第149話 迷いのダンジョン
ん? あれはペリュトンだ。
独特な姿をしているから、よく覚えている。
通路の奥からひょっこり顔を出して、俺たちの動きを伺っている。
「ねぇ、仁子さん。ペリュトンって5階層にもいるの?」
「おかしいわね。ここには発生しないはずだけど」
仁子さんは、襲ってくるペリュトンを見ながら、首をかしげていた。
俺はペリュトンをたたき落としながら続きを話す。
「このダンジョンへ来たのも普通じゃなかったし。モンスターの生息域にも何らかの影響がでているのかな」
「可能性はあるかも」
本来の第五階層は、ロイヤルヘッジホッグというモンスターがいるという。
体中が針に覆われており、一見すると雲丹のような姿だ。
狭いダンジョンを転がって襲ってきて、探索者を串刺しにするために、結構恐れられているモンスターだ。
それを恐れて警戒していたのだが、まさかのペリュトンだった。
足下に転がったペリュトンは息絶えて、ドロップ品に変わった。
またしても、骨付き肉だ。
じゅるり……食いたい。
「もしかして、八雲くん食べる気!? 生はダメよ」
「わかっているって。炎魔法のボルケーノでサクッと焼き上げるさ」
「マジでっ!」
やはり食料を確保しておきたい。この際、美味しそうな匂いにモンスターを引き寄せてしまうかもしれないが、背に腹は代えられない。
ボルケーノの出力を最小限に抑え込んで、放った。
骨付き肉の下から、炎の柱がちょろちょろとあぶり出した。
俺は骨のところを持って、回転させて、焼き目をつけていく。
魔法の炎は、中までしっかり火が通った。分厚い肉も骨まで綺麗に焼くことができた。
「良い匂いがするわ」
「思った以上に、ちゃんと焼けたよ」
俺は焼き上がった骨付き肉を仁子さんに見せる。
彼女も頷きながら、見事な焼き加減だと認めてくれた。
「では、食べてみよう!」
「八雲くんったら、暢気ね。でも、慌てていても仕方ないわね。いただくわ!」
仁子さんは俺に焼けた骨付き肉を両手で持つように言った。
言われたとおりにすると、彼女は手刀で半分こにしてしまった。
すごい切れ味だ。鋭利な刃物で切ったみたいだった。
しかも、手刀を使った仁子さんの手は汚れていなかった。
「すごい技術だね」
「沢山のモンスターを拳で屠っていけば、八雲くんもできるようになるわ」
そういうものだろうか……仁子さんが言うのなら、俺もそのうち習得できるかもしれない。
半分こになった片方を仁子さんに渡した。
では、噂の旨肉を食べるときが来た。
「「いただきます!」」
実食である。
鶏肉のような張りがある。でも、霜降りの牛肉に似た味わいがあった。
うん。肉そのものに、しっかりとした旨味が詰まっており、香辛料や塩などは必要なかった。
「濃厚!!」
「噛めば噛むほどに肉汁がでるわね。やっぱり何度食べても美味しいわ。それに焼き加減が絶品よ」
「火力が決め手なのかも。ボルケーノの熱量は、炭火以上だから」
お昼時だったこともあり、俺たちはお腹が減っていたようだった。
顔くらいある大きさの肉だったが、ぺろりと食べてしまった。
大満足だ。その場に座り込んで、しばしの食後休憩である。
「食べたね」
「もうお腹いっぱいよ」
こんなに美味しいとは俺の想像を超えていた。ペリュトンの肉は鶏肉と牛肉の良いとこ取りだった。スーパーの売り場に並べたら、人気殺到だ。
「こんなに美味しいのなら、探索者たちがいっぱい押し寄せてもいいような気がするけど」
「やっぱり迷いやすいダンジョンだし。ペリュトンというモンスター自体があまり発生しないの。レアモンスターってやつ」
「ああ、沢山取れないんだ」
頑張ってペリュトン狩りをしても、実入りが他のモンスター狩りに比べて少ないのだ。
しかもペリュトンがいる第六階層へ行くためには、危険なロイヤルヘッジホッグがいる第五階層を通らないといけない。そのことがさらにペリュトン狩りを阻んでいるみたいだった。
「レアモンスターなのに、二匹も倒せたね」
「運の良いことだと思うわよ。聞いた話だと、一度の探索で1匹に出会えたら上々らいいわ」
「もしまた会ったら、すごいね」
これほど運が良いのなら、すぐにこのダンジョンを脱出できるかもしれない。
十分休憩をした俺たちは、先に進むことにした。マッピングが使えなくなったため、ダンジョンの壁に印を刻んで、迷わないようにする。
「仁子さん、ここは通ったみたいだ。ここに印があるよ」
「なら、今度は右ではなく左にいきましょ」
順調に上への大階段へ近づいていると感じていた。
その間、気になっていたことがある。第五階層は、毒系のトラップがあるはずだった。
それなのに、全く出会わないのだ。慎重に行動していることもあるが、それでも一度もトラップに引っかからないのは、出来過ぎているように思えた。
仁子さんに相談すると、
「心配し過ぎ。トラップをちゃんと躱しているってことよ」
「……そうだね」
豪快な彼女がトラップに引っかからないのが、俺としては謎だった。
いつもなら、率先してトラップを起動させて、持ち前の耐久力とパワーで破壊するのが仁子さん流だ。
彼女の言うとおり、俺の考え過ぎなのだろう。
そう思っていると、やっと上への大階段が見えてきた。
「八雲くん、急ぎましょ!」
俺たちは大階段を駆け上がって、第四階層へやってきた。
相変わらず、ダンジョンの見た目は第六階層から変わっていなかった。
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