第66話 東雲家3
ただいま! 帰ってきました。
納屋の中は真っ黒だった。スマホで時間を見ると、夕食まで少しだけ余裕があった。
俺は装備を解除して、家へ向かう。
その時、アプリから通知が届いていた。
ん? なんだろう?
『風の試練を達成のお知らせ』
『アプリにリペアの機能が追加されました』
『称号:風を統べる者を得ました』
『新たな試練が解放されました』
おおおっ、なんかいっぱい通知が来たぞ。
まずは風の試練は無事に達成できたようだ。
そのご褒美として、武具を修理できる機能が得られたようだった。
試しに、ファフニール戦で刃がぼろぼろになってしまっていたフランベルジュのリペアをしてみる。
◆フランベルジュのリペア素材
・ミスリル ✕ 1
たったのミスリル1個でできるようだ。
これは有り難いとばかりにリペアをする。
アプリにリペア中の文字が表示されて、数秒で完了となった。
アイテムボックスから、魔剣フランベルジュを取り出してみる。
「すごい! 新品同然だっ!!」
それから、防具もくたびれてきたので、まとめてリペアした。どれもミスリル1個で済んだので、アイテムクラフトするよりも、とてもお得だった。
心機一転と言った感じで、次のダンジョン攻略にも力が入りそうだ。
俺はホクホク顔で、今度は『称号:風を統べる者』を調べてみる。
アプリの装備欄に、その称号がセットできるようになっていた。
俺は迷わずにセットした。
「マジかよ! すごい……ステータスに補正が入っている!」
◆東雲八雲 種族:人間
力 :7567400(+2575700)
魔力 :9765300(+3345500)
体力 :9837200(+1346600)
素早さ:7364500(+3568900)
器用さ:7536200(+2137500)
魅力 :1000000
固有スキル:バードウェイ、風の心得、疾風迅雷
なんか……見知らぬ項目が増えているぞ。
固有スキルだ。
しかも3つもあるし……これらが『称号:風を統べる者』で得られた力のようだった。
鑑定で調べてみよう。
としたいところだけど、そろそろ夕食の時間だ。
まあ、焦ることもない。次のダンジョン探索までに調べておけばいいだろう。
俺は家に入って、リビングに向かう。既に父さんが食卓に座っていた。
俺は母さんが作った料理の配膳を手伝う。
「あら、八雲……今日は仁子さんはいないのね」
「うん。ギルドの仕事があるみたい」
「そうなの。今日も来ると思って仁子さんの分まで作ってしまったわ」
母さんはすごく残念そうだった。
「仁子さんに今度、家に来れるか聞いてみるよ」
「あらそう? その時は前もって教えてね」
「わかったよ」
料理が食卓に並んでみんなで食べていると、父さんがスマホを急にいじりだした。
いつもは、食事中にスマホを触るなとうるさいのに、どうしたんだろう?
「八雲、これを見てみろ?」
「何……あっ! これって」
「そうだ。この前、お前がなんとなく買ったと言っていた会社だ。ダンジョンの資源を使って、次世代コンピューターの開発に成功したようだ」
「へ~、すごいね」
記事の内容を読んでみると、そのコンピューターの処理速度は、現在の100倍にもなるらしい。
そして、父さんは俺に向けて真剣な顔をした。
「この会社の株をどれくらい買ったんだ?」
「そう言えば言っていなかったね。5億円くらいだったかな」
「ご、5億円っ!?」
しまった! 母さんが大声で反応してしまった!
