第57話 グランドワーム

 でっかい芋虫――グランドワームを倒すために残された時間は5分。

 毎秒50から60発で投げつけられるミスリルソード。その圧倒的な威力を前にして、1分もかからずにグランドワームは体を穴だらけにされて、ドロップ品に変わった。


 現代兵器も真っ青な威力だった。

 仁子さんが投げる速度とミスリルソードが超重量級の金属なのも相まって、ミサイルのように見えてしまった。


 俺は発射に使ったミスリルソードをサッと回収する。

 そして、グランドワームのドロップ品は、大地の息吹という土色に輝くクリスタルだった。


 仁子さんはミスリルソードのポイポイ祭りにテンションが上がっていた。


「これめっちゃ面白い! 超高級武器を投擲する背徳感がまたいい! まだ投げ足りないくらい」

「落ち着いて、もうグランドワームは倒したからね」


 第5階層の強敵と思われるグランドワームも仁子さんにとっては、投擲の的に過ぎなかったようだ。

 本来なら、グランドワームの強酸や強毒によって、戦いは大変な苦労を強いられるはず。


 グランドワームがなにかをしようとしていた。だが、俺たちはその前にミスリルソードをこれでもかと、ぶっ刺してしまった。何もできずにグランドワームは、ドロップ品に早変わりだ。


 LIVE配信なら、もう少し見せ場を作っても良かったが、今回は制限時間もあったし、仕方ない。


 アプリからクエスト達成の通知が届いていた。

 そして、新しいレシピも手に入れることができた。


◆インゴット生成機の素材

 ・大地の息吹 ✕ 1


 インゴット生成機!?

 なんだこれは……とりあえず、鑑定で調べる。


 おおおっ……なんと今まで手に入れた金属系の素材を、ノンコストで自動生成してくれるようだ。

 一時間に一つだけ生成できる。


 俺の手に入れた金属素材は、魔力を帯びた金とプラチナ、ミスリルだ。


 それが定期的にランダムで手に入るようになるみたいだ。


 では、早速アイテムクラフトだ。

 土色に輝くクリスタルを地面に置いて、クラフト開始!

 光の粒子になって形を失い、新たな姿――インゴット生成機が現れた。


 仁子さんは興味津々でインゴット生成機を見ていた。


「またメカメカしいものをクラフトしたわね」

「これで金属素材をノンコストで手に入れられるようになったよ」

「えっ!」

「まあ、今まで俺が手に入れた金属素材に限定されるけど」


 仁子さんには、これで一生お金には困らないわねと言われてしまった。


「そうだ。魔力を帯びた金塊が手に入ったら、仁子さんに渡すね。それでグランドワームの報酬の折半でいいかな」

「あの大きな金塊! 1トンもあるから、十分過ぎるくらいね。ありがたく受け取るわ。タルタロスギルドも喜ぶと思う」


 ギルド運営には、信じられないほどの大金がかかるという。そんなギルドの希少な人員であるS級探索者の仁子さんが俺のためにいろいろと世話を焼いてくれている。


 ちゃんと俺からも誠意をみせないといけないと思ったのだ。


「また金塊が必要なときは言ってね。どんどん増えていくと思うから」

「……八雲くんは末恐ろしい男になりそうね。札束ではなく、金塊で人……いや国を動かしそう」

「国!? それは言い過ぎだよ」

「そんなことはないわよ。ギルドがここまで世間的に認められるようになったのは、お金の力が大きいの。いろいろな業界の有力者と協業したり、政治家を支援したりしたから、今のような地位が与えられているの」


 今の時代、ギルドと関わりのない業界人や政治家は珍しいというほどだという。

 仁子さんもギルド長の娘ということもあり、社交の場に同行するみたいだった。


「八雲くんがその気になったら、いつでも言ってね。君に会いたいって人はたくさんいるから」

「俺を利用したいって人はお断りかな。大人の世界は俺にはまだ早いような気がする」


 そう言うと仁子さんに笑われてしまった。


「君を利用しようとする人はいるかもしれないけど、そこはギブアンドテイクよ。注意すべきテイカーね」

「駆け引きは苦手なんだよな」

「八雲くんって真っ直ぐだからね。そこは経験を積んでいくしかないわ」


 高校生の俺が、業界人や政治家と渡り合えるとは、とても思えない。希望としては、もっと大人になってからにしたいところだ。


 それでも、仁子さんが言うように場数を踏んでおいた方が良い気がする。まあ、そのようなタイミングは今のところないけど、機会があったら飛び込んでみるのもいいかもしれない。


「大人の世界に行くときは、オブザーバーを頼んでいい?」

「仕方ないわね。手取り足取り教えてあげるわ」

「ありがとう! ほら、公安の人とかやってきて、いろいろあったし。これから、どうなるんだろって思っていたから安心した」

「ダンジョン神なんだから、しっかりしないとね」


 いつの間にか……ダンジョン神に祭り上げられて、その呼び名がいつになった板につくのだろうか。

 まあ、神になる気などまったくないけど、俺がクラフトしたアイテムが探索者に喜ばれるのは一番嬉しい。


 インゴット生成機をアイテムボックスにしまった。この状態でもちゃんと生成は続けているようだ。

 出来上がった金属素材は、そのままアイテムボックスに収められるわけだ。めっちゃ使い勝手の良い生成機だった。


「どうする。仁子さんはお父さんに会ってから帰る?」

「う~ん、できればそうしたいけど、八雲くんは時間は大丈夫?」

「思いの外早く、片付いたから大丈夫だよ」

「なら、どっちが早く到着できるか、競争しよう!」

「いいね」


 第五階層から第一階層にあるタルタロスギルドのキャンプ設営地へ、レッツゴー!


