第67話 飛行登校

 さっきから欠伸が止まらない。

 なんて思っていると、また欠伸だ。

 勉強が乗りに乗って、深夜を通り越して夜明けまで頑張ってしまったからだ。


「頑張りすぎたかも……こういう時は!」


 中級ポーションだ。

 アイテムボックスから取り出して一気飲みだ!

 飲み干したら、眠気が吹き飛んでお目々パッチリ、徹夜の疲れも消え去っていた。


「これがあれば無限に勉強にできる!」


 テスト前の追い込みは、睡眠しなくても良さそうだ。

 今の手応えだと、かなり良い点が取れそうだ。このまま、頑張れば学年一位も取れそうな気がしてきた。


「よしっ、体の調子も絶好調だ」


 昨日のファフニール戦によって、死にまくったことで何らかの影響があったらどうしようかと思っていたけど杞憂だった。

 蘇生のペンダントを繰り返し使ったことでの副作用は無いようだ。

 多分、死んで蘇った回数は俺が一番だろう。

 これだけ身をもって試したので、安全性は今のところ問題なし。

 確認した限りでは俺がクラフトするアイテムは副作用がないので、ノンリスクで使いまくれるのが良い点だ。


 もし、副作用があったら、配信で炎上しそうなので、ほっと胸を撫で下ろす。


「これからは自信を持って、どんどん勧められるな」


 強いて言えば、中級ポーションの回復痛くらいだ。

 そこだけは、我慢してもらうしかない。


 朝の支度をして、もぐもぐと朝食を摂っていると、SNSに通知が届いた。

 誰だろう?

 確認してみると、西園寺さんからだった。


 アメリカにあるワシントンダンジョンへの日程だった。

 知床ダンジョンが予定よりも早く、攻略できそうなので予め西園寺さんに伝えておいたのだ。


「マジか! 今週の日曜日ってすぐじゃん!」


 俺は日程調整にある程度かかると思っていたので、こんなにも早く探索できるとはびっくりだ。

 アメリカ政府は、俺とのコネクションを持とうとして、VIP待遇で出迎えてくれるらしい。


 一時は俺のためにワシントンダンジョンを貸し切りにしてくれるとも言っていたくらいだ。

 それは他の探索者の迷惑になるので、丁重にお断りした。


 アメリカ政府としては、自国の探索者は少々やんちゃなため、気を使ってくれたみたいだ。しかし、それを含めて外国のダンジョンを楽しみたいと思っている。


 それよりもとても気になっているのは、今回のワシントンダンジョン探索に、西園寺さんが同行してくれることだ。


 日本で初めてのS級探索者である彼女とご一緒できるのは、かなり勉強になりそうである。

 普段会ったときの身のこなしからは、まったく探索者らしさを感じられない。


 西園寺さん曰く、そんなに期待しないで欲しいと謙虚に言っていた。果たして実力はいかに!?


 なんて思っていると、母さんから一言。


「早く食べないと遅刻するわよ」

「おっと!」


 朝食を綺麗に完食して、流し台に置く。

 歯磨きをして、髪型を整えて……よしっ、完璧!


「行ってきます!」

「はい、いってらっしゃい」


 父さんはすでに家を出ていたみたいだ。

 昨日の夜、遠くへの出張があると言っていた。管理職になるといろいろと大変なようだ。

 中級ポーションを数本渡しておいたので、おそらく元気に返ってくることだろう。


 さて、登校だ!

 いつもなら、自転車に乗って行くところだが、今日は一味違う!


 今の俺は空を飛べる!!


 ステータスをギア6に変更。

 背中に生えた小さな天使の翼を動かして、離陸準備は完了。


 雲ひとつない空へレッツゴー!


「ヤッヒィ~!」


 空を飛ぶって、こんなにも気持ちいいのか!

