不思議なダンジョンポータルでアイテムクラフトのんびり配信中

一色一凛

第1話 ダンジョンポータル


「ダンジョン配信者になりたいなど、父さんは許さん!」

「そうよ、八雲! あなたは高校生らしく勉強だけしていればいいのよ」


 ただいま家族会議の真っ最中。

 ダンジョン配信者になりたいことを打ち明けた途端に否決されて、俺は頭を抱えていた。


 俺も母さんが言ったように勉強だけしていればいいと思ったこともあった。

 そんな俺が勉強に疲れて気晴らしにしていたのが、ダンジョンのLIVE配信だった。


 ダンジョンという世界の中で、配信者が楽しそうに探索する姿を観ていると、現実のしがらみを忘れさせてくれたからだ。特に探索した後、集めた素材を使ってアイテムをクラフトするところが、特に好きだった。

 今日は何を作ってくれるのだろうか。ワクワクしながら観ていた。


 お気に入りは登録者数1000万人超えの大人気ダンジョン配信者による探索LIVEだ。

 流石は有名配信者だ。クラフトに精通しており、内容は他の者より頭一つ抜けていた。

 出来上がったつよつよなアイテムを使って、自分を強化したり、モンスターを次から次へと倒すお披露目回も面白い。


「高校生をしながら、ダンジョン配信している人は今の時代、たくさんいるんだって。この登録者1000万人超えの人も高校生でっ」

「父さんに同じことを言わせるな。駄目だと言っているだろうがっ!」


 普段は優しい父さんも、ダンジョンだけは受け入れてもらえないようだった。

 おそらく父さんの親戚が去年、ダンジョンで亡くなったことが原因だと思う。


 その人もダンジョン配信者だったけど、LIVE配信に1人か2人くらいしか集まらなかったみたいだ。酷いときには0人で、ダンジョンで亡くなったときは丁度その時だった。誰も看取る者がおらずにひっそりと亡くなったという。


 父さんたちは聞く耳を持たない。話はこれで終わりと言わんばかりに、食卓の椅子から立ち上がる。

 そのままリビングから出ていった。


 打ち明けるんじゃなかった。

 だけど、未成年がアイテムクラフトで有名なダンジョンに入るためには、親の許可を必要としていた。

 18歳まで待つしかないのかと思うと、焦れったくてしかたない。


 あと2年間ほども、LIVE配信を視聴するだけで過ごすのか……。

 こっそりダンジョンに入れる方法があればいいのにと、配信動画を検索してみるが良い物は見つからなかった。


「あれば、バズっているか」


 自分の部屋に戻っても、机に座って勉強をする気が起きない。

 ベッドに転がり、配信動画を検索する。【激マズなポーションがぶ飲みダンジョン探索】というお気に入りの有名配信者の動画が目に止まった。


「また新しい動画を上げている」


 どんなに強いモンスターでもポーションがぶ飲みで倒していくという企画だった。

 怪我や疲れなどを回復できるポーションは、素材を集めるのが大変でかなり貴重なアイテムだ。

 たしか前回は、素材を集めてポーションをたくさん作製する回だった。今日は、それを全部使ってのダンジョン攻略回というわけだ。


 配信者はもう飲めないと言いながら、飲まないと死んでしまうと言って、激マズなポーションを無理やり飲む。そしてげっそりとした顔でモンスターを倒しまくっていた。どこまでが本当なのか嘘なのか知る由もない。

 しかし、その様は滑稽で面白くて、堪らずに笑ってしまった。


 親に反対された俺とは違って、この高校生の有名配信者は生き生きとしていた。

 別に有名になりたくてダンジョンへいきたいわけではない。

 素材を集めて、俺もアイテムクラフトをやってみたかった。


「高校生らしく勉強かぁ」


 スマホを枕の上に放り投げる。

 気を取り直してベッドから立ち上がり、机の前に座った。

 そして本棚から教科書を取り出そうとしたとき、窓の外で何かが光っていることに気が付いた。


「なんだ?」


 窓を開けて、光の位置を確認する。

 開いた納屋の扉から、光が漏れ出ているようだった。あそこには、使わなくなった農機具などが収めてあるはず。


 あの青白い光には見覚えがあった。

 ダンジョンへ行くためのゲートが発している光によく似ている。

 まさか、俺の家の納屋にダンジョンがっ!?


 枕の上のスマホを掴む。

 急いで部屋を出て、納屋に向かう。扉を開けて奥に進むと、配信動画で観ているゲートとは違った物があった。


「ゲートじゃない?」


 ゲートはまさに扉のような形をしている。

 だが、目の前にあるのは、円柱の形をした光の柱だった。その下には、見たこともない文字が散りばめられており。その文字が光ったり消えたりしていた。


「なんなんだ……これは」


 光の柱に触れると、持っていたスマホが強い光を放った。

 目が眩むほどの光に瞑っていた目を開けると、スマホに見慣れないウィンドウが出ていた。


『ユーザー認証が完了しました。このダンジョンポータルはあなただけが使えます』

『初回利用に限り、装備が支給されます。受け取りますか?』


 ウィンドウが『はい』と『いいえ』を表示する。


 ダンジョンポータル!? 聞いたことがない。

 ポータルをそのまま信じれば、入口だ。

 ダンジョンの入口……。


 俺は息を呑んだ。

 さっき装備を支給するとか、表示されていたな。

 なら、押すボタンは決まっている。


 迷わずに『はい』を押した。


 全身が光って、形を成していく。収まった頃には、これぞ探索者という装いになっていた。

 軽装で動きやすいが、しっかりとした胸当てがある。そして取り回しの良さそうな帯剣も付いていた。


「やばっ」


 納屋にあったヒビの入った鏡で改めて確認する。間違いなくダンジョン配信者の装いだ。

 いや、それよりも良い装備に見えた。


 スマホに新たなウィンドウが表示される。


『ダンジョンポータルを繋ぐ場所を選んでください』


 とてつもない量のダンジョンが表示された。多すぎて、選べないほどだ。

 スマホを操作していると、行きたいダンジョンを検索できるようだ。

 試しに国を日本、地域キーワードに新宿と入れてみる。

 検索結果に『新宿ダンジョン』と表示された。


「おおおおおっ」


 嬉しさで思わず声が出てしまった。

 新宿ダンジョンは日本で初めて確認されたダンジョンだ。

 ダンジョン配信者の聖地ともされており、駆け出しの配信者がまず最初に訪れるべき場所だった。


『新宿ダンジョンへ繋ぎますか?』


 スマホに『はい』『いいえ』と表示されている。

 ここまで来たら行くしかない!

 俺は『はい』を押した。


 足元の地面に描かれた文字が動き始めて、光の円柱が輝き出す。


『リンク完了』


 光の円柱は青白い色から、金色に変わっていた。円柱からは、光の粒子が飛び出しては消えていく。

 中に入れば、新宿ダンジョンへ行けるようだ。

 俺は迷うことなく、光の円柱へ飛び込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る