 ダンジョンを駆け抜けるのは結構楽しいから好きだ。

 モンスターという障害物をかいくぐりながら進むのだ。


「じゃあ、位置についてよ~い、ドン!」


 俺はステータスをギア5で全力疾走。

 それに合わせてスピードポーションを仁子さんと一緒に飲んでいる。

 もう俺たちの爆走を止められるモンスターはいなかった。


 ダンジョン探索は行きよりも帰りがつらいと言われる。

 しかし、俺たちは逆だった。

 じっくり探索を楽しまずに、速さのみを追求した帰りは、驚くべきものだった。

 10分もかからずに、タルタロスギルドのキャンプ地に戻って来られた。


「同着だったわね」

「仁子さんにまだ余裕があったように見えたけど……」


 さすがはS級探索者だ。底が知れない。

 仁子さんと一緒にキャンプ地の中へ踏み込んでいく。

 そして、彼女はギルドの幹部らしき人と話して、父親の場所を聞いていた。


「会議中みたい」

「なら、出直したほうが良いかな」

「大丈夫よ。ダンジョン神が来たといえば、会議なんて中断だから」

「そんなに影響力が強いんだ」

「だから、ほら胸を張って!」

「こんな感じから」

「もっとこうよ!」


 仁子さんに姿勢を正してもらっていると、ギルド長たちがやってきた。

 キャンプ地にいる全員でお出迎えのようだった。


「八雲くん、すまんな。皆が一目君を見たいと言って聞かなかったのだ」

「ご無沙汰しております、片桐さん。販売ゴーレムでスピードポーションを売出しておりますので、良かったら使ってください」

「おおっ、それは助かる」

「あと、第5階層までマッピングです」

「これまた助かる」


 ギルド長とSNSを交換して、マッピングデータのやり取りをしていると、仁子さんが割って入ってきた。


「ちょっと! 可愛い娘が戻ってきたのに、そっちのけで何をやっているの! パパ!!」

「すまん、すまん」


 放っておかれた仁子さんはご立腹だった。

 せっかく、父親に会うために第5階層から爆走してきたのにこの扱いなら、怒っても仕方ない。


「パパたちは探索再開の目処はたったの? 早くしないと私たちが最下層まで行っちゃうよ」

「それでは儂らもここに来た理由が、八雲くんのアイテムを買うためだけになってしまう。ちゃんと探索をするよ。そのために最終会議をしていたんだ。あと一時間後には出発する予定だ」

「なら、いいけど。第5階層は気をつけてね」

「脱出不可能のトラップか。八雲くんのマッピングでどうにかなりそうだ」


 ギルド長は俺にグッジョブをした。

 それに対して仁子さんはため息をつく。


「しっかりしてよね、パパ。本来なら先行しているパパたちが、マッピングをくれる方が正しいのよ」

「儂らと、八雲くんでは戦力差があり過ぎるからな。消耗した武器の調達にどうしても時間がかかるんだよ」

「そうなんだ」


 仁子さんは武器を持たない殴り系だからな。

 あっそうだ。武器ならたんまり持っているぞ。


「あの良かったら、このミスリルソードを使ってください」

「いいのかい!? こんなにも」


 俺はミスリルソードを100本ほどタルタロスギルドに献上した。


「素晴らしい……純度100%のミスリルソードか!? なんていう加工技術だ。本当にいいのかい?」

「ええ、まだたくさんありますから」

「これで武器の消耗の問題は解決しそうだ。ありがとう、ダンジョン神!」


 めちゃくちゃタルタロスギルドの人たちに喜ばれてしまった。

 耐久性がとても高いミスリルソードなら、ギルド長の悩みの種も解消されるだろう。

 第一階層のモンスターであるメタルスライムはかなり硬い。他の階層のモンスターも、高い硬度を持ったものばかりだ。

 俺の魔剣フランベルジュは焼き斬るから、そのことを感じさせなかった。だが、モンスターのステータスを思い出してみると、ギルド長の言ったことは納得だ。


「今日はこれで帰ります!」

「パパ、私も帰るね。6階層くらいは攻略は進めてよね」

「ああ、また明日!」


 タルタロスギルドの探索者たちが、販売ゴーレムから買ったスピードポーションを飲んで、その効果に驚いていた。

 そんな彼らも俺たちの帰りに気が付いて、見送ってくれる。


 俺と仁子さんは、『帰還』で納屋に戻ることにした。

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