第16話 海底ダンジョン

 イッチニー、イッチニー。準備運動中。

 今日は朝から両親が外出している。夜まで帰ってこない。


 一緒に付いてくるかと聞かれたけど、俺にはダンジョン探索があったため断った。

 ちゃんとお土産を頼んだから、何か美味しい物が食べられるはず。


 納屋で装備を整える。

 うん、ミスリルソードの美しさに惚れ惚れしてしまう。

 早くモンスターを倒したい。今宵のミスリルソードは血に飢えておるわ……なんてな。


 善は急げ。ダンジョンポータルを開く。

 行き先は博多ダンジョンだ。海底ダンジョンとも呼ばれて、モンスターは海に居そうなものばかり出現する。

 光るサンゴ礁や海藻が至るところに点在しており、幻想的な景観から探索者たちのデートスポットにもなっているらしい。


 ポータルが黄金色に変化した。博多ダンジョンへ繋がったサインだ。


「よしっ、頑張ろっ!」


 とうっ!! 勢いよく飛び込んだ。


「ここが博多ダンジョン……海底ダンジョンか」


 スゲエエエェェッ!


 他の人の投稿動画で見るのとはわけが違うって。

 光るサンゴ礁のあまりの美しさにうっとり。淡く光る青や黄、赤、緑……もう虹を見ているかのようだ。


「来てよかった」


 日曜日だからか、探索者の数は大阪ダンジョンよりも多い。

 父さんくらいの歳の大人が結構いる。もしかしたら、社会人の探索者なのかもしれない。

 平日は会社で働いて、休日は探索者。

 将来、俺もそうなってしまうのだろうか。有名ダンジョン配信者になれたら、それだけで食べていけそうだけど。


 そんなことを思っていると、アプリに新しいレシピが届いた。

 待ってました!

 うむうむ……これはすごい!!


◆氷魔法のリングの素材

 ・デビルフィッシュの鱗 ✕ 50

 ・サハギンのひれ ✕ 10

 ・魔石(上等) ✕ 1

 ・魔石(中等) ✕ 5


 魔法が使えるようになる!?

 たしか魔法系の魔導具は、高難度ダンジョンで稀に入手できるらしい。

 所持しているのも、有名ダンジョン配信者か、大手ギルドくらいだと思う。

 そんな貴重な物が俺の手に!

 もうやる気しかない。


 ということで、配信動画を作成するために、スマホのアプリで『録画』を開始した。


「今日は博多ダンジョンに来ています。見てください。この神秘的な世界を。美しいですね。このダンジョンで、氷魔法のリングをクラフトしたいと思います」


 俺は辺りを見回しながら、空いていそうな狩り場を探す。


「どこのダンジョンも出口の近くは賑わっているので、離れてデビルフィッシュを50匹狩ります」


 探索者たちをかき分けて、奥へ進んでいく。

 そうしているうちに二階層への大階段が見えてきた。

 おいおい、どれだけ混んでいるんだ。博多弁での狩り場争いまで聞こえてくるし、この階層は動画撮影に向かないな。


「人がとても多いので下の層でデビルフィッシュを狩ります」


 てくてくと下りていくと、人がかなり少なくなった。

 やっぱり、ここからサハギンというモンスターが出現するからだろう。

 体長は180cmくらい。スラッとした体で筋肉は無駄なく付いている。

 サンゴの三叉槍を持っており、攻撃のリーチが長い。そのため、近づくよりも先に串刺しにされてしまうそうだ。


 要はお亡くなりになる可能性が高い。社会人探索者は危険を犯すことを嫌うと聞く。

 本業の仕事に影響の出ない範囲で活動しているのだろう。

 俺も高校生を本業としている身。本来なら危険を犯すことはしないほうが良い。


 二階層へ着くと、すぐに一匹のサハギンが俺を見つけて襲いかかってきた。

 危険を犯してでも……。


「探索はやっぱりやめられない!」


 サハギンの喉元をミスリルソードで一閃。

 ミノタウロス師匠に比べれば、大したことないモンスターだ。

 ドロップ品のサハギンのひれを拾う。


「サハギンが持つ槍は厄介ですが、ちゃんと相手の間合いを意識すれば簡単に倒せます」


 さて、デビルフィッシュも倒していくぞ。

 どこにいるかな……おっ発見! 5匹が仲良く泳いでいる。

 空中を泳ぐ魚を見ていると、自分は水中にいるように錯覚してしまいそうだった。


「デビルフィッシュは麻痺毒を持っており、噛みつかれると動けなくなるから注意が必要です」


 地面に落ちている石ころを拾い上げて、デビルフィッシュの群れに投げた。

 こちらに気がついたデビルフィッシュは一斉に俺に向かってきた。

 ミスリルソードを鞘から引き抜いて、連続斬り。


「5匹倒しました」


 ミスリルソードを鞘に収めたら、デビルフィッシュたちはドロップ品に変わっていた。

 この剣はすごい性能をしている。とても切れ味が良く、サハギンやデビルフィッシュを斬っている時、まるで空を切るかのようだった。


 これなら、もっと多くの群れをなしていても、倒せそうだ。

 先に進んでいくと、狙っていたモンスターの群れに出会った。袋小路のため、モンスターが溜まりやすいのかもしれない。


「サハギンが15匹……デビルフィッシュが30匹くらいはいます。今から突撃して一掃したいと思います」


 エイッ、ヤー!

 群れの中心に突っ込んで、すれ違いざまにサハギン7匹とデビルフィッシュ12匹を倒した。

 先制攻撃には良い感じ。


 サハギンが仲間を倒されてめっちゃ怒っていた。

 すまない。モンスターと人間はわかりあえないんだ。今まで専門家たちによっていろいろとコミュニケーションを試してきたという過去がある。しかしモンスターは人間を必ず殺そうとしてきた。


 襲いかかってくるサハギンたちを横回転斬りで斬り刻む。ついでにデビルフィッシュも何匹か倒せたようだ。

 残りはデビルフィッシュ8匹だけだ。

 俺は一気に詰め寄って、ミスリルソードを振るった。


「全部倒せました。クラフトに必要なサハギンのひれは十分集まりました。デビルフィッシュの鱗は残り15個です」


 モンスターを探して袋小路から出る。

 そんな俺に声がかかった。


「兄ちゃん、ばり強いね」

「ほんなこつ!」


 二人のパーティーだった。恰幅の良い男たちは、めちゃくちゃ俺を褒めてくれているようだった。

 そして、名刺をもらってしまった。

 読んでみると、大手ギルドの幹部のようだ。

 なんでも有望な新人探索者を求めて、日々スカウトに奔走しているのだという。


「興味があったら、連絡しんしゃい」

「待っとるばい」


 そう言い残すと颯爽と行ってしまった。

 次のスカウトが忙しいようだ。


「九州を拠点としている大手ギルドのナインハウスに声を掛けられてしまいました。ですが、ギルトに入ったら、いろいろと制約がかかりそうなのでやめておきます。自分のペースで探索をしてアイテムクラフトするのが一番です!」


 第三階層への大階段に着いたときには、デビルフィッシュの鱗もたくさん集まっていた。

 もちろんサハギンのひれも一杯だ。


「魔石(上等)は博多ダンジョンのボスモンスターからドロップできます。魔石(中等)は前回の大阪ダンジョンでミノタウロスからたくさんドロップしたので数は潤沢です。三階層に下りたらボス部屋に直行しようと思います」


 今日はすこぶる快調だ。

 このままの勢いでボスモンスターを倒して、氷魔法のリングをクラフトするぞ!

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