第21話 ニブルヘイム
日曜日のダンジョン探索は楽しかった。
氷魔法のリングと魔ポーション(小)をクラフトできたし、言うことなし!
そして、あっという間に月曜日。学校の休憩時間。
俺は教室でスマホの画面を見ていた。
自動化したアイテムの販売状況を確認中。
やばっ!
取引した素材を即座に自動クラフトするので、初級ポーションが鬼のように量産されていた。
それでも需要は留まることをしらない。
増えたり、減ったりと在庫の上下動が半端ない。ナイアガラのように在庫が減ったと思ったら、一気に急上昇……。
蘇生のペンダントと魔ポーション(小)もかなり売れている。
その2つに比べても、素材を手に入れやすい初級ポーションの方が圧倒的だった。
もうこれらのアイテムは……ダンジョンのインフラと化しているように思えた。
それにしても、6月なのに教室は真夏のような暑さだ。
温暖化の影響なのだろうか……。
教室のエアコンは古くて、冷房が上手く働いていないようだった。
見回すと、クラスメイトたちは項垂れていた。
なんとかならないものかな……あっ。
ピコーン!!
頭の中で閃きの音が鳴った。
これは氷魔法のリングの出番じゃないか。
俺はアイテムボックスからそれを取り出して、指にはめた。
そして、小声で魔法を唱える。
「……ニブルヘイム」
教室が一瞬にして凍りついた。冷凍庫にいるような感覚が襲う。
「なになになに、寒いんですけど」
「急に寒っ!」
「何が起こったんだ。めちゃ寒いって」
「エアコン、効きすぎ!」
「やっぱこのエアコン壊れているわ」
極寒の地と化した教室でクラスメイトたちが騒ぎ始めた。
や、やり過ぎてしまった!
魔法の出力を落とすイメージで発動させてみたけど、上手くいかなかったようだ。
とりあえずエアコンのせいになったので、問題なし。
しばらくすると教室に暖かさが戻ってきた。そして次第に蒸し暑さに変わっていく。
「暑っ、今度はまた暑くなった」
「なんなの」
よし、今度こそ快適なニブルヘイムをクラスメイトたちにお届けするぞ。
アイテムボックスから魔ポーション(小)を取り出して飲み干す。
これで魔力全回復。俺はまた小声で魔法を唱える。
「……ニブルヘイム」
それは裸で雪山の上に立っているような寒さだった。
「まただ!」
「どうなっているのよ! 寒いっ」
「暑くなったり、寒くなったり……今日はどうなっているんだ!」
「先生にエアコンの修理するか、交換するか頼もうぜ」
「凍死するかも」
「寝るなっ、この寒さで寝たら死ぬぞっ!」
まずいまずい。
どうしても爽やかな涼しさに程遠い。
まだ熟練度が足りないから、上手く扱えないのかもしれない。
これ以上、クラスメイトたちを練習台にしないほうがいいだろう。
残念だ。ニブルヘイムによるエアコンの夢は絶たれてしまった。
それでも、今回のニブルヘイム・エアコン(失敗)によって、教室のエアコンが交換されることになった。
結果的に良い方向に行ったので狙い通りである。
******
家に帰った俺は、すぐに納屋に向かった。
氷魔法のリングを指にはめて、ニブルヘイムを発動!
う~ん。
やっぱり上手くコントロールできない。
納屋が冷凍庫になっているし。
今週の日曜日に、アリスとリオンと一緒に新宿ダンジョン探索だ。
その前にはニブルヘイムを使いこなしたい。こんな状態のニブルヘイムを発動したら、他の探索者に迷惑をかけてしまいそうだ。
それなら今日のダンジョン探索の目的は、アイテムクラフトとニブルヘイムのコントロールだ。
となれば、ニブルヘイムを使っても影響があまりないところが良いな。
俺の中で思い当たるのは一つだけ。
「沖縄ダンジョンへ行くぞ」
ここは火山ダンジョンと呼ばれている。
内部は高温で、防火装備が必要なことで有名だ。
それでも汗を大量にかいてしまうため、サウナダンジョンなんて揶揄されていた。
煮えたぎるマグマ。
それが間近に流れるダンジョンでなら、ニブルヘイムを使っても良い感じ温度に中和されるかもしれない。
しかも、今回のダンジョンはなんと第十階層まである!
