビウスに力を与えることになる。

 俺は即断で、メビウスに関係する者をすべてブラックリスト入りさせた。


「うあああ、とんでもない人数がブラックリスト入りされていく。こんなにいるのか……」

「日本の三大ギルドの一角だからね。裾野は広いわ」

「これでなんとかなるかな」

「十分すぎるわ。八雲くんからアイテム供給が絶たれるギルドに属したい探索者はいない。後は勝手に衰退していくでしょうね」


 仁子さんが言う事が本当なら、俺は大手ギルドを手玉に取る力を持っているみたいだ。

 あまりブラックリストを使って力の行使をしたくない。だが、危険要素がわかっているのなら、火の粉である間に消しておきたい。燃え上がってからでは遅いのだ。


 ダンジョン配信動画で炎上して引退していく配信者をたくさん見てきたので、痛いほど実感していた。


「メビウスが衰退したら、国内の大手ギルドが2つになるけど大丈夫かな?」

「問題ないわ。八雲くんがいるからね。君が販売ゴーレムを置いてから、小さなギルドが力を付け始めているわ」

「そうなんだ」

「だって、八雲くんのアイテムがあれば、いままで探索できなかったダンジョンにも挑戦できるからね。そういうダンジョンは、大手ギルドに所属しないと難しかったの」

「そういえば、強い武具は高価で探索者はギルドから借りているんだよね」


 販売ゴーレムで、俺も武具を売り出せばいいかなとも思ったこともある。

 しかし、モンスターを倒して素材を集めて強い武具を作るのは、ダンジョン探索の醍醐味だ。

 だから、俺は回復や蘇生などのアイテムに絞って、供給していた。

 仁子さんはそれに賛同してくれる。


「八雲くんの考えは、良いと思う。君がクラフトする武具は強すぎるから、与える人を見極めたほうがいいわ。むやみに不特定多数に売るのは危険よ」

「やっぱりそうだよね。ミスリルソードでも数億円するみたいだし、これぞと思う探索者に出会ったときに考えるよ」

「あっそうだ。魔法系のリングは、絶対に八雲くんだけにして! あれは君だけが使った方がいい」


 俺がクラフトした魔法リングは、威力があり過ぎる。他の動画配信者が扱う魔法とはレベルが違った。

 仁子さんが言う通りだ。他の探索者が扱って、もし炎魔法メルトなんて使われまくったら、大惨事になってしまうだろう。


 初級ポーションや中級ポーションなども、提供方法を厳格に決める必要がありそうだ。

 有名になると、直接俺にそれらのアイテムを欲しがる者が現れる。今日の学校でも、そのようなことをいう人がいた。


 仁子さんが俺のマネジャーのように話に割って入って、丁重にお断りをしてくれていた。

 今日のLIVE配信で、アイテムを俺に直接求めないように啓蒙しないと! 

 それらアイテムを得れるのは販売ゴーレムのみと、しっかり伝えよう!


 まあ、中級ポーションは、夢のような回復アイテムなので、みんなが欲しがるのはよくわかる。だからといって、ホイホイとあげていたら、それを得るために頑張っている探索者たちに申し訳ない。


 仁子さんと会話をしている間に、彼女の屋敷まで着いてしまっていた。


「ちょっと待ってて! すぐに用意をするから」


 待つこと5分。仁子さんは屋敷から出てきた。

 手には大きな荷物を持っている。多分、彼女の装備一式が入っているだろう。


「準備完了、行きましょう」

「仁子さんのお父さんには、今日の探索について連絡している?」

「さっきしたわよ。第2階層から探索を始めると言ったら、びっくりしていたわ」

「ギルドの応援に行かなくてよかったの?」

「今のところ大丈夫だって、メタルスライム狩りに忙しいみたい」


 メタルスライムのドロップ品を集めて、中級ポーションを得るために頑張っているという。

 あのアイテムは、失った手足でも元に戻してしまうほど強力だ。だから、怪我によって引退を余儀なくされた探索者を救済のために集めているのだという。


「タルタロスは、高難度のダンジョンを探索することが多いから、怪我人も後を絶たないの。優秀な探索者が怪我で引退するのも珍しいことではないからね。中級ポーションでギルドの戦力の底上げを狙っているみたい」

「探索者の役に立つなら、俺としても嬉しいよ」

「知床ダンジョンが全面開放されたら、きっと探索者でごった返すでしょうね」

「回復するときに、めっちゃ痛いことがあるから注意だけど」


 仁子さんに俺の両親が中級ポーションを飲んだときのことを教えた。

 すると、彼女は笑い飛ばしながら言う。


「そのくらいなら、我慢できるわよ。失った手足がもとに戻るなら、痛みくらいなんてことはないわ。それに探索者は怪我に慣れっこだから、痛みには強いのよ」

「そっか……父さんと母さんは探索者じゃないしな」


 一般人の両親と探索者を比べても仕方ない。

 仁子さんに中級ポーションを得たタルタロスの状況を聞くと、続々と探索者が前線に復帰しているようだ。


「タルタロスとして、八雲くんにお礼を言うわ。ありがとう! さすがはダンジョン神ね」

「今日もアイテムクラフトを頑張るぞ!」

「おう」


 俺の家が見えてきた。

 今日も知床ダンジョンで探索の続きだ。LIVE配信をすることは、事前に視聴者たちにお知らせしている。


 既に5万以上が、LIVE配信が始まるのを待機していた。

 どのようなクラフトレシピがもらえるのだろうか。俺も楽しみだ!

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