そしてずっと食事を忘れて、目をパチクリさせていた。
母さんは、俺が株取引しているのは知っていたが、金額までは知らなかったようだ。
父さんは溜息をつきながら言う。
「何気なくとんでもない金額を言うな……」
「ごめんなさい」
「それで買った株のチェックはしているのか?」
「たまにしているかな。でもダンジョン探索と勉強が忙しくて、買っては放置している感じ」
「なら、今その株の価格を見てみろ」
スマホで株取引のアプリを開いて、価格をチェックしてみる。
「うあああ……めっちゃ上がっている。何倍にもなっているんだけど!」
「それがテンバガーというやつだ。おそらくまだあがるかもしれないな」
「どうしよう。売ったほうが良いのかな」
「それは自分で決めるんだ」
どうしようかな。迷うな。
もう少しだけ持っておこうかな。この会社が開発した次世代コンピューターが一般的になったら、もっとすごいことになりそうだし。
そんなことを思っていると、父さんが手に持っていたスマホを置いて聞いてきた。
「国にダンジョンで得た素材を売っているみたいだが、問題はないか?」
「大丈夫だよ。余った素材を少しだけ売っているから。それにかなりいい値段で買ってくれるんだ」
「その値段の根拠はどう判断しているんだ?」
「タルタロスギルドから、レートを教えてもらっているから大丈夫だと思う。それに国がアコギな商売をするとは思えないし」
「なら、安心した。金額が大きすぎて父さんには想像も付かない取引だからな……何かあったらすぐに相談するんだぞ」
「わかったよ。ありがとう、父さん」
「うむ」
俺の通帳は、どんどん恐ろしい金額を叩き出している。
雪だるま式に増えるとはこの事を言うのだろう。
とんでもない収入となっているため、収める税金もすごいことになりそうだった。それも心配する父さんは、西園寺さんに確認を取ったところ、特別な優遇措置を受けられることになった。
ダンジョンで得られる素材を国に優先的に売って、貢献しているから当然らしい。
今回の知床ダンジョンの攻略でも、西園寺さんは大喜びしていた。どうやら、販売ゴーレムで売り出されているアイテムがお気に召したみたいだった。
国が中級ポーションを使って、医療費の削減に使えないかを検討しているという。
俺は西園寺さんに「転売はできないですよ」とだけは言ってある。後はどうやって、医療費の削減をするかは、国の偉い人に考えてもらおう。
俺はダンジョン探索をして新たなアイテムをクラフトするのみである。
「そうだ! 父さんと母さんにいつものやつを渡すね」
二人に中級ポーションを支給する。
父さんは待ってましたとばかりに、一気飲みをした。
「やっぱり、効くな! これだよ、これ!」
爽やかな笑みをこぼしながら、空になった小瓶を食卓に置く。
初めて飲んで、床をのたうち回った頃が懐かしい。
母さんは、まだ苦しんだときのトラウマが残っており、恐る恐る中級ポーションを飲んでいた。
「あの時は死ぬかと思ったわ。元気になるけど……怖いのよね」
「大丈夫だ、母さん! 今は健康なんだから、痛みはない。それに健康を維持するために飲み続けたほうがいいだろ?」
「そうなんだけど……」
飲み続けて、数日。
息子の俺から見ても、二人は若返っているような気がする。
だって、父さんと母さんの頭の白髪が無くなってきたし、顔の皺が薄れてきたようにみえる。
一ヶ月飲み続けたら、どうなるんだろう?
自分の親を使って、中級ポーションの効果を実験しているのは気が引けるが、本人たちが進んで飲んでいるので良しとする。
俺も飲んでいるし、家族仲良く、実験体だ!
「父さん、最近……お腹が引っ込んで来ていない?」
「そうなんだよ。中級ポーションを飲み出してから、体が引き締まってきている感じでな。今日は帰りの電車から家まで、走って帰ってきたぞ。疲れ知らずだ!」
「マジで……」
父さんがめっちゃ健康的になっている。
すごいな、中級ポーションの効果は……。母さんも、最近とても元気だし。
二人とも元気が有り余っているようで、食事の後一緒にランニングに行ってしまった。
俺は風呂にゆっくりと入って、勉強に励むことにした。
仁子さんがギルドの仕事で忙しい今、ここで差をつけるのだ!
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