第56話 クエスト
相変わらず入り組んだ迷路のような階層だ。
モンスターが見当たらないのも、この前、訪れたときと同じだった。
そして、響き渡る地響き。何か巨大なものが体を引きずりながら移動しているような音。
俺たちがいる大階段からはかなり離れていることだけはわかる。
「罠が多いから気をつけないとね」
「嵌った本人に言われると説得力がすごい」
「あのときは完全に油断したわ。八雲くんが助けに来てくれなかったら、どうなっていたことやら」
仁子さんは閉じ込められたときのことを思い出したのだろう。上の階層よりも、気を引き締めている感じだ。
俺も気をつけよう!
第5階層のマッピングは、仁子さんたちを助けるまでの道筋は終わっている。
地響きはそれとは逆方向から聞こえてくるので、前回のマッピングは役に立たない。新たな道を新規開拓するのだ。
「では、探索を開始するよ。目標は地響きの原因解明!」
「おう!」
仁子さんの元気に良い返事と共に、俺たちは歩き出した。
それにしても、モンスターのモの字もないな。
荒削りのようなゴツゴツした岩肌の壁に、光りを放つ花々が咲き乱れている。
このような植物は見たことがないので、知床ダンジョン固有のものだろう。
鑑定で調べてみると、なんと毒を持っていた。
それも触れただけで、死に至る猛毒だった。
「仁子さん、あの花には触らな……えっ!?」
「どうしたの? 見て、この花! 綺麗ね」
仁子さんはガッツリと毒花を手に持っていた。
でも、効いている様子はない。
俺は慌てて、彼女に事情を説明して、毒花を捨てるように言った。
「なんともないけど、八雲くんがそういうのなら」
少し残念そうに仁子さんは毒花を元あった場所にそっと戻した。
俺はアイテムボックスから飲むために用意していた水筒を取り出して、彼女の手を洗う。
「毒くらい平気なのに、大袈裟だよ」
「いやいや、仁子さんが平気でも、俺はそうじゃないから」
もし、毒花を触った手が俺に当たったら、昇天してしまうかもしれない。俺は仁子さんほど丈夫ではないのだ。
仁子さんは得心がいったようで、頷いていた。
「八雲くんも強いから、私と同じ感覚になっちゃった。以後気をつけるわ」
「うんうん、俺はメルトで自滅するほど、ひ弱なんだからさ」
「君なら、その内克服できそうだけど」
「クラフトアイテム頼りかな」
ステータスが上昇すれば、必然的に炎魔法メルトの威力も高まる。なので、ステータスではどうにもならない。
新たなクラフトアイテムによって、解決するしかなさそうだ。
それにしても、俺が持っているスマホはとても丈夫だ。
沖縄ダンジョンでメルトで焼き尽くされても、無傷だったし。
このスマホは何らかの加護を得ているのだろうか。
俺がスマホとにらめっこしていると、アプリから通知が届いた。
『限定クエスト』
『知床ダンジョンの第5階層にいるモンスターを討伐してください。注:途中で帰還するとクエストは棄権とみなします』
『成功報酬として、新しいレシピが手に入ります』
限定クエストだって!?
初めて見る通知に、俺は驚いていた。
しかも、時間制限がある。
あと30分以内にモンスターを倒さないといけないようだ。
この階層にはモンスターが見当たらない。それでも討伐を依頼してくるのだから、あの地響きはモンスターの仕業なのかもしれない。
限定クエストの新しいレシピか……是非とも欲しい!
