第150話 第六階層
何かがおかしい。何がと聞かれると答えに困ってしまう。そんな感覚的なものだった。
今俺たちがいるのは第四階層のはずだ。しかし、先に進んでいるような気がしない。
仁子さんは樹海ダンジョンが迷いやすいと言っていた。各階層の見た目も同じこともその一因になっているのかもしれない。
今いる階層を忘れてしまうと、どの階層にいるのか全くわからないほど、よく似ているのだ。
「仁子さん、ここって本当に第四階層だよね」
「どうしたの急に?」
「あまりにも下の階層に見た目や構造が似ているような気がして」
「大階段を上ってきたじゃん。ここは第四階層よ」
そう言って仁子さんは意気揚々と歩き出した。この階層でも危険なロイヤルヘッジホッグが現れるらしい。数は第五階層よりも少ないが、狭い通路いっぱいにとげとげの針で攻撃してくるため、注意は必要だ。
「ここは他に地面から攻撃をしてくるホーンモウルがいるからね。でもロイヤルヘッジホッグほどじゃないわ」
「地面を気をつけて歩くよ」
ホーンモウルは地面から飛び出しながら、長い角で串刺しにしてくるモンスターだ。
他のダンジョンにも発生するモンスターで、よく探索者が貫かれてお亡くなりになっている。特に実力の付いてきた中級者が油断して、被害に遭うことが多い。
俺は地面を警戒しながら、ゴツゴツした岩肌のダンジョンを進んでいく。
そして分かれ道に差し掛かったところで、壁に見覚えのある印があった。
「あれっ!?」
「どうしたの?」
俺と仁子さんは、壁に刻まれた印をじっと見つめていた。
そして互いに顔を見合わせて、ないないと手を横に振った。
試しにその印に従って進んでみる。また分かれ道で同じ印があった。
「仁子さん……これって俺たちがつけた印だよね」
「信じたくないけど、間違いなさそうね」
俺たちは本当に嫌な予感がして、入り組んだ通路を走って先に進んでいく。
各所に印がつけられており、今までの記憶と照らし合わせながら先を急ぐ。
すると、通路の奥からひょっこりと顔を出したモンスターがいた。
ん? あれはペリュトンだ
頭が鹿、胴体は鳥だ。特徴的な姿なので見間違えるわけがない。
ペリュトンは俺たちに向かって襲いかかってきた。仁子さんが素早く反応して、ペリュトンの首元に強烈な回し蹴りをヒットさせる。
一撃必殺! まさにこの攻撃を言うのだろう。
ペリュトンは口から泡を吹いて、地面に横たわった。しばらくして、ドロップ品の骨付き肉へ変わった。
俺たちはその光景にデジャブを感じていた。
ちょっと前に俺たちはペリュトンを倒して、ドロップ品の骨付き肉を炎魔法ボルケーノでこんがり焼いた。そして美味しくいただいたのだ。
「八雲くん! この地面を見てっ」
「これって、何かを焼いた跡だ」
まさか……ペリュトンの骨付き肉を焼いた跡か?
だけど、食べた残りの骨はどこにも見当たらない。
俺たちは地面に落ちている骨付き肉をじっと見ていた。とくに意味はない。
混乱している自分を落ち着けるために、視線をそれに合わせていただけだった。
「八雲くん、これってやっぱり……」
「まだ、結論を出すのは早いよ」
もう一度、大階段を上ってみればわかることだ。
俺たちは目印を頼りに、どんどん通路を走っていく。すべての道に心当たりがあった。
「大階段だ」
「行きましょ」
俺たちは大きく深呼吸をした後、大階段を駆け上がる。
そして、次の階層に出るとまっすぐ進んだ。もし、あの分かれ道の壁に印があったのなら、ここは第六階層になってしまう。
先に壁を見た仁子さんが、がっかりしながら俺に言う。
「私たちは第六階層をループしているわ」
「あああ……これは困ったね」
そうなると、俺たちがここへ来ることになったエレベーターがあるはずだ。
俺たちは第六階層をくまなく歩いて探した。でも一向に見つかる気配がなかった。
「全部見たはずなのに……」
「マッピングが使えたらな」
だがわかったことがある。
この第六階層にはペリュトン1匹しかモンスターがいない。
上への大階段のみで、下への大階段が見つからない。
「私たちがここへ上がって来たときの大階段は見当たらなかったわね」
「消えちゃったね」
俺たちは閉じ込められてしまった。食料はペリュトンの骨付き肉を食べればどうにかなりそうだ。しかし、飲み物がほとんどない。あるのは仁子さんが持っている中級ポーション2本だけだ。
あまり焦って走り過ぎると汗をかいて、体内の水分を沢山失ってしまう。
俺たちは慎重に上への大階段に向けて歩いた。
「また上ってみよう!」
「そうね」
一歩一歩階段を踏みしめながら、俺たちは上の階層を目指した。
出た先は、やっぱり第六階層だった。
ここで諦めるのはまだ早い。
「今なら下への大階段があるね」
「下りてみましょ!」
この状態で大階段を下りたら、どうなるのだろう?
早速、行動に移した。ずっと大階段を上っていたので、その逆をするのは久しぶりの感覚だ。慌てず焦らずに、下りていく。
「もうすぐね」
「六階層以外にお願いします!」
そこは……第六階層だった。俺たちは完全に閉じ込められたようだ。
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