今までのダンジョンが第三階層だったから、三倍超えの規模だ。
所謂、中級ダンジョンだ。
とうとう俺も初心者を卒業して、中級者の仲間入りを目指すのだ。
チャンネル登録数も只今78人! 順調に増えているし、良い感じ。
こっちも目指せ100人だ!
装備を整えて、ダンジョンポータルを沖縄ダンジョンへ繋ぐ。
「よしっ、繋がった」
ポータルが黄金色の光へと変わった。
いくぜ、沖縄ダンジョンへ!
俺は勢いよく飛び込んだ。
「あちちちちっ」
沖縄ダンジョンは思いの外、熱かった。
息をするだけで、喉が火傷しそうだ。
ゲート付近でこの熱気。奥に進めば、こんがり焼き上がるかも。
「とりあえず、ニブルヘイム!」
極寒の地よ、いでよ!
攻撃対象はモンスターだけ。自分を中心に半径10M展開。
「寒っ! やり過ぎた」
気合を入れてのニブルヘイムだった。
熱々の沖縄ダンジョンが冷々になってしまったぜ。
こんな無茶をしても大丈夫なのが、このダンジョンの良いところだ。
なにせ、防火装備が必要なことや、硬いモンスターがいることで、途轍もない不人気ダンジョンだからだ。
ゲート付近でニブルヘイムを使っても、迷惑になる探索者がいない。
見た所、俺の貸し切りダンジョンといっても過言ではない。
まずは準備体操だ。イッチニー、イッチニー。
体をほぐしていると、アプリから通知が来た。
待ってました、新たなレシピ!
◆水炎魔の鎧の素材
・フレイムタートルの甲羅 ✕ 200
・ミスリル ✕ 100
・水獣の玉 ✕ 1
やった鎧だ! スタンダードアーマーが替えどきかなと思っていたから、丁度いい。
水と炎という文字から、その属性の耐性があるかもしれない。
そうだとしたら火山ダンジョンにはもってこいのアイテムだ。
水獣の玉はクラーケンを倒したときにゲットしている。
ミスリルも在庫は確保できる。蘇生のペンダントの自動クラフトの設定を変えて、ミスリル100個は残すようにした。その内に溜まっているだろう。
あとはフレイムタートルの甲羅を200個だ。
先程から、離れた場所をのっしのっしと歩いている亀。
マグマのように真っ赤に燃えるような甲羅を持っていた。
それではアプリの録画開始!
「今日は沖縄ダンジョンに来ています。とても暑いです。見てください、向こうの方ではマグマが川のように流れています。マグマダイブしないように気をつけて行こうと思います!」
落ちたらあの世行きだから本当に気をつけないと。
「アイテムクラフトは、水炎魔の鎧です。素材はフレイムタートルの甲羅を200個、ミスリルを100個、水獣の玉を1個です。ミスリルと水獣の玉がありますので、フレイムタートルの甲羅を集めます!」
ニブルヘイムの熟練度を上げながら、フレイムタートル狩りだ!
では魔ポーション(小)を飲んで、
「全力ニブルヘイム!」
極寒の世界を展開する。周囲にいたフレイムタートル20匹が一瞬にして凍りついた。
凍ったフレイムタートルに近づいて、ミスリルソードで突くと砕け散った。
「氷魔法のニブルヘイムは、フレイムタートルに効果抜群です」
ニブルヘイムで辺りを冷やしながら、フレイムタートルも狩れる。
一石二鳥だな!
大変なのは周囲に散らばったドロップ品を集めるくらい。
どんどん狩るぞ! 快適な鎧を手に入れるのだ!
魔ポーション(小)を飲んで、俺はダンジョンの奥へ進んでいく。
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