きっと特別なものだろう。
後は、パーティを組んでいる仁子さんの了承を得る必要がある。
「仁子さん、予定を変更してもいい?」
「どうしたの?」
「実は、この階層にいるモンスターを倒したら、新しいクラフトのレシピが手にはいるんだ」
「すごいじゃん! ここにいるモンスターといったら……」
仁子さんは地響きがする方角を見た。
どうやら彼女も俺と同じ考えのようだった。
「制限時間があって、30分なんだ」
「それなら急がないと!」
「問題は、トラップかな」
「えっ、普通のトラップなら踏み抜いて行けばいいし、閉じ込められたら、八雲の帰還を使えばいいじゃない?」
普通のトラップを踏み抜くのは、とりあえず棚上げしよう。なぜなら、仁子さんが踏み抜いた後ろを歩けばいい。
問題は彼女が言った後ろのことだった。
「帰還を使ったら、レシピが貰えなくなってしまうんだ」
「それは大変かも」
この階層はトラップが多い。
慎重に進めば、おそらく30分以内に地響きの原因にたどり着けないだろう。
そうだからと言って、急げば脱出不可能なトラップに嵌ってしまう恐れが大いにある。
「考えていても時間がもったいないわ。行くわよ、八雲くん!」
「どうする気?」
「私が突き進むから、八雲くんは後ろに。もし私が身動きが取れなくなっても、救出は後でいいからね」
そう言って、仁子さんは加速した。
速いっ! 付いていくのが精一杯だ。
このスピードならトラップが発動しても、通り過ぎているだろう。なんて思っていたら、トラップはしっかりと仁子さんを捉えて攻撃してきた。
下から沢山の槍が飛び出してきた。
仁子さんはそれを一瞬で薙ぎ払う。
「大したことないわね」
「マジか……」
俺だと躱せたか怪しいトラップだった。
それからは、矢は飛んでくるし、大岩が降ってくるし、落とし穴があるし、毒ガス攻撃はくるし……トラップの詰め合わせだった。
トラップを突き抜けたこともあり、地響きの発生源までかなり近くまでやって来られた。
あともう一息のところで、仁子さんが急に立ち止まった。
「待って、嫌な感じが」
「まさか……脱出不可能のトラップ?」
「この先から空気が違う。この前に嵌ったときと同じ匂い」
俺も仁子さんのように、くんくんと嗅いでみた。
さっぱりわからない。いつものちょっと湿ったカビ臭い匂いだった。
「もうすぐだけど、ここは回避しましょう」
「わかったよ。仁子さんに先導を任せているし」
「じゃあ、引き返えそう!」
この先がトラップだったのかは、時間があるときにでも確かめればいい。
俺はここまで脱出不可能トラップを回避してきた仁子さんを信じるのみだ。
彼女の勘は冴えていた。これは野生の勘のようなものだろうか。大丈夫なトラップとそうではないトラップを匂いで嗅ぎ分けていた。
そして、俺たちは地響きの発生源に辿り着いた。
「マジかよ……キモっ」
「キッショ! 私……戦いたくないんですけど……」
「俺だって……」
こんなどデカい芋虫と戦いたくはない。
何を食べたらあんなにもまるまると太るんだよ。
頭の方に回ってみると、光る毒草をむしゃむしゃと食べていた。それってそんなに栄養価が高いのか!?
「八雲くん、どうやら毒草よりも、私たちがお好みのようよ」
どデカい芋虫は毒草を食べるのをやめて、俺たちに顔を向ける。そして大量のよだれを垂らした。
そのよだれが地面に落ちると、大量の煙が発生した。
地面が……溶けている。
鑑定で調べると、ステータスは大したことない。
しかし、体液は強毒と強酸だった。
下手に傷つけると体液を浴びかねない。
「仁子さん、体液に気をつけて! 強毒と強酸だ。残り時間はあと5分。全力で行くよ!」
「体液は浴びたくないな……キモいし。そうだ、あれ貸してよ」
仁子さんが言うあれとは、大量のミスリルソードだった。
「八雲くんが無限投擲をしているのを見て、私もやってみたかったんだよね」
俺は仁子さんにミスリルソードを装填する係となった。
準備完了! いつでも発射できる!
「マシンガンのようにミスリルソードを投擲するわよ。うまく連携してね」
「了解!」
俺と仁子さんの共同作業。
ミスリルソードマシンガンが始まろうとしていた。
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