 家の上を旋回してから、仁子さんの家に向かって一飛びだ。


 あっという間に到着してしまった。

 地面に着地しようとしたとき、すでに仁子さんが玄関の前で待っているのに気が付いた。


「仁子さん、いつもより早いね!」

「実はね、私も魔力探知ができるようになったのよ」

「マジで! 昨日の今日だよ。早すぎない」

「八雲くんから分かれてから、鍛錬したのよ」


 そして、仁子さんは得意げに背中を見せてきた。


「あっ、翼が生えている!」

「ファフニールを倒して手に入れた力の一つよ。八雲くんの力を借りなくても、飛べるようになったわ」


 なんと話を聞くに昨日、知床ダンジョンから飛んで家に帰ってきたのだという。


「飛行機を追い越して帰ってきたわ。もちろん、操縦士にも挨拶しておいたわ」

「それはビックリされただろうね」


 飛行機の操縦士が唖然とする顔が目に浮かぶ。


「飛行機が飛ぶ高さって相当高くない。息とか寒さとかいろいろと大変なんじゃない?」

「私は別に平気だし」


 そう言われて納得するしか無い。

 仁子さんの耐久性は、尋常ならざるものがある。

 宇宙ですら、息を止めていたら大丈夫かもしれない。


「では、学校にいきましょう。もちろん、飛んでいくわよね」

「飛べるようになったし。どんどん慣れておきたいからね」

「注目を集めるけど、大丈夫?」

「もう慣れたよ」


 ダンジョン配信者としてそこそこ有名になり、既に学校中で俺の名前を知らない人はいないくらいだった。

 それに昨日のLIVE配信で、空を飛べることがバレている。

 今更、空から登校しても、やっぱり飛んできたかと思われるくらいだろう。


「飛行に磨きをかけたいし。それなら日頃から飛んでおいた方が良いじゃないかな?」

「それは賛成ね。私だってそのために、知床ダンジョンから飛んで帰ってきたくらいだし」

「じゃあ、行こうか!」


 俺たちは軽くジャンプして、飛行を開始した。

 やっぱり、空を飛べるって気持ちいい!


「高めに飛んでみる?」

「いいね。あの渡り鳥くらいの高さはどう?」


 ちょうど渡り鳥が学校の方角に飛んでいた。


「なら競争ね」

「よ~い、どん!」


 俺たちは渡り鳥の輪の中に加わって、学校に向かった。

 この高度で体は大丈夫かなと思ったけど、ステータスで強化されているため、なんとも無かった。

 それどころか、冷たい空気は心地よく、遥か下に見える街は新鮮だった。


「そろそろ学校が見えてきたね」

「もう少し飛んでいたいけど、残念」


 仁子さんはまだまだ飛び足りないようだった。

 でもこれ以上は空中散歩になってしまう。

 遅刻はしたくないので、飛ぶのをやめた。


「これはもうスカイダイビングだ」

「パラシュートなしだけどね」


 垂直落下していく俺たちはどんどん加速していく。

 これはこれで面白い! まるで遊園地のアトラクションだった。


 地面が間近に近づいたときに、翼を広げて急ブレーキ!

 そして、ゆわっと着地して登校している学生たちに加わった。

 皆が突然俺たちが空から落ちてきたから、びっくりしていた。

 それを気にすることなく、俺たちは高校へ向かって歩く。仁子さんは上機嫌だった。


「ファフニール戦を頑張ったかいがあったわ。飛べるって最高!」

「仁子さん、翼をしまわないと」

「おっとそうだね。小さいけど、普段は邪魔だよね」


 そうなのだ。翼を出しっぱなしにしていると、何かと引っかかって動きにくいのだ。

 それは間には翼が無いので、通路や部屋の作りがそれに合わせて作られていないことが原因だった。


「あっ、そうだ。仁子さん、ワシントンダンジョンの日程が決まったよ。今週の日曜日の朝9時からだよ」

「えっ、意外に早いじゃん。たまには公安も良い仕事をするわね」


 仁子さんはまたしても上機嫌になった。

 それほどワシントンダンジョンを楽しみにしていたのだろう。

 俺も同じだ。週末が待ち遠しい。

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