第2話 初級ポーション
すごい人混みだ。流石はダンジョン配信者の登竜門。
ダンジョンポータルからの移動で、新宿ダンジョンのどこに出るのか心配していた。
どうやら杞憂だった。他の者と同じようにゲートを通ったように出てきたからだ。
これなら、変に怪しまれることはないだろう。
『ようこそ、新宿ダンジョンへ』
『帰還する場合は、ダンジョンポータルアプリを起動してください』
スマホにアプリが追加されていた。
これを起動すればいいのか。帰る時に試してみよう。
そう思っていると、新たなメッセージが表示された。
『アプリにアイテムクラフトの機能が追加されました』
『新たなレシピが支給されます』
スマホにレシピが出てくる。初級ポーションの作り方だった。
アイテムクラフトできるのっ! しかもレシピを教えてくれる親切仕様だ。
と思ったら、有名配信者が既にやっていたポーション作製の企画に被っていた。
あれっ。俺はレシピを再度見て、首を傾げた。
「必要な素材が違うぞ」
俺が知っている激マズポーションの製法ではない。
◆初級ポーションの素材
・ブルースライムのコア ✕ 5
俺は探索者たちが倒しているブルースライムと見比べた。
えっ、この弱いモンスターのドロップ品でいいの?
激マズポーションを作製した時に観た動画では、キマイラという強敵モンスターのドロップ品に加えて、他のモンスターのドロップ品も複数必要だったはず。
ブルースライムだけとは、にわかには信じられない。初級ポーションと名前も初めてみる。
そんな俺にスマホがさらなる表示をした。
『アプリに動画撮影の機能が追加されました』
『動画撮影を開始しますか?』
『録画モード』と『LIVEモード』の2種類が選べるようだ。
『LIVEモード』は、大手配信サイトのアカウントと紐づければ良いらしい。この日のために、アカウントは既に持っていた。紐付けをしてみるとちゃんとできた。
いきなりのLIVE配信は俺には敷居が高い。まだ、このダンジョンポータルアプリについて、慣れていないこともある。
ここは『録画モード』でとりあえず開始を選んでみた。
「なんだ。どうなっているんだ!?」
撮影にスマホのカメラを使うものだと思っていたら違った。スマホを手にしている俺の映像が画面に映り込んでいた。
俺を撮っているだろう方向を見てもカメラはなかった。
「これはすごい! 見えないカメラマンが俺を撮ってくれているようだっ」
俺が言葉を発すると、勝手にズームインして表情を拾ってきた。
飛んだり、走ったりしてみる。全くといっていいほど、ブレがなく綺麗に撮影ができていた。
ちゃんとした録画やLIVE配信をするには、探索を同行してくれる撮影者が必要だったりする。このアプリさえあれば、一人で全部できそうだな。
試しに、このまま録画を続けよう。それで家に帰って、今回のダンジョン探索動画の鑑賞会をしよう。
記念すべき初めてのダンジョン探索をきちんと動画に残せる!
あわよくば、ダンジョン探索の動画投稿も夢じゃない。
「よしっ、頑張るぞ」
自分自身を鼓舞して、帯剣を引き抜いた。他の配信者の声が入らない場所へ移動して、ブルースライムを探す。
そうだ。動画撮影をしているのに、状況説明をしていなかった。
「ここは新宿ダンジョンです。日本で初めて発生したダンジョンです」
慣れていないため、声が上ずってしまった。
こんなことなら、練習しておけばよかった。
「初級ポーションを作るために、まずは目の前にいるブルースライムを倒して、ドロップ品であるブルースライムのコアを回収していきます」
ゼリー状の体をくねらせたブルースライム。俺に気がついてない間に斬り付ける。
「あれ?」
斬り込みが浅く、ブルースライムの急所であるコアに届かなかった。動画配信で弱点を事前に知っていたが、実際に戦ってみると上手くいかないものだ。
踏み込みが甘いと、ぶよぶよした体で剣の軌道が思ったところにいかないようだ。
「今度は、しっかりと弱点のコアを狙って」
剣先にキンッという手応えを感じた。ブルースライムは、溶けるように消えてコアだけが残った。
コアを拾うと、手の上で消えてしまった。
せっかく倒したのにどこに行った?
『アプリレベルが上がりました』
『アプリにアイテムボックスの機能が追加されました』
『入手した素材やアイテムなどは自動的に収納されます』
なるほど、そういうことか。
ブルースライムを倒したことでアプリのレベルが上がって、新たな機能が追加されたのか。
アプリを開くと、アイテムボックスがあった。選ぶと、先程ドロップした『ブルースライムのコア✕1』と表示されていた。
ソロ配信者にとって、このアイテムボックスはとても相性の良い機能だ。ドロップ品を抱え込まなくて良いので、モンスターとの戦闘に集中できる。
どんどん狩るぞ。
ブルースライムを次から次へと倒していき、アイテムボックスを確認したときにはブルースライムのコアが50個になっていた。
この数なら、初級ポーションが10個も作れる。
よしっ、このまま作ってやろう。念願だったため、早くクラフトしたくて堪らなかった。
モンスターや人がいない場所を探して、移動した。
まずは配信に映えるように、50個のブルースライムコアをアイテムボックスから取り出す。
「頑張って集めた今日の成果。ブルースライムのコア、50個です。1個の初級ポーションを作成するのに、ブルースライムのコアを5個使います。今回はブルースライムのコアが50個なので、10個の初級ポーションが作成できます」
アプリのアイテムクラフトを開き、『レシビ:初級ポーション』を選ぶ。
◆初級ポーションの素材
・ブルースライムのコア ✕ 50
↓
・初級ポーション ✕ 10
と表示されていた。
『初級ポーションをクラフトしますか?』
俺が『はい』ボタンを押すと、地面に転がっていたブルースライムのコアが輝き出す。
そして光が収まったときには、ガラスの小瓶に入った初級ポーションが出来上がっていた。
半信半疑でアイテムクラフトをしてみたけど、予想以上だった。
本来ならクラフトするために専用の魔導器が必要だったりする。
今やったような『はい』ボタン一つで作れるようなものではない。
有名配信者は、黒い大釜で魔法を唱えながら、素材をぐつぐつと煎じていた。
それで出来上がったポーションは黒色で濁っていた。
俺が作ったのは淡赤色で透き通っており、おまけにガラスの小瓶入りだ。
「出来上がった初級ポーションとなります。早速、効果を試してみたいと思います」
一心不乱にブルースライムを倒していたため、握っていた剣を強く持ちすぎて、手のひらはマメだらけになっていた。
「この手が立ち所に治ったら成功です」
1本の小瓶を手にとって、中身を一気に飲み干す。俺の中でポーションは、激マズだという印象があったからだ。
「う、うまいっ! 柑橘系の甘さで飲みやすい。効果の方は」
運動した後に飲む味として、最高の出来だった。
問題は、ポーションとしての効果だが……。
「見てください。綺麗に治っていきます」
時間を巻き戻したかのように、手のひらのマメは消えていった。
つるりとした傷一つない手のひら。
治り方の即効性には目を見張るものがある。使った俺自身も驚いて声が高ぶってしまった。
「これで今日の動画は終わりです。初級ポーションを作ってみました。よかったらグットボタン、チャンネル登録をお願いしますっ!」
いつも観ている動画配信者の真似をするように締め括って、録画を止めた。
早く、家に戻って撮影した動画を確認しよう!
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